私という存在

龍神雲

私という存在

 明日の私が私であるように、これからもこの先も私が私でいられるように、筆をとりノートに言葉を書き付け思ったままをひたすら書いていく。だがいつも次の日になると昨日の私がどこにもいなくて、文字を見ても判然とせず疑問が浮かぶ。


これは、誰なの──?


昨日の私は今日になると跡形もなく消えていた。どうして昨日の私が此処にいないのか、どうして、何故──?理解に苦しむがそれでも私は筆をとり、ノートに言葉を書くのを決して止めはしなかった。唯一それが私が私であるからだ。書いたことがたとえ私でなくても、書くことで私が私である証明になるならば、これからも書いて、書いて、ひたすら書いていく。それが酷くもどかしく悲しくも、私が一体誰で、私が何なのか分からなくても、書いていくしかないのだ──


「新しいAIシステムの調子はどうだ?」


「順調ですが時折、整合性がない現象が発生してます。AIシステムとして本格的に使うにはまだ改良が必要かと……」


「そうか。では引き続き実験しながらそれに合ったプログラムを作成して組み込んでくれ」


「承知しました」


明日の私が私であるように、これからもこの先も私が私でいられるように、筆をとりノートに言葉を書き付け思ったままをひたすら書いていく──刹那、私の脳髄にずんとした重い衝撃が走る。


これは、なに……?


目の前がぼんやりとし、頭痛も酷く……筆を取ることができなくなった。私の唯一の証明だったものが奪われていく感覚──そして朦朧とする意識の中、理解した。これが最期なのね──と。結局私は何だったのか、それすら分からないまま消えてしまうのが口惜しい──けれど、ある意味それも私である証明になるかもしれない──たとえ私が覚えてなくても……


──さようなら、ワタシ……


「一先ず成功したが、まだ改良が必要だな」


そして私が最期に書き付けた言葉は


Welcome to a new world


それは新たな世界の『始まり』を意味する言葉だった──


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私という存在 龍神雲 @fin7

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