第2話 裏切られた
二人に追いつくと、そこには学校から少し離れた場所で仲良く手を繋ぎながら歩く二人の姿があった。
なぜ二人が手を繋いでいるのだろうか。
誰が見てもわかる状況なのに僕は疑問に思ってしまう。
僕と唯奈は高校に入ってからは手を繋がなくなった。理由は一緒にいるときの周りの目が気になるから、だそうだ。
でもそんな見た目にしたのは唯奈なんだけどな。なら一緒に登校しなければいいのにと思ったがそうではないらしい。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない、いいから早く繋いでいる手を放せよと少し苛立ってしまう。
すると、ふと二人が立ち止まり、唐突に男子が唯奈に告白し始めたのだ。
「なぁ唯奈。俺お前のこと好きなんだよ。あんなキモイ陰キャじゃなくて俺と付き合ってくれよ。」
「え~うーん。私はでも涼と…。」
「いやいや、幼馴染だからってずっと一緒にいる必要なくね?それに、あいつよりも俺の方がかっこいいと思うぜ?」
こういう状況は何度も見てきた。だからもちろん断るはずだ。
「それもそっか。うん!じゃぁ私涼と別れるよ!よく考えれば健司君の方がかっこいいし、実は手を繋いだときからすごいドキドキしてたの!」
は?
なんだよ、それ。嘘だろ唯奈。
俺はなんのために今まで目立たないよう努力してきたんだよ。
「じゃぁ今日から唯奈は俺の彼女な!早くあいつと別れろよ!」
「わかった!今日帰ったら電話で振っておくから!」
「頼むぜ?なぁ唯奈、目瞑ってくれよ」
唯奈は男子の言う通りに目を瞑り、そのままキスをし始めた。
それを見た俺は今すぐに飛び出して殴り掛かりに行きたかった。でも足は動かなかった。
見たくないと思いつつも、その光景から目を離せないでいた。
キスをされた瞬間、唯奈は最初は驚いた表情をしていたが、すぐにそれを受け入れて、二人はたっぷりキスをすると、そのまま歩きだして家に帰っていってしまう。
その場に取り残された僕は自分の中の何かが壊れた気がした。
そうか僕は唯奈に裏切られたんだな。
今まで唯奈のためならなんでもした。
目立たないために手を抜いたし、見た目だって唯奈の言う通りださい見た目にしていた。
手を繋がなくなってもそれは僕を周りからいじめられないようにするためだと言っていたからその言葉を信じていた。
だから僕はそれでもいいと思っていたのに。
俺はその場にしばらく立ち尽くしたあと、ふらふらと自分の家へ帰った。
♦♢♦
「あれ。お帰りお兄ちゃん。またそんな髭のシールつけてるの?早く外しなよ〜。……ねぇお兄ちゃん聞いてる?」
家に帰ると妹の綾香が出迎えてくれた。
「え。あぁ。ただいま綾香。そうだな。」
prrrrrr…
はぁ。もうかかってきたのか。
「お兄ちゃん。電話だよ。どうせ唯奈さんからじゃない?早く出た方がいいよ~」
そう言って綾香はリビングへと戻る。
「あぁ。すぐでる。」
俺はわざとスピーカにして電話に出る。
『もしもし涼?なんですぐでないのよ。』
「ご、ごめん。今帰ってきたばかりで綾香と話してたんだ。」
『ふぅん。まぁいいわ。言わなきゃいけないことがあって、あたし月曜から涼と一緒に行かないから。』
やっぱりその話か。俺は僕として焦るふりをする。
「え…どうしてなの。なんか用事でもあるの?」
『違うわよ。私今日から別の人と付き合うことにしたの。だからこれからはその人と一緒に行くのよ。つまりあんたとはもう別れるってこと。』
「な、なんでだよ!いきなり別れるだなんて、どういうことなんだよ!」
俺は急にそんなことを言われて焦ってキレるという演技をする。
『あぁもう。いきなり大きな声出さないでよ。うるさいなぁ。』
