6 何してんだろ・・・・・・一体、俺は
家族が札幌へ引っ越した。いよいよ、一人暮らし。正直、何も不安などなかった。でも、京子ちゃんは必要以上に心配してくれた。ありがたいが、正直うざい。マジで姉のつもりなのか。
一人暮らし初日。俺は、狭くて一日中、日も当たらない部屋で大の字で寝そべっていた。これからは自由だと、履き違えた思いでいっぱいだった。タバコを思い切り吹き出した時、部屋のドアがノックされた。
民宿の主人である親父のおじさんとおばさんにはちゃんと挨拶した。ここで、働いているおばさんたちにも挨拶した。この民宿の離れに住んでいる、親父のいとこにあたる夫婦にも挨拶した。他にも誰かいたっけ?いろいろ面倒くさいな。誰だろう。
「こんにちは」その声にドアを開けて驚いた。
「京子ちゃん!何で?俺ここの住所言ったっけ?」
「この辺じゃ、民宿ここしかないからすぐわかった。入っていい?」
「あっ、どうぞ」俺は体をよけ、彼女を入れた。
「まだ片付いてないけど」「うふ。片付けるほど、物ないじゃん」
確かに。段ボール箱3つに、布団一式。それが俺の全てだった。ダンボールはまだ開けていない。
「何しに来たの?」「手伝い」
「何の?」「引っ越し」
「もう終わった」「だね」
しばし沈黙。俺はタバコに火をつけた。
「ふ〜」煙を天井に向け吐き出した。
「ふ〜」京子ちゃんも真似をして天井に息を吐き出した。
「ぷっ、・・・・ハハハハハ・・・・」二人して笑い始めた。
「ありがとう。でも、何も手伝ってもらうことないや」
「そう見たいね。じゃあ、お昼食べに行かない?」「いいねえ、腹減った」
ここは釧路港にほど近い民宿だった。多分、港から一番近い人が住んでる所だと思う。こんなところになぜ民宿?でもここは駅まで歩いて15分、市街地まで10分という意外に便利な場所だ。市役所なんて徒歩5分。
でも、港に近いので倉庫ばかりで民家は少ない。この民宿は、港に停泊する漁船の乗組員や長期出張のサラリーマン相手の民宿だった。観光客など来やしない。俺はそこの二階の北側の4畳半の部屋をあてがわれたのだ。
「それにしてもひどい部屋ね。日は当たらないし、なんかカビ臭〜い」そう言いながら彼女は窓を開けた。
「えっ!」窓を開けたその前に隣の家の壁。道理でこの部屋暗いはずだよ。
「ひど〜い。もっといい部屋無かったの?」
「多分あるでしょ。でもお袋が言うには、ここのおばさんセコくてさ、俺なんかにまともな部屋に住ますつもりはないみたい。まあ、俺は別にここでも全然OK」「え〜、これなら普通の下宿のほうがいいんじゃない?」
「下宿?俺、その響き嫌い。俺はあくまで一人暮らし」
「は〜、何だか。めんどくさい人ね。本当に、うちに来ない?」「それは無理」「何で?」
「前も言ったでしょ。こんな俺が男不在の滝沢家に入ったら世間体に響くって」「逆に、安心でいいけどな」
「番犬かよ」俺はワンと吠えて、京子ちゃんに噛み付く真似をした。
「番犬かあ、じゃあ、なおさら来てよ。ここより全然いいよ」
「ありがたいけど、ごめん。京子ちゃんと同じ家にいたら過ちを犯しそうだもん」「・・・・そうか」急に気まずくなった。
「そうだ、お昼ご飯」「だったね」
新学期が始まった。毎日単調だった。家族から離れての初めての一人暮らし。でも、別に寂しくも無かった。
朝起きて一階の食堂で一人朝飯を食べ、学校へ30分かけていく。そしてぼーっと授業を受け、部屋に帰る。そしてぼーっとっ過ごし晩飯を食べねる。
勉強なんてしなかった。なんて無駄な毎日を過ごしていたんだろう。周りを見たら部活に燃えてる奴や受験勉強に勤しんでいる奴らばかりだ。でも俺はただ毎日何もせずに過ごした。
そのうち、巻や小坂、大佐が部屋に来るようになった。そして、テレビを見ながらたわいもない話をして、タバコを吸っていた。6時には帰っていく。そんな毎日だった。全くもって無益。不毛。
新学期が始まって2週間ほどした頃だった。3時間目が終わった休み時間、教室の後ろから俺を呼ぶ声がした。
「高和く〜ん」振り返ると、山下さんが手招きしていた。俺は返事もせずに彼女の元へ向かった。
「何?」「滝沢さんが呼んでるよ」「どこ?」「あっち」指差した方へ顔を向けると京子ちゃんが手招きしていた。「ありがとう」俺は山下さんに礼を言って京子ちゃんのところへ行った。
「何?」「これどうぞ」
「何これ?」彼女の両手に乗せられたものを見て言った。
「お弁当」「ん?」
「食べて」「えっ?」「お母さんにね、涼くんのこと言ったの」
そうだ。民宿じゃ朝晩の飯は出るけど、昼はなし。昼飯は購買のパンや弁当だった。クソまずいけど、俺にはこれしかない。
「マジで?」「うん」「悪いよ。やめてよ、こんなの」
「・・・・私も絶対、涼くんそう言うと思った。格好つけだし」
「格好つけってなんだよ!格好いいって言ってよ」
「お母さんにも言ったんだけどさあ。涼くん絶対いやがっるって。でも、持って行けって」
「・・・・そうか。おばさんの手作りか。ありがとう」
「これから、毎日、持ってくるね」「え〜、いいよそれは。手間じゃん」
「私もそう思ったんだけどね。一つ作るもの二つ作るのも一緒なんだって」
「でもさあ、・・・・・。京子ちゃん、持ってくるの面倒じゃん」
「かわいい弟のためなら大丈夫」「本当に?」
「・・・・本当は面倒。さっきのセリフ、お母さんが言ったの。かわいい弟のために持って行きなさいて」
「あら・・・・・。すみません。じゃあ、ありがたくいただきます」
「じゃあ、残さないでね。食べ終わったら持ってきてね。そこまで面倒は見ないわよ。それと明日からは靴箱に入れとく」
「え〜靴箱かよ」「文句ある?」「・・・・いえ・・・・ありません」
昼休みになった。
いつものように、大佐と巻と小坂とで、ストーブの前を陣取って昼飯を食べ始めた。
大佐はいつものように自分で握った特大のおにぎりを頬張っていた。小坂は自分で作った弁当を食べていた。彼の家庭環境は複雑だった。そうであっても別に自分で弁当なんて作る必要もないのだが、彼はそれを毎日していた。巻は母親が作った弁当だった。
そして俺は・・・・、今日から京子ちゃんのお母さんの弁当。俺は可愛らしく包まれた弁当を膝の上に乗せた。
「おっ!なにそれ」目ざとく大佐が言った。
「彼女ができたのかよ」
「そんなんじゃねえよ。京子ちゃんのお母さんがさあ、ひもじい俺を見かねて作ってくれたんだ」
「いいな〜。でも、その包って・・・・」弁当を包んでいるのはキキとララだった。その包みをほどいて俺は目をそらした。
「ぷっ、なにそれ」「キティちゃん?」それは見事なまでにプリティなキティちゃんの弁当箱だった。
弁当はすこぶる、美味かった。ありがとう京子ちゃんのお母さん。でも、キティちゃんって・・・。
それから毎日、キティちゃんだった。俺は一回、京子ちゃんにキティはやめてもらえないって言った。
「なによ、贅沢言わないの!しかも、そのお弁当箱、私が使ってたのよ!ありがたく思いなさいよ」っということで、俺の意見はあえなく却下された。
まあ、毎日おいしい弁当をいただけているのだから、キティちゃんくらいいいか。でも、影でクラスの女子が俺のことをキティちゃんと呼んでいた。
キティちゃん・・・・せめてミッキーが良かった。
日曜、俺は遅めの朝飯を食べ午前中をぼーっと音楽を聴きながら過ごした。前までは古いステレオで大音量でレコードをかけて聞いていたが、さすがにこの部屋には持ってこれないので、テープに録音したものをラジカセで再生していた。
半分眠っていた。その時、部屋のドアがノックされた。
「ん?誰?」時計を見ると13時を少しだけすぎていた。
「大佐かな」立ち上がりドアを開けた。
「ばあ〜」
「どうした?」ジャージ姿の京子ちゃんだった。
「なにその格好・・・・、ああ、部活の帰り?」
「そう。何してるかなあって」「なにもしてないよ」ラジカセからは何回もリバースされて、ビートルズベストが流れていた。
「お昼食べた?」「いや、まだ」
「じゃあ、食べない?」「どこで?」
「港行こう」「港?魚でも釣って食べるのかよ」
「ああ、それもいいかも。なんてね。これ食べよ、天気いいし」彼女は背負っていたリュックからアルミに包まれたおにぎりを出した。
「多めに作ってきたんだ。どうせ暇してるでしょ?」
「暇ってなんだ!。まあ、暇だけど」「じゃあ行こう」
道路を挟んだ向いにある万屋の近藤商店でお茶を買った。
俺がここに住み始めた日から毎日、タバコを買いに来ていた。そのうち馴染みになった。無口な40代前半の店主と、肝っ玉母さんというのにふさわしい30代後半の夫婦で営んでいる店だった。二人の子供の小学生一年生の男の子と、幼稚園児の女の子はいつの間にか俺に懐いでいた。俺は子供嫌いだったが、この二人はとても可愛かった。
「いらっしゃい。タバコ?」肝っ玉かあさんが言った。
「いや、今日は缶のお茶」そう言って店の冷蔵庫からお茶を二本取り出した。
「200円ね。あれ?外にいる女の子、彼女?」肝っ玉かあさんは外で待ていた京子ちゃんを指差した。
「いやいや、違いますよ」「え〜本当?」
「うん。お姉さん」「お姉さん?なに、札幌から来たの?」
「・・・・違うんだ、話せば長くなるから話さないけどさ。姉さん」「よくわかんないけど。毎度」
4月の中旬、いつもなら寒いはずなのだけれども、珍しくこの日は温かかった。
「よかった、温かくて。外で食べるのって好きなんだ」
「悪くなにね、この陽気。あんなカビ臭い部屋じゃな」
日曜だから港はいつもの賑わいはなく、ひっそりとしていた。と言っても、いつもの港の様子、知らないけど。
たくさんの漁船が停泊していた。倉庫と倉庫を走り抜けるリフターも今日は休みなのか、ほっぽり出されたように止められていた。
俺たちは鬼ギロを食べるのにふさわしい適当な場所を見つけた。ボナードと呼ばれる船が流されないためにロープを繋いでおくリーゼントみたいなものだ。せかを船でさすらう船乗りが、片足を乗せパイプを加えながら黄昏ている奴だ。
それに腰をかけた。二人で腰掛けるにはちょっと小さかった。お尻とお尻が触れ合った。触れた京子ちゃんのお尻がプリッとやわらかかったので、俺は即座に立ち上がった。やば。
「どうしたの?」「い、いや」彼女は全然気にしていないみたい。俺は地べたに座った。
「そこでいいの?」「う、うん。そこは京子ちゃん、どうぞ」
「はい」彼女はリュックからアルミに包まれたおにぎりを二つ俺に渡してくれた。
「ありがとう」それと引き換えに、さっき買ったお茶の缶を手渡した。早速、包みを広げおにぎりにかぶりついた。具はおかかだった。
「うま〜い。さすが京子ちゃんのお母さん!」
「そう?じゃあこれもどうぞ」リュックからタッパを出し蓋を開けた。卵焼きとウインナーが入っていた。
「おかずもあるの?ありがとう」遠慮せず食べた。
「うまい!」卵焼きの甘さとウインナーの塩加減が絶妙だった。
「美味しい?」「うん。久しぶりにこんなお美味しいの食べたよ。まあ、毎日のおばさんの弁当も美味いけどね。おばさんに改めてお礼に行かなきゃだね」
「実はね」「なに?」「今日のは私が作ったの」
「げ!まじ?」「うん」
「なんで?」「なんでって、部活が終わった後に食べるためよ。そのついでに涼くんの分を作ったの」
「まじ?・・・・・」俺は感激した。ちょっと目がうるうるしてきた。やっぱり初めての一人暮らし、寂しいのかな。この優しさに感激。
