第3話 ラーメン最高(仮)

練習を重ねていく度に新曲の「ラーメン最高(仮)」はどんどん良い感じに仕上がってきた。初めのうち、高木はドラムを叩きながらラップをすることに手こずっていたけど、1週間もすると何の問題もなくラップをしながらドラムを叩けるようになった。

ぶっちゃけ、歌詞も曲名もあんまり気に入ってないけど、曲自体はすごく好きだ。


彩「ふー、今日はこんくらいにしておく?」


高木「うい〜、じゃあまたな、次いつ?水曜?」


彩「うん、じゃあね、おつかれ〜」


高木「ういっす、今日はどこのラーメン行こうかなー」


彩「璃子は?帰んないの?」


璃子「・・・もうちょっとだけ個人練してもいい?」


彩「え?うん、わかったーパパに聞いてくるね〜」



高柳「は〜い、彩、おつかれさま〜」


彩「璃子がもうちょっとだけ練習していきたいっていってるけど平気?」


高柳「いいよ〜あと1時間くらいだったらだいじょうV」


彩「りこー、あと1時間くらい平気だってー」


高柳「なんか、面白い曲になってきたね〜新しいやつ」


彩「うん、高木があんなにラップできるの知らなかったから、璃子が偶然youtubeで見つけたんだけど、あいつ結構youtubeで有名になってんの、パパ知ってた?」


高柳「うん、知ってたよ〜、ドラムよりラップのほうが先にやってたからね〜」


彩「え?なんで教えてくれなかったの?」


高柳「え?だって探してたのドラマーでしょ?隆が言ってないなら、パパがわざわざ言わなくても良いかなぁって思って笑」


彩「まあ、そうだけど、でも高木ってドラムはじめてまだ2、3年なんでしょ?すごいよね」


高柳「そうだね、隆は独特のグルーヴがあってかっこいいよね、まあ最初はヘッタクソだったけどねぇ、ああ見えてものすごい努力家だからね、隆」


彩「・・・・なんで高木紹介してくれたの?」


高柳「う〜ん・・・いろいろ理由はあるけど・・・彩と璃子ちゃんと一緒にやったら、隆が楽しそうかなぁ・・・ってのが一番かなぁ」


彩「なんか、ずいぶん高木のこと詳しいね」


高柳「うん、まあねぇ、有名だったからね、隆。いろんな意味で笑」


彩「え?なになに?聞きたい!!」


高柳「うーーーーん・・・・・まいっかぁ、隆はもうあんまり過去のことは気にしてなさそうだし」


彩「?」


高柳「隆ね、中学までサッカーやっていたんだよ、しかも超上手くてね、近所で有名だったのよ。まあパパが知ってるくらいだからね、すげー上手い子がいるってさ、プロになるかも!ってね。東京選抜に選ばれて、その年代の日本代表に選ばれるかも!って」


彩「え?まじで?あんな太ってんのに?」


高柳「あはは、当時はもう少し痩せてたと思うけどね、でもね、試合中に大怪我しちゃってさ、サッカーできなくなっちゃったんだよ、そして、見事にグレたの笑」


「サッカーやっていた時からだけどさ、隆、見た目あんなじゃん?、いじめとかさー差別とかは小さい頃から受けてたみたいなんだよね〜、でもサッカーやってた時はいろんな人に認めてもらっていたんだけどね、怪我しちゃってサッカー諦めなきゃいけなくなって・・・自暴自棄になって・・・・爆発しちゃったんだろうね〜」


「いつの間にか、ここら辺で有名な不良になっちゃったのよ、隆。あんなガタイだから喧嘩も強かったみたいだしね〜、んで、悪そうなお友達とつるみだして、フリースタイルバトルとかやり出したんだよね。まあ、でもラップっていうか、暴言だよね笑」