「ご、ごめん…」
『あのね。そんなわかりきったこと言わないでよ。涼は別にもうかっこよくもなんともないし一緒にいてもドキドキしないのよ。だから健司くんと付き合うことにしたの。はぁ。なんであんたと付き合ってたんだろ。もう切るからそれじゃね』
「ちょっと…ま」
ブチっ
ツー―ツーーー
俺は電話が切れた後呆然と立ちつくすように振舞う。
すると、リビングから綾香が顔を出してこちらに近寄ってきた。
「お兄ちゃん。ごめん電話の音聞こえちゃった…唯奈さんと別れるって…ってかひどいよ!!!お兄ちゃんは唯奈さんのためにダサい格好してきてたのに…それを!!!」
「あははははは!!!!!!」
俺は笑いが抑えられなくなって大声で笑ってしまう。
綾香は驚いた表情で俺を見つめていた。振られて頭がおかしくなったようにみえるだろうが、俺はいたって正常だ。
「あ〜おもしろ」
「お、お兄ちゃん??」
「あぁ、悪いな綾香。聞いてた通り兄ちゃん振られちゃったみたいだ。」
笑いながら、付け髭のシールを外し眼鏡をとって髪をかきあげる。
「それは電話が聞こえてたから知ってるけど、なんでそんな平気そうなの?急に笑い出すし…。唯奈さんのためにあんな格好してたくらいだからショックじゃないの?」
綾香は心配そうな顔で聞いてきた。
今まで幼馴染のために努力していた兄の様子がおかしくなってしまったから気になっているんだろう。
「あぁ。それなんだけど、すでにショックを受けてきたところなんだよ。だから今は何ともないさ。」
「ショックを受けてきたってどういうこと?」
綾香はどういうことかわからなかったようなので、さっき起きたことを教えてやることにした。
「今日帰りに俺と帰らずに別のクラスの男子と待ち合わせて帰ってたんだ。怪しく思ってついて行ってみたんだけどな…あいつ何してたと思う?」
「俺じゃない男と『キス』してたんだよ。」
綾香は言葉を失い、なぜ兄がその出来事を楽しそうに話しているのかがわからないような困った表情をしていた。
「そんな顔するなよ。実際ショックは受けたけど、思ってたよりも大丈夫みたいだし。それより、今までなんであんな要求受け入れてたんだよって、ようやく目が覚めたわ。まったく情けないったらありゃしないな。」
俺は伸びきった髪をうっとおしく思いながらも口にする。
さっきのキスをみてから、俺の中で唯奈に対する好意的な感情はすべてなくなってしまった。
今の俺にあるのはあいつが俺を捨てたことを、どう後悔させてやろうかということだけだった。
別に不幸にしてやるとかそういうものではない。他のやつと幸せになるならそれでいいと思っている。というより勝手にやっとけって感じだ。
ただ、今の状態を作ったくせに他の男に靡いたあいつが無性に腹立たしかった。
とことん矛盾した考えに呆れ、はぁ。と溜息をつくと綾香が俺の頭を優しく撫でてくれる。
「ありがとうな、綾香。こんなダメな兄ちゃんを見捨てないでくれて。」
「いいんだよ。お兄ちゃんがこうなったのも全部あの人のせいなんだし。そこまで一途に想ってたってことでしょ。……ずるいなぁ。」
別にそういうわけじゃないけど、綾香すらあいつの名前を呼ばなくなってしまったか。最後が聞き取れなかったがなんて言ったんだろう。
「なぁ、最後聞き取れなかったんだけどなんて言ったんだ?」
「っ~!なんでもない!!」
プイっと顔を逸らしてリビングへと行ってしまった。
なんだったんだ。
まぁでもこんなダメ兄貴をずっと受け入れてくれてたなんて、本当にいい妹だよな。
またなんか好きなものでも買ってやるか。
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