「あ、ありがとう・・・・」俺はうるうるしたので目をそらして言った。「え〜、そんなに感謝されるなんて意外!絶対、まずいとかなんとかイチャモンつけられるかと思った。作ってよかったなあ」
「・・・・ありがとう」恥ずかしいから俺は茶を飲んでタバコに火をつけた。そして誤魔化すように空を見上げた。
「あ〜いい天気だねえ〜」「そうだね」
俺はこっそり彼女の横顔を見つめた。綺麗だった。背中でまとめた髪の毛が栗色に輝いていた。白い肌が太陽の日にさらされていた。その肌は透けるような白さだった。
やばい、好きになりそう。俺は首を振った。お姉さんだもんな。でも小さい頃、大好きだったのにな。
いつものように俺の部屋はタバコの煙が漂っていた。天井近くは白い靄が霞んでいた。なんだかんな、不健全だ。6時になり大佐が帰った。そしてそれと同時に小坂も出ていった。
「したっけ、また明日」「うんにゃ」俺は横になったまま手を振った。
「じゃあ、俺もそろそろ行くかな」10分後に巻が立ち上がった。
「おお、そうだ、俺も行く」「な、なんで、どこ?」
「美術の時間で使う鉛筆買うの忘れたんだよ。途中まで一緒に行こうぜ」
「あ、ああ」
市街地の中心まで15分、たわいもない話をしながら歩いた。北大通に着くと交差点にこちらを見ている女子高生がいた。うちの高校かな?。
「あれ?船山さん?」「そ、そうか?」巻はちょっとばつが悪そうに頷いた。
「なんだよ、毎日俺んとこに来るの時間つぶしかよ」
「いや、そんなことねよ・・・・」「またまた、そうかあ。なるほどね。毎日ここで待ち合わせね。ま、いいよ、時間つぶし。じゃあ、お幸せに。船山さ〜ん」俺は彼女に手を振った。
「高和くんも来たの?」「俺は別件、じゃあお幸せに」
「もう」そう言って彼女は俺の腕を叩いた。
「いいねえ〜幸せおそそわけしてよ〜・・・ん!」船山さんが賑やかすぎて気がつかなかったが、彼女の後ろに笹山さんがいた。
「あら、笹山さんも一緒?」「・・・・こんにちは。私はここで」
「うん。じゃあまたねえ、理央」二人はとっとと、駅に向かって歩き出した。
「ふ〜、いいねえ、二人、幸せそうだねえ、笹山さん」「・・・・うん」
「今まで部活?」「うん」「そうか。お疲れ」
「高和くんは?」「俺?明日の美術の時間に使う鉛筆買いに来た」
「明日の?」「うん」彼女も同じ美術の授業を受けていた。
「買わなくてもいいよ」「なんで?」「貸してあげる」
「何を?」「鉛筆。一回しか使わないのにもたいなよ」「ええ?いいの?」
「うん」「じゃあ、よろしく」
「・・・・じゃあさよなら。また明日ね」「うん、さよなら」
彼女は歩き出した。俺は手を振って彼女を見送った。背中まで伸びた長い髪が夕日を反射してキラキラしていた。まさに彼女のために夕日が照らしていた。
お〜、神々しい。なんて素敵なんだろう。好きになりそう。
いかんいかん。俺は頭を振った。ん?別にいいんじゃない、彼女、好きになっても。でも、ボコボコにされるな。大佐とファンクラブに。
相変わらず俺たちはストーブの周りを陣取って昼飯を食べていた。4月も終わりに差し掛かっていた。
「なんかつまんねえなあ」小坂が呟いた。「そう?」「そりゃあ、お前は船山さんがいるから毎日楽しいよな」「うっせえ」
「じゃあ、やるか」突然、大佐が立ち上がった。「何を?」「焼肉」
「はあ?意味わかんねえ。何?」巻が大佐を見上げた。
「まさか俺の部屋で?いやだよ〜あんな狭い部屋で焼肉なんて。臭くなる」
大佐は首を振った。
「おお〜外でやるの?いいねえ。ガスコンロでか?それともちゃんと炭で焼く?」
大佐は首を振った。
「じゃあどこで?」「ここで」「ここで?」「ふむ」
なるほど、4月とはいえまだ薄ら寒い。教室にはまだ石炭ストーブが置かれておた。
「OK、大佐、やろうぜ、焼肉」「はあ、高和まで何言ってんのよ」
「焼肉いいべ。やろうぜ、明日」「ここでかよ!」
「そうよ。つまんねえんだろ?小坂」、「ま、まあ・・・・・・」
「焼肉やったら楽しくなるのかよ」「なんか楽しそうじゃん」
小坂と巻は、不詳不詳、承知した。
翌日、有志を募って金を集め、3時間目が終わった頃に小杉と大塚に肉とジンカン鍋を買いに行かせた。
二人が買ってきた鍋を早速ストーブの上に置いた。温まった頃を見計らい肉をのせる。肉はもちろん、タレ付きのジンカン。のせた瞬間、湯気と香ばしい匂いが教室に広がりだした。
「なにやってんの!」女子たちが騒ぎ始めた。
「臭い!もう、制服に臭いついちゃう!」「もう、やめてよ」
「もうやめられないぜ」大佐は小声でうそぶいた。女子は一気に教室の外へ避難した。
「さあて、いただきますか。じゃあ、大佐、最初の一口をどうぞ」
「おう」すでに箸には肉がはさまっていた。
「ほう!うまい!」その一言がスタートの合図のように、俺たちは箸を伸ばした。
「うわっ、うめえ〜」「まじうめえな」「んだな」
有志7人は、あっという間に2000gのジンカンを平らげた。
教室内はまだジンカンの臭いが漂っていた。女子のほとんんどは、ぶちぶちといつまでも文句を言っていた。まあ、そりゃそうだ。
「いや〜、それにしても。臭いが消えないね」窓を全開にしていたが無駄だった。
「もう、やめてよ」関田さんが女子を代表して俺たちに言いに来た。
「ごめんごめん。こんなに臭いとは思わなかったからさ」小坂が代表して謝った。
「まあ、文句があるなら大佐に言ってね。奴が言い出しっぺだから」俺は教室の後ろの席の大佐を見て言った。いつもの澄まし顏で我関せずを決め込んでいる。
5時間目の授業が始まった。国語の教師は入ってくるなり顔をしかめた。「なんだ、この臭い?」一番前の席の佐々木が聞かれた。
「さあ、なんか臭います?」なかなかの役者。
「いや〜、まじうまかったな」「うん」いつものように、俺たちは4人揃って俺の部屋へ向かっていた。
「基本、ジンカンなんて赤ん坊の頃から食べてきたから、飽き飽きしてたけど、今日のはうまかったな」「なんちゅうんだ?その雰囲気とか食べる環境とかさ、色々関係するんだべな」「またやりてえな」「でも、次やったら女子が黙ってねえだろ」「んだな」
「そうだ、今度さ、港でやろうぜ、温かくなったら」「おう」
5月の中旬に遠足が予定されていた。進学校である我が校は、生徒の自主性を尊重する校風で、意外に生徒会企画の行事が多かった。春秋の遠足やら春秋の球技大会、一週間ぶっ続けの学校祭など割りに忙しかった。普通、高3は受験勉強で忙しいはずなのだが。
春の遠足はそれぞれの学級がそれぞれ企画して好きなところへ行くようなものだった。大体の学級は市内のどこぞの公園やら博物館やら風光明媚な観光地やらに行っていた。しかし、俺たちのクラスは大佐と巻の一言で、他のクラスとはちょっと違う場所に行くことになった。
「今年の遠足どこへ行きます?意見のある人」
学級委員長の小杉が教壇に立ってみんなの意見を集めた。
「なあ、別にどこでもいいよな」俺は隣の小坂に呟いた。
「そうだな。釧路川の河川敷でソフトボールなんかいいんじゃない?」
「お前、それじゃ去年の球技大会と一緒でしょ」「あっ、そうか」
黒板に書かれた遠足候補地はありきたりのものだった。どこもつまらんなあ。
後ろを見ると何やら隣同士の大佐と巻がこそこそしてる。あいつら、また悪さ企んでるな。巻が手を挙げた。
「厚岸行かない?」
あいつ何言ってんだ?
厚岸は釧路から汽車で1時間ほどの小さな港町。牡蠣で有名な漁業の町だ。巻は今そこに住んでいる。彼の両親が僻地校の教員で、今、両親の赴任地がそこであった。
「厚岸って遠くない?」副委員長の渡辺さんが言った。
「汽車で1時間だ。遠くねえ。俺ら毎日そこから通ってるし」
「で、そこで何すんの?」巻の前の席の佐藤が聞いた。
「大きな自然公園があるのよ。展望台やらアスレティックやら。なかなか楽しいぞ」
「へ〜」「いいかもね」「そだね〜」
おやおや。この流れ、決まりそうね。
「じゃあ、決めましょう。多数決ね」小杉が仕切った。
結果、大多数で厚岸に決まった。その後、大まかな計画を話し合った。班を編成し、厚岸では班行動ということになった。当然汽車で行くものだと思っていたが、なんとなく、バスで行こうということになった。
「でもよ、厚岸行きのバスはあるけど、全員乗れねえんじゃないの?」「そこはさあ、貸切よ」「お〜なるほどね」遠足っぽいじゃん。
「で、誰が借りるの?」「俺やるよ。東邦交通に働いてるおじさんに頼んでみる」佐川がいった。まとまった。
遠足当日、気持ちのいい五月晴れだった。この町では珍しいくらいに空は青く澄み渡っていた。
「おお、なかなかの遠足日和じゃん」校門前に止められたバスに乗り込んだ。
バスで、1時間半の行程。車内は学級委員の3人が仕切り、退屈しないようにスケジュール満載だった。でも俺は退屈していた。俺はゲームやなんかに付き合うのが面倒で、寝たふりをこいていた。
1時間半後、予定通り厚岸の自然公園についた。俺たちの班はいつもの四人の他に大塚と小杉を入れてやった。こいつらを入れるのは何かと便利だからだ。
大佐と巻はこの二人を使い、クラスのキレイどころの女子を班に入れるように焚きつけた。彼らは喜んで、彼女らを班に誘っていた。全くもって悪い二人だ。まあ、野郎だけの班より楽しいよな。
公園についた瞬間、巻が俺のそばで小声で言った。「うちこない?一服するべ」巻の家はここから10分ほどのところにある教員住宅らしい。俺たちは女子との行動で盛りがっている、小坂と大塚、小杉を放って大佐と3人で巻の家に行った。
巻の部屋はエロ本で散らかっていた。「おいおい、客を呼ぶなら片付けておけよ」そう言った横で大佐がエロ本にクギ付けだった。「全く・・・・」
「お待たせ〜」そう言って巻が入ってきた。その手には缶ビールが3本。
「おお!いいねえ」
1時間ばかし、巻の部屋で過ごし公園へ行くことにした。
「そうだ、これ持っていかなきゃ」巻は物置からおおきいズタ袋を持ってきた。
「あ〜、今日のメインね」
それは牡蠣だった。袋いっぱいの牡蠣。厚岸にきた本当の理由はこれだった。それは大佐の一言だったらしい。
「厚岸って牡蠣うまいんだべ」「おお」「牡蠣食いたくね」「そうか?」「牡蠣食うべ」「いつ?」「遠足」「遠足?」「うん。遠足は厚岸行って牡蠣だな」あの日、こんな会話が二人の間でささやかれていたらしい。
実に重い袋だった。何キロあるんだ?公園までの10分、交代交代で袋を持った。公園に着くと、みんな展望台方へ行っているらしかった。
「これから追っかけて行くの面倒だし、俺たちはここで待ってるべ。そろそろ昼だし戻ってくるべ」、そう言って巻きと大差は火を起こし始めた。
昼は各々、弁当を持ってそれを食べることになっていた。しかし、我が班は牡蠣。あらかじめそれは話し合っていた。俺たちは早く班の連中が戻ってくるのを待ちながら、バーベキューコーナで火を起こしいつでもたべれる体制を整えていた。
牡蠣パーティーと決まった時、というか勝手に俺たちが決めた時、女子は難色を示した。まあ、そうだよな。でも今、テキパキと硬い蠣殻を開けを網にのせる大佐と巻の、手際の良い様子を見て女子たちは盛り上がっていた。
「すごい!久遠くん、巻くん!」。女子は手際のいい二人に拍手を送った。格好いいぞ二人。
俺は手を汚したくないので、黙って見ていた。どんどん網に蠣殻が載せられた。
「おっ、それそろそろ大丈夫だ」巻が慣れたように言う。
佐原さんが恐る恐るその牡蠣を手に取った。「美味しい!」その一言で女子はみんな牡蠣を食べ始めた。俺も食べてみた。うまい!