「狂犬だよ、狂犬笑。まさしくtakashitだよ。ラップバトルっていうか口喧嘩。笑」


「でもね、隆ってさ、昔からリズム感がよくってね、暴言ラップだけど、カッコよかったんだよね」


彩「喧嘩強かったの?あいつこの間、柔道部に簡単にやられてたけど・・・・」


高柳「ん?なに?」


彩「いやいや、なんでもない!!それで?」


高柳「うん、それでね、ある日、この店であるイベントがあったんだよね、隆はラップバトルで参加したんだけどね。その時ね、結構有名バンドも出てたんだよね」


「隆、そのバンドのドラム見て、えらく感動しちゃったらしくってさ、イベント終わったあと、そのドラマーに弟子入りしたいって言ったみたいなの笑」


「かわいいでしょ?笑。隆、根はピュアだからね笑」


「そのドラマー、パパちょっと知り合いなんだけどね、まあ、たしかにすごくかっこいいドラマーなんだよね、そんでさ、隆に」


『ああ、ラッパーの坊主じゃん。ドラムやりたいって?・・・・・・』

『お前さ、ラップは誰かに教わったの』


「ってね」


『お前のラップ、下手くそだけど、なんか良かったよ。もしドラムやりてえなら、そのままのノリで叩けば良いよ、お前が思った通りにさ。俺も別に誰かに教わったわけじゃないしさ』

『ここの店のオーナーに俺からも言っておいてやるからさ、ドラムの練習、ここでやらせてくださいって頼んでみろよ』


「ってことで、隆はここでドラムの練習をはじめたんだよね、初めは下手くそすぎてさ、いてもたってもいれなくて、少し教えちゃったんだけど笑」


「それからあっという間だよ、どんどん上手くなっていった。多分だけど、此処だけじゃなくって家でもきっと練習してたんじゃないかなぁ・・・3ヶ月くらいしたら、まあまあ聴けるくらいにはなってたね、あとね・・・練習するたびに律儀に毎回1000円持ってきてさ笑、別に開店前だから良いよっていったんだけどね。バイトしながら、練習もして、ラップも続けてたみたいだったよ。」


彩「・・・へぇ・・・・」


高柳「それでね、そろそろ一人で叩くのもあれだと思って、めぼしいバンドを紹介したんだよね。ドラムはさ、どこも人手不足だからね〜」


「でも、彩も知ってると思うけど、隆のドラムってちょっと癖があるでしょ?それがね、なかなか上手くいかなくてね、初めのバンドは3ヶ月も持たなかったかなぁ・・まあ、それでも初めてだからってことで、また違うバンドを紹介したんだけど、まあ・・・そこもあんまり上手くいかなくてねぇ・・・・それでも隆は新しいバンドを紹介して欲しいっていうから、違うバンドも紹介したんだけどさ・・・・そこでも上手くいかなくてねぇ・・・・隆の顔がまた狂犬みたいになりはじめてさぁ・・・こりゃまずいなぁ・・・・ってパパも思っていたんだよね」


「そんな時にね、ちょうど彩と璃子ちゃんたちがドラムを探してたんだよね。ドロップキックもだんだん上手になってきてて、なにより二人ともずいぶん楽しんで演奏できるようになってたからさ。」


「ほら、璃子ちゃんって普段お人形みたいな顔してるけど、最近ちょっと半笑いでギター弾いてるよね笑。で・・・・隆も少し楽しくドラム叩いても良いんじゃないかなぁって思ってね、ほんと偶然のタイミングだよ。で、紹介したの」


「そしたらさ、以外とノリがあったみたいで今に至る。って感じじゃない?」


彩「まあ、いつも楽しそうにはしてるよね・・・今のラーメンのラップしてる時とかもさ」


高柳「あはは、ねえ、あのラップも面白いね。隆っぽいよ。なんだっけ?頭はアングリー、お腹はハングリーだっけ?笑」


彩「ふざけてんじゃないかと思ったけど・・・まあ、高木らしいっていえば高木らしいよね」


高柳「・・・・・それより、あそこのお人形さん・・・すごい顔して弾いてるけど大丈夫?笑」


パパにそう言われて璃子の方を見ると・・・・生理二日目なのか?チョココロネを誰かに食われたのか?っていうくらいの不機嫌顔でギターをかき鳴らしていた。


高柳「なんか上手くいってないんだね笑、璃子ちゃんって恐ろしく正確に機械みたいに弾くよね・・・・」


彩「まあ・・・アンドロイドだからねぇ・・・・」


高柳「・・・・それさぁ前から思っていたけど・・・彩、信じてるの?」


彩「ん?なんで?」


高柳「あぁ、いやぁ・・・普通は・・・信じなくない?アンドロイドだよ?笑」


彩「あはは笑、そうだよね、でも私保育園から璃子と一緒で、ずっと見てきてるから!。璃子なんでもできるんだよ、アンドロイドだってバレないようにこっそり隠して事もあるし」


