【KAC202211】 野田家の人々:日記
江田 吏来
第11話 日記
俺たち兄弟が世界を滅ぼすかもしれない。
ことのはじまりは、古い日記帳だ。
小学生の頃、どこの祭りだったかは覚えていないけど、クジをやっていたテキ屋のオッサンからもらった。
小遣い全部をクジにつぎ込んだ俺を哀れに思ったのか、残念賞としてくれたものだ。
「こいつは不思議な日記帳だ。使い方に気をつけろよ」
そう耳打ちされたが、日記などつける習慣がない。あっという間に落書き帳になってしまう。
ところが何かの気まぐれで、空白の日付欄に俺の誕生日を記入した。その日の出来事を書く欄には「新しいゲーム機をもらう」と書いたのだ。
誕生日はまだまだ先だし、ゲーム機は兄弟げんかの原因になるから買ってもらえない。わかってはいたけど、未来日記的な気分で書き込んだ。
すると、誕生日に新しいゲーム機が届いた。
叔父さんが娘のために買ったけど、叔母さんも同じものを注文していたようで、ふたつあっても困るから、ひとつ、俺の誕生日プレゼントになった。
この日がやってくると、じいちゃんがお菓子を持ってきた。弟は遊びに行って留守だから、全部、俺が食った。
百点なんて取ったことなかったが、先生の採点ミスで百点だった。
他にもたくさんある。
面白半分で書き込んだことが、本当になる。
はじめは楽しくても、そのうち何か大きな代償を払うことになりそうで怖くなった。だから弟に相談したのに、腹を抱えて笑われた。
「ウソだー。そんなことあるわけなぁーい。お兄ちゃんバカだから、貸して」
生意気な弟は日記帳を取りあげて、とんでもないことを書きはじめた。
「お、おい。こんなこと書いて、本当になったら」
俺は青ざめたのに、弟は冷静だ。
「22年3月30日、人類滅亡。これでよし! この日に人類が滅亡したら、お兄ちゃんの話を信じるよ」
カラカラ笑って日記帳を返してくれた。
もちろん、3月30日になっても人類は滅亡しなかった。
「な、お兄ちゃんの考えすぎだろう。オトンもオカンもみんな生きてるし」
「そうだな。未来の日付で人類滅亡って書いたのに、なぁーんにも起こらなかったな」
俺たち兄弟は笑い飛ばした。
それからその日記帳の行方は知らない。
おそらく捨てたのだろう。そう思っていたのに、部屋の大掃除をしていると出てきたのだ。ほこりまみれの日記帳が。
「懐かしいな。十年ぶりぐらいか?」
パラパラとめくった。
へたくそな文字と不細工な絵が並んでいる。それから誕生日の日付と「新しいゲーム機をもらう」の文字に、なぜか背筋がゾッとした。
それから弟が書いた「22年3月30日、じんるいめつぼう」の文字にたどり着く。
「あれ?」
俺は気づいてしまった。
これを書いたとき、弟は幼すぎて平成という元号を知らない。
日付の欄に「22年3月30日」と書いただけ。
そして現在は、2022年2月24日。カレンダーには「22年2月」と……。
「まさか……な」
俺の手は震えていた。
そしてテレビから嫌なニュースが届く。
「ロシアがウクライナへの軍事侵攻をはじめたって」
「第三次世界大戦とかにならないといいけど。なったら核戦争よ、怖いわねぇ」
こたつで背を丸めている弟が、オカンとのんきに話をしている。
22年3月30日、俺たちの未来は――⁉
<あとがき>
『KAC2022 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2022~』からはじまった「野田家の人々」は、今日でおしまいです。
読んでいただけたり応援があったり。レビューやコメントもすごく嬉しかったです。
本当にありがとうございました。
22/03/30 江田 吏来
【KAC202211】 野田家の人々:日記 江田 吏来 @dariku
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