「それにしても、お前らさばくのうまいな」「まあな」巻は楽しそうだ。
大佐は黙って牡蠣を割りまくっていた。そしてたまに、横に座ったお嬢様に焼き立ての牡蠣を手渡していた。
「大佐、やるねえ〜。ポイント稼いでる」小坂が小声で耳打ちした。「お嬢様、意外にワイルド系に弱いのかもな」
手持ちの飲み物や、持ってきたオニギリを各々出して牡蠣を食べまくった。思いの外盛り上がっていた。
「高和くん、これどうぞ」「ん?なに?」お嬢様が俺にアルミに包まれたオニギリを俺の目に差し出した。
俺が一人暮らしで昼飯を準備できないと思ったのだろうか。お嬢様はお手製のおにぎりを俺のために作ってきてくれていたのだ。
「か、感激!ありがとう」俺は遠慮せずアルミを剥がしおにぎりにかぶりついた。まじうめえ〜。なんていい子なんだろう。好きになりそう〜
げっ、やば。大佐が機嫌悪くなってる。大佐は笹山さんを諦め、前からお気に入りのお嬢様を守ることを宣言したばかりだった。や、やばい。
俺はすぐにおにぎりの半分を大佐に渡した。とたん、大佐の機嫌が良くなった。俺は巻きのお母さんが多めに作ってくれたおにぎりを食べた。
ありがとう、お嬢様と巻のお母さん。
予想以上に盛り上がった昼飯の後は、各々適当に1時間ほど過ごした。展望台やアスレティック。そして、14時に厚岸駅へ向かった。帰りは汽車だった。
「3組、遠足厚岸だったんですって?」数日後、校内で久しぶりに京子ちゃんと廊下で会った。
「うん」「いいな。牡蠣食べたんだって?早苗から聞いたよ」
「うん。巻がさ、用意してくれてね」「いいなあ〜、3組。私たちなんて科学館いってそこの公園でお昼食べただけよ」「ふ〜ん。まあ残念でしたね」
「牡蠣食べてみたいな、焼いたの?」京子ちゃんは本当に残念そうに言った。
「そういやバスケ、予選そろそろじゃない?」「そうよ。明後日から」
「どこで?」「市の体育館よ」「応援行こうか?」
「無理よ。平日だもの。授業あるし」「ふ〜ん。じゃあ、教室から空を見上げて応援してるよ」「よろしく。絶対全道に行くからさ」
「全国って言えよ、そこは」「そうね。全国行くから」
「OK、その調子」俺はジャンプしてロングシュートのふりをした。
「ナイスシュー!。これで京子ちゃん大丈夫だよ」「・・・・なに、今の?」「オレ流のおまじない」「・・・・ありがとう。涼くんって、すかしたフリしてるけど本当は面白いのね」
週明けの月曜、学校へ行くと女子バスケ部が勝ち続け、今日、決勝だという。
「へえ〜すごいね」「で、何時から?試合どこで?」俺は男子バスケ部の山川に聞いた。「11時って言ってたかな。市民体育館だ」「ふ〜ん」
行こう。応援に。
「ねえ、小坂」「なに?」「俺さ、女バスの決勝見に行くから俺いないの適当にごまかしといて」「え〜、サボるのかよ。じゃあ、俺も行く」「お前もきたら誰が適当なこと言うんだよ」
「ん?」小坂は後ろを指差した。「あ〜、小木さんね」
「ねえねえ、小木さん」「なんだよ?」「俺たちさ、これからどうしても行かなきゃならないとこがあってさ」「うん、で?」「これからそこに行くから、適当にこの後の授業ごまかしておいて」「ああ、いいよ」
「おお!あっさり。さすがは小木さん」「頼んだよ」「任せ」
俺たちは1時間目が終わるとすぐに学校を出た。市民体育館前は小坂の家のそばにありバスで20分ほどだった。
体育館の客席に入ると、館内は熱気であふれていた。客席の一番前ではベンチ入りできなかった部員たちが陣取り、大きな黄色い声で応援をしていた。
「始まったばっかりだね」「うん」
その時、歓声が上がった。我が校のチームが点を入れた。
「おお、京子ちゃん走ってる」「当たり前だろ」
「そだな、京子ちゃん頑張れ〜」俺は思わず大声を出してしまった。
ゲームは一進一退のシーソーゲームだった。
「さすが、決勝戦だね。なかなか楽には行かないね」
「うん。つうか、誰よお前?知ったような口聞いて」「小坂です」「そだね」
前半が終わった。「4点のビハインドだね」
「だからお前は誰よ?ビハインドってなによ?」
「ん〜、この後どう攻めるべきか・・・・。俺ならファール覚悟でガンガン攻めるな」「だからお前は誰よ?監督かよ」「うん、それしかない」
俺は立ち上がり、客席の一番前に行った。ベンチを見ると、顧問が熱心に選手たちへ話しかけていた。「おお、京子ちゃん疲れてんな」彼女はタオルで汗を拭きながら顧問の話を熱心に聞いている。顧問の話が終わると、京子ちゃんが選手の輪の中心に立ち何やら話し出した。
「そういや、彼女キャプテンか。考えてみたらすごいな。それに彼女のバスケ初めて見たぞ。格好いいじゃん。頑張れ〜」
京子ちゃんの話が終わると選手たちは各々、休憩に入った。まだ時間はあるみたい。俺はちょうど京子ちゃんの頭が真下に見える位置へ移動した。
「キョコちゃん、キョコちゃん」彼女は周りをキョロキョロと見渡した。
「キョコちゃんキョコちゃん。上ですぞ」「えっ!」彼女は顔を上げ絶句した。
「イエ〜い、応援に来たぜ」俺はそう言って親指を立てた右手を差し出した。
「涼くん?」「小坂もいるぜ」
「マジで〜、授業は?」「今日はお休みです。京子ちゃんが頑張ってるのに、勉強なんてしていられません」
「ぷっ・・・・ばかね。ていうか恥ずかしいよ、大きな声出して」
「そんなこと言うなよ、姉さん。弟が応援に来てるって言うのに」
「そうね。ありがと」
「で、4点のビヘンだな」「?」
「4点のベヘン?」「・・・・ビハインド?」
「そ、そ、そうとも言う」「・・・・・・・・・・・・」
「でも大丈夫だ。俺ならファール覚悟で、ガンガン攻めるぞ。それしかない!」
「ぷっ、なにそれ〜」
「ごめん、休憩中。じゃあ、上に行って大人しく応援するね」
「涼くん、ありがとう!」
後半も一進一退で追いついてもすぐに離され、それの繰り返しでいよいよ残り3分になった。
「ん〜、難しいな。3分で5点はきついぞ」「そうなの?つうかお前誰よ」「ん〜」小坂は自らスポーツを楽しむことはないが、スポーツ観戦が好きで結構いろんなスポーツに精通していた。
「おお!京子ちゃん入れたじゃん!」彼女はゴール下からシュートをした。相手の選手と接触し転倒したが、ボールは見事にゴールに収まった。
「すげ〜な〜、バスケットカウントじゃん」「な、なにそれ?」
「すると滝沢さんがシュートした時きに相手が反則したんだよ。だからこの後、フリースローさ」「フリースロー?」
京子ちゃんは見事にフリースローも決めた。
「おおおっ、かっちょいい!キョコちゃん最高!」重わっず大声を出してしまった。
周りが振り返った。「すんません、あれ姉なんです。すごいでしょ!」
自慢気にそう言いながらもペコペコしたら笑いが起こった。
「やるなあ、滝沢さん。これで2点差。後2分。行けるかもよ」
「うん、・・・・・つうかお前誰よ?」
2分。相手チームは守りに入った。なかなかボールが取れない。げっ、1分切った。
「ガンバレー!」我が校の応援のボルテージが一気に高まった。
残り30秒。これまでか〜
「おお、ボール取ったぞ。もう時間がない、大事にするないけ!」小坂は叫んだ。ボールを取った選手があアタッキングゾーンにいる選手にパスを送った。その選手はすかさずシュートを放った。
「遠い!」「あ〜・・・・・・・・・・・・・・」
ボールは吸い込まれるようにゴールへ入った。レフリーは指を3本立てていた。
「入った〜、同点じゃん!」「馬鹿、違う、逆転だ!」「えっ?」
コートでは我が校の選手が集まり喜んでいた。相手のチームの選手は皆座り込みうなだれている。
「どういうこと?なんで?」「あのね、今のスリーポイント」
「ああ、そうかスリーポイントシュートね。つうことは逆転じゃん。すげ〜」
整列し礼をすると我が校ん選手たちは飛び上がり、喜び抱き合った。その中、京子ちゃんは俺の方に向いて手を振った。俺は親指を立てた右手を差し出した。京子ちゃんも人差し指を立てて右手を上にあげた。もしかして、イチバ〜ンってやつ?