高柳「??」


彩「多分璃子、本気で100m走ったらオリンピックで世界新記録出しちゃうよ笑」


高柳「え?ほんとにぃ?」


彩「うん、でもアンドロイドだからオリンピックには出ないって笑!どっちかというとパラリンピックだって言ってた笑」


「それにね、大分人間っぽくなってきたんだよ、あれでも。昔より感情が出てきたし、あいかわらずあんまり笑わないけど、でも前よりは笑う事も増えたかも。パパ見たことないでしょ、璃子笑うとめっちゃ可愛いんだよ」


高柳「・・・・・そうなんだぁ、見てみたいなぁ璃子ちゃんがめっちゃ笑ってるの・・・まあでも今は・・・あのしかめっつらをなんとかしてあげたら?笑」


彩「あはは、ほんとだ酷い顔してるね。璃子〜今日はこれくらいにしよ〜」


彩はそう言って璃子の元に向かった。


彩「そろそろ帰ろうよ」


璃子「・・・・・うん・・・・・・」


彩「なんか、すんごい顔して弾いてたけど笑。どしたの?」


璃子「まじ?うーーーん、なんかさ。高木最近調子良くない?」


彩「うん、ラップはじめてからドラムもよくなってるよね」


璃子「璃子、なんかイマイチなんだなよぁ・・・・」


彩「上手く弾けてると思うけど?」


璃子「うーーーーん・・・・・」



高柳「・・・・・・・・・彩と璃子ちゃん、土曜日ひま〜?」


彩「えーと、うん、私は大丈夫かな」


璃子「うん」


高柳「夕方からイベントがあるんだけどさー、面白いバンドが出るんだけど、まだ2回目のライブでね、お客さんあんまり集まらないかもしれなくてね、来てよ。隆にも声かけてみて〜」


彩「うん。わかったぁ」



次の日の昼休み


彩「璃子ぉ、今日私も購買にいくから一緒に行こう」


璃子「・・・うん」


昨日の練習の後から璃子はずっと考え事をしているみたいだった。

ぼーっとしていたり、たまたまブツブツつぶやいたり、コードを押さえる手つきをしてみたり。


彩「あっ高木だ、おい高木ー」


高木「おう、彩と璃子じゃん・・・・・」


高木は璃子を指差して「・・・・・これ?どうしたの?」


璃子はブツブツ独り言を言っていた。


彩「あーなんか、新曲上手く弾けてないみたいで、昨日の帰りからこんな感じ」


高木「ふーん、ちゃんと弾けてると思うけどなぁ」


彩「うん、私もそう言ってんだけどね〜、まあ、良いんじゃん、向上心があるってことは」


高木「まあ、なんか・・・別にもっと楽しめば良いんじゃないかなぁって思っちゃうけどね」


彩「あんたはノリ重視だからさぁ・・・・・まあ、でも楽しくないとやってても意味ないもんね」


高木「まあな」


ブツブツ・・・・璃子は私と高木も話している間も独り言を言っていた。


彩「あっそうだ、忘れてた。高木土曜の夕方空いてる?」


高木「え?土曜の夕方?・・・うん、空いてる。」


彩「パパがイベントに遊びに来いって言ってたんだけど、来るよね?」


高木「高柳さんが?うん、行く。」


彩「なんか良いバンドが出るみたい」


高木「へー、どんなバンド?」


彩「そこまで聞いてないー、まあでもパパが良いっていうんだから多分良いんじゃない?」


高木「まあな。あっ順番きた。おばちゃん、焼きそばパンとカツサンドと、えーとたまごサンドと・・・・・あと・・・焼きそばパンもう一個と、牛乳ちょうだーい」


彩「あんたそんなに食うの?」


高木「えーだってラーメンないじゃん。学食あればいいのになー、バイト代たりねーよ」


彩「あっおばちゃん、私ハムレタスサンドとオレンジジュース。璃子!早くしないとなくなっちゃうよ」


璃子「あっチョココロネとコーヒー牛乳」


おばちゃん「ごめんねー、チョココロネ売り切れちゃった」


璃子「えーーーーー・・・・・じゃあ・・・クリームパン・・・」


彩「じゃあ、高木とりあえず明日練習ねー」


高木「おうー」


璃子「ぶつぶつ・・・・・・・」


彩「まだなんか悩んでんの?弾いてみないと、どうしようもないじゃん!」


璃子「・・・・・チョココロネ・・・・・・・・たべたかった・・・・」


彩「そっちかよ笑。あんたほんとチョココロネ好きだよね〜」


璃子「・・・・そっか!!!」


彩「え?なに?」


璃子「チョココロネだ・・・・・・」


彩「はい?」


璃子「高木はラーメンの歌を歌ってるからあんなに楽しそうなんだ・・・・璃子もチョココロネの曲を作ろう!!!!」


彩「え?そういうこと?そういうことなのかなぁ・・・・」


璃子「ねえねえ、ちょっと思いついたからちょっとで良いから練習したい」


彩「えー、わたし今日バイトだしなぁ・・・・まあいいか・・・パパにLINEしてみるね」


パパにLINEをしたら、オッケーだということだったので、璃子に伝えると、さっきまでの仏頂面はどこ行ったんだろう。スキップでもしそうなくらい上機嫌になって教室も戻った。