「いや〜、いい試合だったな」俺たちは大通り沿いにあるバーガーショップでバーガーにかぶりついていた。
「応援てのも疲れるな。腹減ったもんな」「うん。全くだ。でもよ、スポーツ観戦ってのもいいもんだべ?」
「そだな。バスケなんて興味ないからルールも知らなかったけどさ、目の前で観ると楽しいな」「だべ?で、この後、学校戻る?」「んなわけねえべよ」
「だな。じゃあウチ来る?」「いいの?」「うん。まあ、妹いるかもしれねえけど」「じゃあ行く行く」
小坂のうちには何回か来ていた。この大通りから5分くらいのところにある一軒家だ。
小坂の家庭はかなり複雑で、両親は既にいなく小坂とその妹の面倒を見ているのは10歳以上年の離れた小坂の一番上の兄貴だった。
「お邪魔しま〜す」「先上あがってて」
二階にある彼の部屋に入り、早速タバコに火をつけた。3服ほどしていると小坂が缶ビールを二本持って部屋に入ってきた。
「うわ、まじ?」「まだこの時間妹もいねえしよ」「いいの?」「どうぞ」
「いや〜、学校サボって飲むビールって最高!いいですな〜」「誰だよ?お前」「小坂です」
「生意気な口聞いてると、兄ちゃんにバレるぞ。でも、うまいなマジで」
「でしょ」「今度、うちでもやろうぜ。お返しに」「いいね〜」
ステレオで音楽を流し、適当な話で盛り上がった。
「それにしてもさすがだね滝沢さん」「そだな。俺も初めて見た。たいしたもんだよ」「美人で勉強できてキャプテンだもんな。本当にお前の姉さんかよ」
「うっせえ。それにしてもたいしたもんだ」「俺好きになっちゃいそう」
「お前じゃ無理だ」「・・・・だな」
数日後、珍しく一人で家路を歩いていた。すると名を呼ばれた。幣舞橋を渡ったところで、振り返った。京子ちゃんだ。「応援、ありがとう」
「すごいね、優勝。ナイスシューだったよ。はじめてみたな、あんな京子ちゃん」「そうかなあ」「いや、すごかたぜ。応援のしがいがあった」「ありがとう」
少しづつ夏に向かっている。川の水も少しだけ春よりも青くなってきたような気がする。
「次は地区大会?」「そうよ」
「どこで?」「今年は根室」
「根室じゃ応援行けないな、さすがに。こっちで勝つこと祈ってるよ」
「よろしくね〜」
地区大会はあっさり勝ったようだった。そして全道大会。全道は7月に帯広で開催らしい。
学校が終わり昼飯にカップラーメンを食べて横になっていた。土曜の午後だ。少しばかし、うとうとしていると部屋のだがノックされた。「はい、どうぞ」
巻だった。「おう、いらっしゃい。帰ってなかったんだ」
「おお。ちょっとやらねえ?」ビニル袋をテーブルに置いた。
「なにそれ?ビールかよ。いいねえ〜」
7月になりそこそこ暖かくなってきた。今日は珍しく、25度を超えている。
「そんな学生服でビール売ってくれたな」「ああ、向かいの近藤さんだ」
なるほど。近藤さんなら大丈夫だ。俺は毎日行ってるし、巻もちょくちょくタバコを買って顔なじみだ。
袋の中にはバドワイザーの350缶が二本。
「せっかくだから外行かねえ?暖かいし」「港か?」「うん。気持ちいいべ」
ここからはちょっと行けばすぐに港だ。土曜の午後の港は静かだ。どの船も操業を終えて繋がれている。ここの港は漁船と貨物船が半々だった。俺らが向かったあたりは主に貨物船の船着場だった。適当な場所を見つけ、腰掛けた。
「乾杯」「ごちそうさま」
「ふ〜う、うめえなあ」「ほんとだな。喉にゴシゴシ来るわ」俺は思わず横になった。青空が広がり夏らしい白い雲が大きく漂っていた。
「夏だなあ」「んだな」
「女バス、2回戦で負けたってな」
「らしいな。京子ちゃん、なまら悔しがってな。最後だから」「そうかあ」
「そうだ、吹奏楽部のコンクールはいつさ?」「来週って言ってたな」
「もちろん、見に行くんだべ」「まあな」
巻の彼女の船山さんは吹奏楽部でパーカッションをやっていた。
「俺も行くかな。応援しに。授業サボって」
実は笹山さん目当てだったりする。
「あっ、そういや、夏休みな入ったらさあ、小坂の家に集まらないかって。夜だけど」
「まじ?飲みか?」「多分な」「いいなあ、それは」
「じゃあ、決まりだな。多分大佐も来るだろうし、森ちゃんといのちゃんも誘うって言ってた」「そりゃあ、楽しみだ」
350缶を飲み干し、俺たちは腰を上げた。350缶1本でやめるなんて俺たちは、まだ健全な青少年だった。
翌週の水曜、吹奏楽部のコンクール。場所は市民会館で我が校は午後一の13時からだった。巻は逆算した。
「こっから1時間はかかるべ、市民会館まで。4時間目終わってからじゃ遅いべ。3時間目終わったら行くべ」「OK。じゃあ、また小木さんに頼むか」
そうだ、京子ちゃんも誘うかな。1時間目が終わった時に、9組へ行った。後ろのドアのそばにいた女子を捕まえ言った。
「すんません。滝沢さん呼んでくれます?」
「あっ、高和くんね。京子の弟の。ちょっと待ってて、京子〜」
「弟って・・・・」
前の席でだべっていた京子ちゃんがこちらを振り返った。
「何?涼くん」「あのさあ、今日、吹奏楽部のコンクールがあるんだ。巻と観に行くんだけど、京子ちゃんもどう?」
「でもそれって、13時からじゃなかった?」「うん」
「うん、て。またサボるの?」
「サボるって。京子ちゃんの時もそうだったけどさ、知り合いが頑張ってるのに応援に行かないってことはないでしょう」
「要は暇人ってことね。ん〜、私も行きたいけど、放課後、引退試合なの、今日」「そうなの?じゃあ仕方ないな」「美樹と理央に会ったら、頑張ってって言っといて」
「わかった」
ある意味京子ちゃんが来なくてよかったかも。笹山さん独占できる?大佐はとうに諦めたしな。あれ?恋の予感?
「じゃあ、小木さんよろしくな」「おう、任せとけ」
市民会館には12時半前についた。「まだ早いな」俺たちは会館の前庭のベンチで、近くの商店で買った菓子パンと缶コーヒーをぱくついた。タバコを一服すると12時40分。「そろそろ行くか」
会館へ入り観覧席の前の方に陣取った。まだ幕は上がっていない。幕の向こうでは何やらガサガサドタドタ、準備をしている音が聞こえてきた。
「船山さんパーカッションだよな。格好いいよな、女子のパーカッションって」「そうか?」
俺は太ももを両手で叩いてリズムをとった。何を隠そう、俺はバンドを組んでいてドラマをやっていた。あっ、そうだ。いいこと思いついた。
「巻、ちょっと来いよ」俺は巻を促し立ち上がった。
観覧席を出て、舞台裏へ向かった。関係者以外立ち入り禁止と書かれた張り紙を貼ってあるドアを開け中に入った。そこは午後の部が始まる前の準備でガヤガヤしていた。
「おお、やってるやってる」俺たちも制服だったので問題なく通過だ。
「いたいた、船山さんだ」彼女は舞台の上で、多数のパーカションの位置を確認していた。
「巻、行ってこいよ」「え〜」「何照れてんだよ」
俺は目ざとく、二列目の真ん中に座っている笹山さんを見つけた。彼女は膝の上にトランペットをおいて楽譜を見ていた。
「お〜、美しい。なんて神々しいのだろう!大佐が諦めてくれて良かった〜」
俺は尻込みしている巻を放っておいて舞台袖へ行った。
「船山さん」彼女が振り向いた。「高和くん?」「はい、高和です。そしてあそこにシャイな巻くんもいます」、俺はもじもじしている巻を指差した。
「巻くん!」巻は恥ずかしそうに手を振った。
「船山さん、頑張ってね」「ありがとう。でもよく入れたわね」
「俺たちに不可能はない。そういや、京子ちゃんが応援行けないけど頑張ってって」「そうなの?ありがとう」巻がようやくこっちへ来た。
「では、若い者同士、ごゆっくり」
俺は二列目の真ん中に座る笹山さんに目を向けた。
「笹山さ〜ん」彼女が振り返った。俺は手を振った。彼女は目を見開いてこっちを見ていた。頭の上には間違いなくクエスチョンマークが浮かんでいる。
「高和で〜す。頑張ってね〜」彼女はまだ目を見開いて固まっていた。周りから小さな笑いが上がった。失笑?俺は手を振り続けていた。
「ちょい、お前なんだよ」俺の前に座っていた男子部員が立ち上がった。
「えっ、応援に来たの」「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「はあ?俺も同じ学校じゃ〜ん。いいじゃん。頑張ってね」
「出ていけよ、今、始まる前なんだから邪魔だよ!」確かに、みんなピリピリしてる?
「そうだね。ごめん。わかりました。じゃあ、笹山さん頑張ってね。あと皆さんも。君もね」
俺はまた笹山さんに手を振って踵を返した。笹山さんが小さく手を振った。
そうだよな、確かに、演奏前によくなかったな。「巻、行こうぜ」
「巻、高和」、部長である小杉が俺たちを呼んだ。
「すまん、演奏前のこんな時に上がってきて。こいつが是非来たいっていうからさ」俺は巻を指差した。「はあ?」
「ありがとな」「ん・・・・・」「緊張ほぐれた。バカが来てくれて」「・・・・褒められてんの?」俺たちは顔を見合わせた。再び、小さな笑いが上がった。失笑?
演奏中、俺たちはおとなしくしていた。さすがにバスケの応援のようにはいかない。
演奏が終わり、会館の外へ出た。今日も天気が良く気持ちが良かった。
「俺、部屋帰るけど、巻はどうする?」「俺も行っていいか?」「どうぞ」
「17時にさあ、美樹と会う約束したんだ、さっき」「ほう、いいね。せいぜい、今日の演奏褒めてあげなよ。結果どうだっただろうね」
「うん。その報告も兼ねてね。お前も来ない」「なんでよ?お邪魔じゃん」
「いやさあ、美樹は俺たちが行ったこと、単純に喜んでたけどさあ、意外にあそこピリピリだったじゃん。で、そのことで俺、怒られるかもしれねえからさあ」
「え〜、俺も一緒に怒られれって?いやだよ〜」「頼むよ」
「たくもう・・・・、仕方ねえな。コーヒーおごりだぞ」「悪い〜」
17時に巻が約束した喫茶店に入った。まだ船山さんは来ていなかった。
「俺、スペシャルゴールデンブレンドの一番高いやつください。人肌で」
俺たちが座ったテーブルに来た馴染みのウエイトレスのお姉さんに向かって言った。
「はあ?そんなのメニューにはないわよ」「今日はさ、こいつが奢ってくれるから、一番高いやつ注文しようと思ったの。ないの?スペシャルゴールデン、人肌」「人肌?意味わかんない。ブレンドのアイスでいいのね?」「は、はい」
「じゃあ、俺も」
彼女はミニスカートの尻を振りながらカウンターへ向かった。すらりと伸びた白い脚が眩しかった。
「うわ〜、今日もまゆみさん素敵よね〜」「バカか、お前は」
「え〜、お前だって去年の今頃言ってたじゃん。彼女ができるとそうなっちゃうのかね?」「うっせえ」タバコの煙を俺の顔に吹き付けた。
17時を10分過ぎた頃に船山さんがやってきた。なんとその後ろに笹山さんがいた。
「遅くなってごめん。高和くんもいたんだ〜。今日はありがありがとうね。おかげで金賞よ」彼女は俺たち二人を見て誇らしげにそう言った。
「おお・・・・すごいな」「さすがあ。金賞、間違いないって思ってたけどね」二人は並んで座った。やってきたまゆみさんに二人は注文した。
俺はまゆみさんの尻も足も見なかった。そして笹山さんを見た。
か、可愛い・・・・。ファンクラブのみんなには申し訳ないが、今、彼女は俺の前に座っている。まあ、美術の時間は横に座っているが。
2年の芸術科目は美術、音楽、書道と分かれていた。3クラス合同で、それぞれ希望する科目を受けることになっていた。俺は美術を受けた。その最初の授業で彼女を初めて知った。
「こ、こ、こんな可愛い子、いたっけ?」
俺は遅れて入った教室に残っていた席に座り、隣の女子を見て驚いた。それが笹山さんだった。
その授業が終わり教室に戻ると、同じ美術を受けた野郎どもが俺の周りに集まった。
「お前、軽々しく笹山さんに話しかけんなよ」「そだぞ、それになんでお前が横に座るんだよ」
「えっ、そこしか空いてなかったし。つうかあの子だれ?初めて見た」
「はあ?お前バカか?笹山さんだよ。我が校no.1の女子だぞ!」
「まじ!そんな子いつ転校してきたの?」
「本当、お前ってアンテナ低いな。入学の時からいたよ」
「そなの!」
「まあ、悪いこと言わないから彼女にちょっかいかけるなよ」
「なんで?」
「ファンクラブがあるんだよ。まあ、俺たちももちろんファンだがな。変なことしたらボコボコにされるぞ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
ファンクラブねえ。まあ、俺には関係ないや。どうでもいい。
俺は美術の時間、普通に彼女に話しかけた。彼女は所謂おっとりさんでおしゃべりではない。話しかけてもなかなか答えが返ってこない。それでも半年くらいすると彼女の方から話しかけてくるようになった。これがまあ、大変なことになった。
ただでさえ自分から話さない彼女が俺に話しかけるというのが、ファンクラブの連中には気に入らなかったらしい。危うく俺はボコボコになりそうなのを、嘘八百でなんとか乗り越えた。あ〜面倒臭い。
会話はほとんど巻と船山さん。どちらもおしゃべりだもんな。いいカップルだぜ。俺はチラチラと笹山さんを見ていた。ん〜、彼女を退屈させちゃいけないな。「ねえ、笹山さん」「・・・・」彼女は顔を上げた。
「今日の演奏よかったよ」「・・・・ありがとう」
「特に、ソロが良かったね」「・・・・」彼女は顔を真っ赤にして俯いた。げっ、可愛すぎる。
「ラッパって格好いいよなあ」「・・・・ラッパ?」
「・・・・ト、トランペットでした」「うふ」
やったぜ、笑ってくれた。
1時間ほどして解散になった。
「じゃあ、また明日な」「おお」
「高和くん、バス停まで、理央をよろしくね」「はいな」二人は駅へ向かった。「笹山さん、栄町公園だよね」「うん」
俺たちは並んで歩いた。笹山さんも結構背が高いな。
「ねえ、笹山さん。もしかして身長165くらい?」「・・・・」
「京子ちゃんと同じくらいじゃない?ちょっと小さいか」「・・・・152よ」「嘘だあ〜」彼女は顔を真っ赤にした。
「あっ、ご、ごめん」「・・・・大きい女の子って可愛くないでしょ?」
「そう?」「・・・・小さい子って可愛い」
「・・・・そうかなあ。まあ、小さい子は可愛いけど、俺、背が高い子もいいと思うよ。格好いいじゃん」「・・・・格好いい?」
言い間違えたかな?
「なんていうかさあ・・・・。ほら、モデルさんってみんな背が高いじゃん。あんな感じ。そう、笹山さん、モデルさんみたいだよ」「・・・・」また顔赤くしてる。可愛い・・・・。そうか、笹山さん、背が高いのがコンプレックスなんだ。そんなところも可愛いんじゃない。
バス停に着くと、程なく彼女の乗るバスが来た。
「じゃあね」「ありがとう」
「今日の演奏、最高だったよ」「・・・・」
彼女はバスの後ろの席に座った。窓側だ。手を振ってる。本当、可愛いな。
やばい、好きかも。
土曜の午後、部屋へ帰っていつもの昼ラーメンを食べるか迷っていた時、ドアがノックされた。
「巻かあ?入れよ」俺はこたつの上のカップ麺とにらめっこをしていた。
「なにしてるの?」
「あれ、京子ちゃん。どうしたの?」
「っていうか、涼くんこそ何、カップ麺、見つめてるの?」
「ん〜食べようかどうか迷ってた」「・・・・やっぱりバカなの?」
「はあ?京子ちゃんこそどうしたの?」
「別に。部活引退したらさあ、なんか暇で。土曜日だし」
「あなたもここに暇つぶしで来るわけ?」「他にも来るの?」
「・・・・」ったく、どいつもこいつも。
「お昼一緒に食べない?また、港で。なんかあそこ好き」
「ほう。でも、カップ麺しかないぜ。ここからお湯入れて港まで走る?あっ、近藤さんでなんか買ってくるか」「大丈夫」
彼女がリュックを肩からおろし、中を広げた。
「じゃ〜ん」中から紙袋を出した。「レカンでサンドイッチ買ってきたの」彼女は勝ち誇ったような笑顔。レカンは最近できたケーキ屋でサンドイッチも美味しくて評判の店だった。
「ほ〜、どうしたの?」
「一人寂しくカップ麺を食べて、ひもじい思いをしている男子高校生がなんとも哀れで・・・・」
「おやすみ」俺は横になった。
「うそよ。食べよう」「しゃあねえな〜」
夏とはいっても釧路の夏。気温は20度を少し超えたくらいだろうか。
「ちょっと、近藤さんで飲み物買って来る。京子ちゃん何がいい?」
「ありがとう。烏龍茶」「了解」
土曜の港。静かだった。釧路の夏の太陽は、優しかった。
「いい天気ね」「うん」
彼女はまた、リーゼント頭の上に座った。そのせいで、彼女の白い膝小僧があらわになった。俺は目をそらした。
「はいどうぞ」サンドイッチの包みを手渡してくれた。
「あ、ありがとう。これどうぞ」烏龍茶の缶を渡した。そして袋からバドワイザーの缶を出しプルを開けた。
プシュッ
青空に響きわたるようなナイスな音がした。大げさか。
「何それ?」早くも彼女はサンドイッチを頬張っている。
「ビール」
「えっ!タバコにビールって・・・・。相変わらずしょうもないのね」
「何をいまさら。うまいよ、こんな温かい日は。サンドイッチも美味しいや」俺も頬張った。
「レカンってケーキも美味しくて評判だけど、サンドイッチが私は好きだな」
「うん。そうだね。そういや、あそこで中崎さんバイトしてるね」
「そうなの?さっきはいなかったな。大人しそうな人なのに」
「前に行った時、意外に接客うまかった」
一切れ目の残りを口に放り込んで、バドワイザーで飲み込んだ。
「プハ〜」「なんか、もったいない」「そう?」
「サンドイッチをビールで流し込んでるみたい。味わかるの?」
「アメリカ映画でありそうじゃない?こういうの。でも、確かに味わってないか」
「ビールって美味しい?」「飲んだことない?」
「ないなあ。小さい頃、お正月に御神酒飲んだことはあるけど」
「ははは、お神酒か」
「すごく苦かった記憶しかないよ。頭がクラクラしたは、ちょっとだけなのに」「俺もそんなことあったよ。じいさんに無理やり飲まされてさ。絶対に大人になっても酒は飲まないって誓った」「飲んでるじゃん」
「まあ、人は変わるのさ。。でもこんな日はビールが最高だぜ」
「ビールのCMみたいなセリフね」
しばらくとりとめもない話をした。俺は二つ目のサンドイッチに取り掛かった。そして2本目のバドワイザーに口をつけた。
「いや〜本当にうまい。ビールもサンドイッチも。しかも美女と一緒にこの青空の下で」
「何言っちゃってんの?酔ってるな。もう」
そう言って京子ちゃんは俺の肩を押した。
「そんなに美味しいなら、一口飲んでみようかな」
「オイオイ、お神酒でダウンしたんだろ?」
「小さい頃よ。一口だけ、何事も経験」「・・・・・・・・・・・はい」
彼女は俺の手から缶を受け取り口につけた。
「・・・・ぐっ・・・・苦い」
「ぷっ、ははははは。お子ちゃまにはまだ早いようでしたね」
「え〜、何これ、苦すぎ」
「はははは、それにしてもごくごくいってたけど、大丈夫?」「うん・・・・・」
残りのサンドイッチを食べ、それからしばらく温かい陽を浴びながらとりとめのない話を続けた。
「あ〜、気持ちいい」「ねえ、京子ちゃん。顔赤いけど酔った?」
「そう?」彼女は顔をさすった。
「うん赤い。それによく喋る」「そっかなあ〜」
あの一口で酔ったの?色白の彼女の頬がほんのり赤くなっている。
「そろそろ帰ろうか」「うん」「じゃあ、バス停まで送る」「ありがとう」
「ふ〜」
さっきから息吐いてばかりいる。
「大丈夫?」「うん」「やっぱ酔ったでしょ?」「う〜ん、そうなのかなあ〜」「ちょっと待って」俺は自販機へ走り、また烏龍茶を買った。
「はい」「ありがとう」
「どう?」「うん」「大丈夫?」
「・・・・ごめん。ちょっと涼くんの部屋に寄っていい?少し休みたい」
「ああ、いいよ」
彼女は壁にもたれ座り込んだ。
「大丈夫かよ?」「・・・・うん。これが酔うってことなのね」
「気持ち悪い?」「ん〜、それほどでもないけど、なんかボ〜ッとする」
そう言うと彼女は横になってしまった。
「あら、京子ちゃん!」
俺は彼女の顔を覗き込んだ。さっきより赤くなった顔、彼女は目を閉じていた。
「ごめん・・・・ちょっと寝かせて。大丈夫だから」「・・・・そう?」
俺はテーブルを挟んで彼女の正面に座った。
「ふ〜、参ったなあ〜」俺はタバコをふかし天井を見上げた。
「まあ、気持ち悪くないって言ってたし、酔いが冷めれば大丈夫か」
「それにしても、顔真っ赤」
彼女の顔は見事に赤かった。
「・・・・それにしてもキレイな顔だよな。、京子ちゃん。確かに学校トップクラス」
しばらく見続けていた。
「なんか俺も眠くなってきた」
俺も横になった。横になったその前に彼女の脚があった。スカートが少しめくれ、ちょっとだけ太ももが見えた。白い。スベスベしてそう。俺は思わず見入ってしまった。
いかん、熱くなってきた。モヤモヤする。俺はその脚から目を背を向けた。「・・・・・いかんいかん」
「涼く〜ん」
「・・・・」
「涼く〜ん、起きて〜」
「・・・・」
「起きろ!」体を揺さぶられた。
「ん?」顔を上げると京子ちゃん。
「京子ちゃん?なんでここにいるの?・・・・ああ、寝てたっけ」いつの間にか俺も寝てた。
「そうだ、大丈夫?京子ちゃん」「うん。一眠りしたらスッキリ」時計を見た。1時間半経っていた。
「スッキリって。まあ、でもよかったよ」「じゃあ、私帰るね。今日はありがとう」「送っていくよ」「ありがとう」
外は気持ちの良い風が吹いていた。
「それにしても本当に大丈夫?」「何が?」
「かなり酔ってたでしょ?」「そう?」いつもの京子ちゃんだ。よかった。
「結構、いい感じで酔ってたよ」「嘘だ〜ちょっとボウッとしただけよ」
「・・・?覚えてないの?」「・・・・ちょっと眠くなって寝てただけでしょ」 実際、その通り。でもなんだか不安そうな京子ちゃを見ていると、からかいたくなった。
「ま、ま、まあ、そ、そうだね」俺は彼女から目を逸らしさも意味ありげな態度をとった。
「えっ、私何か言った?」「べ、別に」俺はまた彼女からわざとらしく目をそらした。
「えっ、私何か言ったでしょ?」「い、い、いや・・・何も言ってないよ・・・・ちょっと・・・」思わせぶりに言ってみた。
彼女は立ち止まり俺を見据えた。
「ちょっとって何?」
「・・・・い、いや、なんでもない。でも、京子ちゃんって意外に大胆だなあって・・・・」彼女の顔が真っ青になった。
「・・・私、何かしたの?」
「べ、別に何もしてないよ。気にしてないから。だ、大丈夫」
「え〜、私、何したのう・・・・」彼女はしゃがみこんだ。
あら?やりすぎた。
「嘘、何もしてないよ。ただ寝てただけ」「ほ、本当?」
「本当。京子ちゃんが変なことするわけないじゃん」「本当に?」
「うん。ちょっとからかいたくなっただけ。ごめん」
「・・・・そう」彼女は心底安心したようだった。
めっちゃ、爆発して怒ると思ってたから拍子抜けした。
「なんだ、つまんねえの」「・・・・何が?」
「なんでもない」
つまんないから、もっとからかうかな。
「でも、美味しかったよ」「何が?」
「京子ちゃんの唇」
「・・・・」みるみる顔から血の気が引いてきている。わかりやすう。
「ま、ま、まじで・・・・」
「うそよ〜」
「・・・・・・・・・・・」
「そんなんしないでしょ、京子ちゃんは」
さすがに爆発した。
でも、寝ているすきにキスぐらいしておけばよかったな。
「来週から夏休みだけど、札幌に行くの?」
「ん〜どうだろ。何も決めてない。実家へ帰省って言ってたってなあ・・・・今まで住んでいたのはこっちだしね」
「ふ〜ん。じゃあ、勉強しようか、一緒に」「へえ?」
「受験勉強」
「はあ?」正直、受験勉強なんて考えてもいなかった。
まあ、特段他にやるべきこともなかったけど、勉強にあくせくしたくもなかった。実際に、入学した頃は結構いい成績だったけど、全然勉強なんてしてこなかった結果、今じゃ学年の底辺をうろうろしていた。なんにしろやる気がなかった。なんとかなるべって感じ。でもまあ、そんなにうまく行くわけもないことなんてわかっていたけど。
どうすんだろう、俺、他人事のように思っていた。
「私、部活も終わったし、そろそろ本腰入れて勉強しようと思ってるの」
「京子ちゃん、別に今までだって成績優秀でしょ」
「そんなことないわ。やらなきゃ」「ふ〜ん。俺はどうでもいいや」
「だめ!」「・・・・」「涼くんだって、行きたい大学あるんでしょ?」「・・・・別になあ。親が行けっていうだけで、ないよ。土台俺の成績じゃ無理だよ、今更」
「何言ってるの?そんなんことない。一緒に勉強しよう」
なんだろな・・・・。
「俺と勉強したって、迷惑になるから。足手まとい」
「そんなことないよ。教えてあげる」「それこそ時間の無駄でしょ」
「違うよ。教えることは一緒に学ぶことなの」「・・・それ、論語かなんか?」「それに隣で頑張っている人がいれば頑張れるでしょ?」
「いやいや、俺頑張んないし」
「ん〜・・・・、だめ!やるの、涼くんもやるの」「ええ〜・・・・」
「じゃあ、夏休みは毎日図書館ね」「え〜」
マジかよ。なんだか押し切られた。まあ、どうせ暇だからいいか。図書館で音楽ライブラリーでビートルズでも聞いてりゃいいか。
夏休みに入り早速、京子ちゃんからお誘いの図書館。あ〜、面倒臭い。9時にバス停まで迎えに来いって。
栄町公園のバス停に行くとすでに京子ちゃんが立っていた。
「遅いぞ」時計を見ると9時10分だった。
「ごめん。道が混んでた」「何?」「い、いやなんでもない」
「置いていこうと思った」「置いてってよかったのに」「何?」「い、いやなんでもありません」
初めてきた図書館の自習コーナーは結構広かった。音楽ライブラリーには何回か来たことあったけど。そして席はほとんど埋まっていた。
「何これ?満員御礼じゃん。みんな何してんの?」「勉強じゃん」
「そうか。それにしてもまあ、ご苦労なことだね」
「何言ってるの!涼くんもやるの」そう言って京子ちゃんは窓際の2席を見つけ確保した。
さて、何しようか。普段、勉強しないから何から始めて良いのか皆目見当がつかない。途方に暮れた。
「は〜」早速参考書とノートを広げている京子ちゃんを眺めてため息をついた。「どうしたの?」「う〜ん。何をしていいのかわからない」
「涼くん、国数英、どれが苦手?」「・・・・全部」
「・・・・、じゃあ、とりあえずこれやってみて」京子ちゃんはカバンから一冊の問題集を出した。数学だった。
1時間ほど、問題集とにらめっこをした。全然わからん。
「どう、どこまでいった?」
俺はほとんど書き込んでない問題集を無言で提示した。
「えっ・・・・嘘でしょ?」「・・・・ごめん。全然わからん」
「・・・・じゃあ、次はこれをやってみて」英語の問題集だ。
まあ、たぶん、同じだろうな。
1時間問題集とにらめっこ。ほんのちょっとだけ分かるところがあったが、ほぼアウト。
「えっ・・・・嘘でしょ?」「・・・・これが真実、it is just ture」
「・・・・どうしよう」「言ったでしょ、俺は全くできないって」
「・・・・・・・ちょっと休憩しよう」「うん」俺は大した疲れていなかった。わからないんだから頭の使いようがない。疲れるはずがない。でも、京子ちゃんはちょっとばかしぐったりしていた。頭使った上に俺の出来悪さにびっくりしたからだろう。
ごめん。俺は申し訳なくて、率先して自販機からコーヒーを2缶取り出した。「はい」「ありがとう」「呆れたろう?」「・・・・そんなことないけど」
「あまりにも酷いでしょ」「まあ、そこまで行くとあっぱれね」
「でもさあ、これでも学年ビリじゃないんだぜ。下から100位かな」
「威張るな!」「は、はい」
「じゃあさあ、成績教えて。それとこの前のテストの点数も」
俺は正直に全てを報告した。
「そうかあ・・・・」
京子ちゃんは眉間にしわを寄せ、考え込んだ。そんな顔も素敵だな。
「わかった。基礎からいこうよ。まだ大丈夫で」「え〜、いいよ〜」
「だめ、やるの。涼くんも大学はいるのよ」「無理だよ今から」
「大丈夫。明日、基礎になりそうな参考書とか問題集持ってきてあげる。それをやりましょう。私が採点と解説してあげる」「いいよ、負担になるでしょ」
「問題なし。任せて。涼くん受からせる」
げっ、すごいやる気満々。
結局この日は、13時過ぎまでやった。駅前のハンバーガーショップで昼飯となった。
「それにしても涼くん、酷いね、その成績」チーズバーガーを頬張りながら笑って言った。
「そうストレートに言われると傷つくなあ。まあ、高校に入ってほとんど勉強しなかったからな」「・・・・威張るな」「は、はい」
「明日から頑張んなきゃね」「べ、別にいいんだけどな・・・・」「何?」「な、なんでもありません」まあ、いいか。京子ちゃんと一緒なら。
次の日からは午後も遅くまで図書館での勉強になった。昼は京子ちゃんのお母さんが弁当を作ってくれたものをいただいた。全くもって、母娘して面倒見のいい人たちだ。ありがたい。
京子ちゃんに指定された問題を何を見てもいいから解くように指示された。それでもわからなければ教えてくれるというやり方をとった。正直どれも、何を見てもわからない。だから結局、京子ちゃんに一から十まで教わることになった。
京子ちゃんは教えるのがうまかった。
「なるほど。わかったよ」「そう?さすが、自称中学までは神童。わかりが早い」「まあね」「調子に乗るな」
「は、はい。ていうか、京子ちゃんの教え方が上手だと思う。わかりやすいよ」「そうかな」「うん。先生に向いてんじゃない?」「先生?興味ないな」
「だよね」
さすがに毎日というわけにはいかないので、三日に一日は休むことにしてもらった。頭を使うってこんなに疲れるのね。
そうこうしているうちに8月になった。
「ねえ、今日って港まつりでしょ」「うん。大通りにたくさんで店が出てたな」「午後は祭りに行かない?たまの息抜き」「マジで!行く行く」
「じゃあ、午前中、頑張ってね」「はい、頑張ります!」
やっぱ、京子ちゃん教師向きじゃない?このアメとムチの使い分け。俺は結構頑張ってしまった。10時半を過ぎた頃には疲れてきた。
「ねえ、京子ちゃん。休んでいい?」「そうしようか」その時だった。
「高和くん」
声がした方を向くと男が立っていた。
「ん?」「高和くん、ちょっといいかな」「ん?君、誰?」「あっ、俺は・・・」
「あっ、杉本くんじゃない」京子ちゃんが顔を上げた。
「勉強しに来たの?」「う、うん」
「で、君、誰?」「8組の男子よ」
「あっ、そう。で、杉本くんとやら、俺に何用事でもあるの?」
「ちょっといいかなあ」そう言って廊下の方を指差した。
「え〜、何、いきなり呼ばれて行ったら不良が数人いるのって勘弁よう。俺そういうのもう卒業したんだから」
「ち、違うようよ」「本当?それとも、俺に告白?気持ちは嬉しいけどさあ、勘弁して」
「バカね、涼ちゃん。そんなわけないでしょ。行って来なさいよ」
「わかりましたよ」俺は渋々立ち上がって、杉本くんとやらの後についた。
「で、何?」「あのさあ・・・・」何か、話しづらそうな感じ。
「何さ?」「うん。高和くんさあ、滝沢さんの彼氏じゃないよね」
「はあ?」「うん。知ってる、君たち姉弟って、彼氏のわけないよね」
「俺たち?・・・・ああ、そうだよ」「だよね」
「で、何?」「いや、なんでもない。わかった。それならいいんだ」
「・・・・何がいいの?・・・・ははあ〜ん。なるほどね。頑張ってね。・・・無理だと思うけど」後半部分は心の中で言った。
「でさあ、滝沢さん呼んできてくれないかな」「はあ?何でよ」「頼むよう」
俺は何も答えず席に戻った。
「なんだったの?」「うん。よくわからん。だからぶん殴った。鼻血出してぶっ倒れてる」
「えっ!何してるのよ!」
「嘘だよ。そんなことするわけないじゃん。京子ちゃんを呼んでって」
「はあ?」「今度は京子ちゃんに用事があるんだってさ」
「なんだろ?じゃあ行ってくる」
5分もしないうちに戻って来た。
「お疲れ」俺は彼女の顔も見ないで言った。「は〜」彼女はため息をついた。
12時になった。
「じゃあ、今日は終わり!お祭り行こう」「やったあ!」
同じテーブルで勉強している人たちに睨まれてしまった。
「す、すみません。失礼します・・・・・・」
「さっきの奴なんだっけ、杉浦くん?なんだってさ」
「杉本くん?さあね」
「どうせ付き合って、でしょ?」「・・・・うん」
「さすが京子ちゃん。で、付き合うの?」「まさかあ〜」
「だよな〜。かわいそうに。これで今年に入って何人め?」「・・・・」
「俺が知ってる限りでは5人目かな?」「そんなにいないわよ」
「またまた、それにしてもモテるよね。さすが。高校に入ってから何人に告白された?」「うるさい、関係ないでしょ」
「他校からも告白されてるっていうじゃない」「うるさい」
「もう、モテモテね。パプアニューギニアの珍獣モテモテ」「・・・・」
実際に、彼女の人気は他校にも広がっていた。ちなみに笹山さんも。小さい町だからな。
港まつりは栄町公園前の片側3車線の大通りが、閉鎖され200店以上の露店が集まっていた。平日の昼なのでそれほど人出はないかと思っていたが、夏休みの小中高校生や子連れのお母さん達がいて結構賑わっていた。
「さあて、何食おうかな」「とりあえず回ってみようよ」「そだね」
これだけの店、全部見るのって結構時間がかかりそう。俺はとりあえず目についた鈴カステラを買った。
「京都でこれ京子ちゃんからもらってから好きなんだよねえ、京子ちゃんもどうぞ」「ありがとう」
「ねえ、金魚すくいしていい?」「どうぞ」
その返事も待たずに京子ちゃんは金魚すくいの店の前にしゃがみ込んだ。すかさず小銭を渡し、お椀とポイいう金魚をすくう道具を受け取った。
「わお、やる気マンマンじゃん。髪の毛縛った」
げっ、うまい。あっという間に3匹ゲット。しかもポイ、全然ダメージなし。みるみるうちにお椀の中の金魚が増えていった。金魚をお椀に入れるたびに歓声と拍手が起こった。いつの間にか人が集まっていたのだ。きょ、京子ちゃんすごい!
「あ〜っ」京子ちゃんが大きな声を出した。ポイが破れた。
「もう!」「・・・・どうしたの?それだけとればいいでしょ」
大きな拍手が起こった。
「お姉さん、すごいねえ。そんなに取られちゃ商売上がったりだなあ」
「京子ちゃんすごい!」
「全然よ。私、あの黒い出目ちゃんを狙ってたのに。悔しい〜。おじさん、この金魚、3つの袋に分けてもらえます?」「いいよ」全部で14匹。それをおじさんは3つの袋に分けいれてくれた。
「ありがとうございます」京子ちゃんはそういって受け取った。
「はい、どうぞ」
全然すくえなかったちびっこ3人にその袋を渡した。
「か、かっけえぞ、京子ちゃん!ちびっ子にあげるなんて、男前!」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして。涼くん、行こう。お腹減っちゃたな」
「は、はい」惚れ惚れするぜ、かっこいいぞ。
「ああ、たこ焼き〜」京子ちゃんはたこ焼きの店の前に立った。
俺は喉が渇いたので、自販機でお茶を買いに行った。
「はい、どうぞ」「ありがどう・・・・」
「ちょっと、たこ焼き一口で?」彼女の頬がたこ焼きで膨らんでいた。
その後も、露店を冷やかししばらく祭りを満喫していた。時々、知った顔も見かけた。楽しいな、港まつり。
「ん?あれって・・・・」「何?」「ほら」
俺は向こうから歩いてくる、女性を指差した。
「理央?」「だよね。横で手を繋いでるのって・・・・まさか・・・・」
彼女は小さな男の子と手を繋いでいた。
「ま、まさか、子供?」「はあ?」
「15で出産?金八先生みたいな・・・・・・・・・・・・」「はあ?」「・・・・笹山さん、子持ちなの?」
「・・・・涼くんってやっぱりバカね。そんなわけないでしょ。弟よ」
「えっ、だって小さすぎない?」
「5歳。あのね、涼くんだから教えてあげるけど、理央の家、ちょっと複雑なの。今のお母さんは後妻で、そのお母さんとお父さんの間に生まれた子」
「そうなの?」「うん。でもうまくやってるみたい」「そうなんだ」
ホッとした。
「笹山さ〜ん」俺は手を振った。彼女が気づきハッとした顔をした。
「理央〜」
「京子と高和くん」
「こんにちは。かわいい彼氏とデートですか?」「・・・・・・・」
「バカ、からかわないの。裕介くんだっけ、こんにちは」「こんにちは」
「おお、いい挨拶だね、君。こんにちは」「・・・・」
「俺は無視かよ」
「こら、祐介、こんにちはでしょ」「えっ、笹山さん、叱った!」
「・・・・」笹山さん赤くなった。かわいい〜。
「理央、二人でお祭り?」「そう。お母さんに任されちゃって」
「そうなんだ」「京子は?」
「さっきまで、図書館で勉強してたの」「そうなのよ、猛勉強させられてるんです。もうスパルタで」
「二人で?」「そうよ」「もう毎日大変だよ。鬼の京子、スパルタン京子」
「いいの?そんなこと言って」「す、す、すみません」
「ふふふ、面白そう。私も行こうかな、図書館」
その後、4人で歩いて回った。チョコバナナを買ってあげたら、あっさり祐介くんは俺に懐いだ。
「美味いべ、バナナ」「うん」「ちゃんとお礼言った?」
「言ったよ、いい子だね」「ありがとう」「なんもだ」
しばらくすると、笹山さんのお母さんがやってきた。そこで、二人とはお別れとなった。
「じゃあね、理央。図書館にはいつも9時頃行ってるの」「わかった。行けたら行くね」
「なるほどね。えらいね、笹山さん。小さい子の面倒見てさ。お母さんとも仲よさそうだし」「そうね」
「そういや、この前大変だったんだ」「何が?」
「土曜の夜にさあ、小坂のうちに集まったんだ」「夜遊び?」
夕方に小坂のうちに集まった。巻、いのちゃん、森ちゃん、小坂、そして俺。大佐はまだ来てない。
「じゃあ、酒買ってくる。森ちゃん行こう」小坂が言った。
「じゃあ、俺も行くよ」巻も立ち上がった。
「じゃあ、みんなで行くか」「だな」
近くのスーパーへ行って、適当にビールやおつまみやスナック菓子を買い込んだ。当然のことだが、俺たちはまだ酒を飲む習慣なんてない。
俺は一人暮らしを始めてから時々飲んではいたが。他の連中もそんなもんだろう。
でも、今宵は気合を入れて飲もうぜってことで、瓶ビールをダースで買い込んだ。そして、小坂は兄貴の部屋の押し入れから未開封の角瓶を一本持ってきた。小坂の部屋は10畳ほどで割に広く、南に面した窓にベットがありその横に大きめのテーブルを置いて、その上にスナック菓子やソーセージ、枝豆、チータラなどを広げた。
「大佐、まだだけど始めようぜ」巻が早くもビールの栓を開けて言った。
「気が早いな。まあいいか」それぞれお互いのグラスにビールを注いだ。
「じゃあ、森ちゃん始めの挨拶よろしく」「えっ、なんで?」
「そりゃあ、森ちゃんクラスの優等生ちゃんでしょうよ」
「意味わかんないけどまあいいか。・・・・ゴッホん。じゃあ、短い釧路の夏と、短い夏休みにカンパ〜い」
「カンパ〜い!」グラスを鳴らした。
「ひや〜、うめえ」「美味いな」
小坂がステレオにレコードを乗せビリージョエルをかけた。
「なんでビリーかな」「いいでしょ」
いい感じで、杯を空けていった。ダラダラながら飲んで食べて、話で盛り上がった。普段、毎日顔を合わせているのになんでまあ、こんなに盛り上がるのか。まあ、いつものことだがこんな時は巻が話のリーダーだった。そして、すでに酒に酔った森ちゃんも調子がよくおしゃべりだった。
俺はそんな彼らの話を聞きながら大いに笑った。小坂はホスト気分なのか、あっちこっちウロウロしてみんなに気を遣っている。下に行っては何やらおつまみを持ってきたり。いのちゃんは始終ニコニコして話を聞いていた。
1時間ほどして、大佐がやってきた。見なくてもわかるが、間違いなく愛車のごつい業務用自転車で来たのだろう。何やら背中に大きな荷物を背負ってきている。
「遅いぞ大佐!」すでにご機嫌の巻が、新しいグラスを大佐に差し出した。
「すまん。いろいろあってな」「いろいろってなんだよ?」
「まあ、いろいろだ」「どうせ大した用事じゃないんでしょ、はい」俺は大佐のグラスにビールを注いだ。彼は一気に飲み空けた。
「はい」森ちゃんがビール瓶を差し出した。大佐はグラスを出した。そして二杯目も一気に飲み干した。
「じゃあ、次は俺ね」いのちゃんがビールを注いだ。それも一気に飲み干した。「さ、さすがだ」
大佐は高3にしてすでに晩酌をするような猛者だった。
「その背嚢、何入ってんの?」小坂が大佐が背負っていた荷物を指差した。
大佐はいつも古臭いリュックを背負っていた。それがいかにも戦時中の兵隊さんが背負っているような背嚢みたいだった。
「これか?」そう行って大佐はおもむろに背嚢から一升瓶を出した。
「・・・・さすが大佐、酒を持ってくるとは」「うん。遅れたからな」
そしておもむろに封を開け、自分のグラスに注ぎ飲み出した。
「あっぱれだな。じゃあ、俺はウイスキー飲もう」
時計を見るとすでに22時だった。
「結構飲んだなあ・・・・」「うん酔ったよかなり」
ベットを見ると森ちゃんがすでに寝ていた。ステレオの前でいのちゃんがヘッドフォンをつけ何やら聞いていた。俺と巻と大佐はだらだらと飲み続けていた。「ねえ、巻、船山さんとはうまくいってるの??」「まあな」
「やったか?」「ちょっと〜、大佐、ストレートすぎねえ?」「で、やったか?」「だからさあ・・・・、まだ」「そうか」
「でもまあ、いいね、幸せそう」小坂がしみじみと言った。
「大佐はどうなの?お嬢さんに告ったの?」「何!」大佐はそう言って小坂に詰め寄った。
「うそうそ。もう、大佐ったら。でもさあ、それでいいの?見守るってだけで。つうか、何から守るのやら・・・・」「お前はどうなんだよ、小坂」
「俺?かわいいなあって思う子はいるけど、いいかな、今は。つうか高和は?」「俺?まあ、俺はいいなあって子が多くてさあ。迷ってるの」
「そう言ってるうちに卒業だな」「そうかもな」
「滝沢さんはどうなの?」「オイオイ、彼女はお姉さんだぞ」
「だよなあ、もったいない。俺がいただいていい?」「どうぞ、絶対無理だけど」「なんでよ?やっぱ彼氏いるのか。だよなあ、あのルックスじゃ」
「いや、いないはずだぜ」「まじ?」「うん。でもお前は無理だ」「だよなあ」
0時を過ぎ、いいかげん酔っ払い、酒も飲めなくなってきた。
「じゃあ、俺帰るな」「えっ、これから?」「うん。いろいろあるのだよ」
そう言って大佐は背嚢を背負った。
「いろいろってなんだよ?」「いろいろだ」
「まあどうせ大したことないんだろ」「じゃあな」
そう言って大佐は出ていった。
「じゃあなあ〜大佐〜」
俺たちは窓を開け、走り去る業務用自転車に向かって手を振った。こんな夜中に近所迷惑。しかも、大佐、怪しい。
「本当、今日お兄さんいなくてよかったね、小坂」「本当」
その後もしばらく、4人でだらだらと話をしていた。
「く、く、くるしい・・・・」
「ん?」声がした方を見ると、ベットの上ですでに寝ていたはずの森ちゃんが悶えていた。
「く、くるしい・・・・」「おい、苦しんでるぞ?」「大丈夫か、森ちゃん?」「くるし・・・・」「飲み過ぎか?」
「これって、急性アルコール中毒ってやつ?」「まじ?それってヤバくねえ?」
「お、おじいちゃん、助けてえ・・・・」
森ちゃんはくるしそうな表情で両手を上に挙げていた。
「おい、大丈夫かよ!死ぬんじゃねえのか?」「嘘だろう、おい!」
「だってよ、よくニュースでやってるべ。大学生とかがさあ、急性アルコール中毒で死ぬってさ」「まじ!」
「おじいいちゃん、たすけ・・・・」
「おい。うわごと言ってるぞ」「森ちゃん大丈夫か?」小坂と巻が顔を覗き込んだ。
ど、「真っ青、まずいかも」「どうする?」
「どうするって、何もできねえべよ」「だよな」
「オジイちゃ・・・」
「おじいちゃんだって、なんか笑える」
俺は思わず笑ってしまた。
「おい、笑ってる場合じゃないぞ」「死んだらどうすんだよ!」
巻と小坂が心配顔で言った。
「え〜、死なねえよ。そのうち気持ちわり〜って起きだすよ。そんでゲロ吐いて終わりだ」
「そうかあ?でも、マジでまずくねえ?おじいちゃん呼んでんだぞ」
「そうだよ、迎えに来てんだよ、森ちゃんのじいちゃん。どうする?」
「あの世から迎えに来てるって?ったく、本当、お前らビビリだな。大丈夫だって」
「そんなに心配?」それまで黙っていたいのちゃんが急に言った。
「当たり前でしょ」「そうだよ、まじ死んだらどうすんだよ」
「そうか。そうだよな。じゃあさ、森ちゃん、西港に捨てて来ない?」
「はあ?」「何言ってんの、いのちゃん」
「だからさあ、ここで死なれたまずいんでしょ?それなら西港に捨てればバレないじゃん」「オイオイ、過激だな」
「いのちゃん、やべえな。そんなことできるわけねえじゃん」
「じゃあ、どうするの?」「わかったよ。放っておこう」
「そうだよ。どうせ明日になったら平気になってるって」
その後、巻、小坂、俺は代わる代わるトイレに入り、ゲーゲー吐いてきた。そしていつの間にか眠っていた。
カーテンを閉めていなかった窓から、朝日が差し込んでいた。俺はその日差しで目が覚めた。時計を見ると9時だった。テーブルの上の置かれたヤカンからグラス一杯の水を注で飲んだ。うまい。
でも、部屋にこもったアルコール臭が気持ち悪い。思わず窓を開けた。ベットの森ちゃんを見ると、すっかり顔色も良くなり、軽い寝息をてていた。
その寝顔を見て思った。西港に捨てに行かなくて良かったよ。てか、そんなことするはずねえけどさ。タバコに火をつけた時、みんなが起き出した。
「水くれ〜」「頭いて〜」俺は全員分のコップに水を注いだ。
「おい、森ちゃん、大丈夫か?」「うん。大丈夫。ちょっと頭痛いけどね」
昨日の苦しみ方が嘘のようだ。
「西港に捨てに行かなくて良かったね」いのちゃんがいつもの笑顔でそう言った。
「本当だな」巻は頭をかいていた。
「過ちを犯す所だった」小坂は小声だった。
「・・・・・・つうか、マジでお前ら捨てに行く気だったの?」
「・・・・・・・・・・・」3人は顔を見合わせた。
「お前らやべえわ。マジ怖い」
「西港って何?」
「な、なんでもない。つうか、森ちゃん、昨日はすげえ苦しそうだったぞ」「本当に?」「ああ、おじいちゃん呼んでたぞ」「マジで・・・・」
「何それ、西港って?笑える」
「でもまあ、俺は大丈夫だと思ったけど、他がマジで心配してさ。森ちゃんを心配じゃなくて、ここで、死なれたらって心配してたみたい」
「呆れた人たちね。まあ、でも楽しかったみたいね」
「うん。すげえ、楽しかったぜ。これに懲りずまたやろうって」「ふ〜ん」
「なんか、露店の冷やかしも飽きたし喫茶店行かない?」
「そうね。コーヒーでも飲もうか」
いつもの駅前の喫茶店へ行った。
「あら、いらっしゃい、京子ちゃん」「京子ちゃん?」
俺はウエイトレスのまゆみさんと京子ちゃんを交互に見た。
「いつからお友達?」
「ん?たまに来てたの。部活の帰りに。そしたら、まゆみさんと仲良くなっちゃった」「ねえ」
「あっそう。コーヒーください」「私はアイスココアをお願いします」
「毎度ありがとうございました」
そう言ってまゆみさんは深くお辞儀をした。その時、まゆみさんの広く開いた胸元から豊かな谷間が見えた。やば・・・・、俺はすぐに席に座った。
二日後に特別行きたくもなかったが、札幌の実家へ帰った。実家といっても、住んでいたこともなく、帰るといっても・・・・。
まあ、いいか。釧路から札幌までの夜行バスに乗った。23時発で7時に札幌バスターミナルに着く。座席が狭く俺の体には合わない。思いっきりフラットにして早々と眠りについた。途中、いくつか休憩があり俺はそのたび起き出して外へタバコを吸いにいった。
予定通り7時前に札幌市街地へ入った。終点のバスターミナルの一つ前に時計台の前で停まりここで数人おりた。「は〜時計台か」
俺は生まれが札幌だった。お袋も札幌出身で親父と結婚するまで札幌に住んでいた。お袋の両親がリタイア後に隣の江別の田舎に越していた。だから俺は小さい頃よく江別に来ていて、死遺跡が札幌にいたので、住んだことのない街だったが馴染みの深い街だった。
早朝のバスターミナルは人があまりいない。夏とはいえ、8月の中旬、少々肌寒い。俺は駅へ向かった。国鉄の普通列車に乗り込み、3駅目の厚別駅で降りた。ここから歩いて10分ほどに両親が借りた築30年以上のオンボロ一軒家あった。ここに来るのは2回目で、しかも駅から歩いたことはないが、なんとか行けるだろう。少々迷ったが、家を見つけた。これほど目立つ家はない。なんせ、築30年以上のボロだから。
三日という短い時間だったが、久しぶりの家族に会って久しぶりの人間らしい食事を取れた。両親には大学受験をどうするかと聞かれた。正直何も考えてないと言った。でも、今、知り合いに誘われてほぼ毎日図書館で勉強していると言ったら、安心してくれた。
釧路へは20時に着く特急大空に乗った。駅を降り立つとすでに釧路の街は真っ暗だった。駅から歩いて20分、部屋に着いた。俺はその前に近藤商店に入りラッキーストライク とビールを買った。
「あれ、どこか行ってきたの?」奥さんが俺が持つボストンバックを見ていった。
「はい。札幌の親のところへ」「そう。元気だった?」「はい」
「そう。タバコばっかり吸ってないでたまには手紙でも書いてあげなさいよ」「はあ・・・・」
部屋に入りとりあえずテレビをつけた。
ナイターがやっていた。
巨人の松本がヒットを打った。すかさず盗塁。さすが青いイナズマだ。
電気もつけずしばらく見ていた。タバコに火をつけた時、原がホームランを打った。俺は原が好きだった。
なんか急に寂しくなった。「なんだろう・・・・」
俺は頭を振って、風呂へ行った。でも湯船に湯は張っていなかった。
「そうか、客いないんだ。みんな夏休みかな」
シャワーで軽く体と頭を洗い、部屋に戻りタバコに火をつけテレビをつけた。いつの間にかヤクルトが逆転していた。ビールが苦かった。
朝飯を食べ一服していると、ドアがノックされた。時計を見ると8時50分だった。
「どうぞ」開いたドアから笑顔の京子ちゃんが見えた。
「おかえり」「あれ、帰ってるの知ってたの?」
「昨日帰ってくるって言ってたじゃん」「そうだっけ」
「うん。行こう、図書館。しばらくサボってたから」
「え〜、マジ?俺はなんか、図書館て気分じゃないなあ」「何、ホームシック?」
「ば、馬鹿違うよ。時差ボケ」「は?どこ行ってきたのよ?行くわよ」「・・・・はい」
面倒臭い。でも一週間ぶりに京子ちゃんの顔を見てさっきまでクサクサしていた気持ちが和らいだ。
「今日は久しぶりだから、みっちりやろうね」「え〜、嫌だよ〜」
「何よ、嫌だって。子供みたい。かわいい」そう言ってくすくす笑った。「・・・・」
図書館はすでにいっぱいだった。京子ちゃんは要領がいいから、なんだかんだ愛想を振りまいて席を二つ確保した。
「それにしてもお盆だってえのになんでこんなに人いるんだろ」
「みんな頑張ってんのよ」「つうか、なんで俺はここにいるんだろう」
「うるさい。問題集広げて」「・・・・はい」
俺はブツブツ言いながら問題を解いていった。でも、全然気持ちが乗らない。集中力はすぐに途絶え、すぐにぼうっと窓の外を眺めていた。その度に京子ちゃんに叱られた。
「ぼうっとしてんじゃないわよ!」「は、はい」
それを何度も繰り返した。
「お昼になったね。休もうか」「はい」「ていうか、今日は終わりにしようよ」「・・・・?」「だって、涼くん全然、集中してないし」
「すんません」「こんな日は何もしないほうがいいかも」
「ごめんね。京子ちゃんの邪魔だったな。俺は帰るから、京子ちゃん頑張って」「私も帰る。実は私も集中できなかったんだ。ねえ、せっかくサンドイッチ作ってきたからどこかで食べよう」「悪いな、いつも」
図書館を出てしばらく歩き、幣舞橋へ降りる坂の途中にある公園に差し掛かった。
「ここはどう?」「うん。でもどうせなら港行かない?今日も暖かいし風が気持ちいいかも。私あそこ好きなの」「そう?じゃあ、あそこで食べようか」
部屋に寄って荷物を置いて、港へ行った。もちろん、近藤さんでビールを買って。
「もう、またビール?」「えへ。こんな日の港はビールが美味しいよ」「勝手にどうぞ」
いつものリーゼントに京子ちゃんは腰掛け、俺はその下に座った。
「はいどうぞ」ラップに包まれたサンドイッチを渡された。すぐに開き口をつけた。ハムとキュリ。
「うまい!京子ちゃんが作ったの?」「うん」
「マスタードがなかなかいい感じ」「ありがとう。これもどうぞ」
タッパの蓋を広げ、俺の方へ差し出した。
「何?あっ、ザンギ」
「うまいよ。これも京子ちゃん?すごいね。料理できるなんて・・・」
「ん〜、残念ながらこれはお母さん」「そうなの、やっぱり。お礼言っといて」「うん」「でも、サンドイッチ、美味しいよ」
「いや〜、気持ちいなあ、今日は」俺は足をブラブラさせた。「そうね」京子ちゃんも俺を真似て足をブラブラさせた。足が上がるタイミングで、白い腿がチラリと見える。
サンドイッチと一緒に飲み込んだビールがいい加減効いてきたか。俺はご機嫌だ。一本目を空け、二本目に突入した。
「ちょっと、まだ飲むの?」「二本目だよ?いつものことじゃん」
「調子に乗って〜」「もう夏休みも終わりだからいいじゃん」
「そうか、終わりか・・・・」「どう、京子ちゃんも一口」
「・・・・この前、寝ちゃったしな・・・・」「大丈夫でしょ」
「そうかなあ・・・・」「夏休みだし」
「そうね」あっさり。京子ちゃんは俺の手からビールを受け取り、一口飲んだ。「やっぱり苦い!」顔をしかめてビールを返した。
「そりゃあそうさ、オレンジジュースじゃないもの」
その後もとりとめのない話をしながら、サンドイッチとザンギを食べていた。「なんだかんだ言って、京子ちゃん、また飲んじゃったね」
「ほんのちょっとよ」そう言った顔はほんのり赤かった。
「じゃあ、帰ろうか。バス停まで送るね」「ありがとう」
喉が渇いた。「京子ちゃん、喉乾かない?」「・・・・乾いたかな」「近藤さんでなんか買ってくる。その間に、俺の部屋から荷物持っておいでよ」
「わかった」
お茶とコーラを買って、待っていたが京子ちゃんはなかなか出てこない。
「何してるんだ?トイレかな」俺は部屋へ向かった。ドアが少し空いていた。
「なんだよ、まったく」京子ちゃんがリュックを枕にして横になっていた。
「やっぱ、ビールはまだ早いね」この前と同じパターンだ。
「京子ちゃん」俺は彼女の体を揺さぶった。
「京子ちゃん」「・・・・ん?」「起きなさいよ」
「・・・・ん?あれ、寝ちゃった・・・・ごめん」「大丈夫?」
「うん」上半身を起こした。
「はい」お茶とコーラを差し出した。お茶を取った。
「ありがとう」一口飲んでテーブルに置いた。
「ふ〜。また寝ちゃったね」「でも数分だよ。大丈夫?」
「うん。でももう少し休もうかな」「いいよ」
小さな寝息がする。俺はタバコに火をつけた。横になった彼女の顔は髪の毛で隠されていた。俺は思わずその髪の毛をかきわけた。見とれてしまった。
今まで感じたことのない彼女への感情が湧いてきた。やばい。
俺は顔を彼女の顔に近づけた。近づくほどにいい香りがする。
「ん?」彼女が目を開けた。俺は慌てて顔を離した。
「また寝ちゃった」「・・・・」
「ごめんね。帰るね」「・・・・うん。バス停まで送る」
バス停までの15分ほどの道のり、俺は妙に緊張した。しかし、京子ちゃんはそんなことも気にせずに、俺に話しかけてきた。
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