クリームパンには不満気だったようだがいつものように、いやいつもよりちょっと楽しそうにしていた。


放課後、璃子と別れて私はバイトに向かった。

もうちょっとで、欲しいエフェクターが買える。

すごく高価なものではないけど、練習をしながらだとバイトがなかなかできない。

本当のところを言うと、同じようなエフェクターはパパのお店というか、パパが持っている。たぶんおねだりをしたらパパはいつでも貸してくれるどころか、プレゼントしてくれると思う。

けど、私の小さなプライドでそこは自分で買おうと思っている。

ただでさえ、練習するスタジオ代はパパのお店を借りられて恵まれているのに、それ以上甘えたくない。

高木がドラムの練習にきていた時に、いらないっていうのに毎回1000円持ってきた気持ちはなんかわかる気がする。

とにかく・・・次のライブまでにエフェクター買って、練習して、良いライブをしたい!



璃子「こんにちは」


高柳「あ〜璃子ちゃん、いらっしゃーい」


璃子「よろしくお願いします」


高柳「うん、今日は。。。18時半までかなぁ・・・20時からライブあるから」


璃子「はい、十分です。ありがとうございます」


高柳「・・・・・なんか良い事あった?」


璃子「え?なんでですか?」


高柳「いや・・・なんとなく・・・かなぁ・・・」


璃子は準備をはじめて早速ギターを弾き始めた。

初めは首を傾げたり、うーんと唸っていたりしたが、15分ほど弾いたあたりで何かをつかんだようだった。同じリフを何回も弾き、いろんな弾き方でそのリフを弾き始めた。

そのうち他のコードからリフを繰り返し2、30分ほど休まずに弾き続けた。

少し何かをつかんだのか、一旦ギターをおろして水を飲んだ。



高柳「ねえ、やっぱり、なんか良い事あった?」


璃子「え?・・・・うーーーーん。高木って『ラーメン最高(仮)』の時ラーメンのこと考えながら演奏してるんじゃないかって気づいたんですよね」


高柳「え?笑」


璃子「高木ラーメン大好きだから、だからあんなに楽しそうに演奏できるんだって気づいて・・・・だったら璃子も好きな物のこと考えて演奏すればいいんだって気づいたんです」


高柳「好きな物って?」


璃子「チョココロネ」


高柳「ぷっ笑」


璃子「ちょっと聴いてみてくださいね」


そういうと璃子はギターを担いでさっきまで練習していたリフを弾いてみせた。


璃子「このリフよく聞くと『チョココロネ』って聞こえません?」


高柳「え?まって笑。もう一回弾いてみて」


璃子はもう一度よりチョココロネに寄せてリフを弾いた。


高柳「ほんとだ笑チョココロネチョココロネだ笑」


璃子「でしょ?お昼休みに思いついたんだけど・・・実際に弾いてみたくて・・・あっあと15分くらいだ、もう少し練習しなきゃ」


そういうと璃子はまたギターを弾き始めた。


高柳「ふふっ・・・ほんとだ、笑うとめっちゃかわいいじゃん」




水曜練


璃子「璃子がチョココロネのリフを生み出したので、この曲は今日から『チョココロネvsラーメン(仮)』になりました」


彩「・・・・・・・・はぁ」


高木「俺は別になんでもいいよ」


彩「えーーと・・・・高木のラップ以外の歌詞は少し考えなおすから・・・それが決まってからにしよう・・曲名を決めるのは・・・・」


高木「次のライブいつだっけ?」


彩「来月の15日、あと3週間くらい?」


高木「3週間あればなんとかなっかぁ、そういえば今年も文化祭出るの?」


彩「うん、出たいかなぁ・・・せっかくだし、いい?」


高木「俺はいいよー、1年生にファンできるかもしんないし」


彩「璃子は?」


璃子「・・・・・まあ・・いいよ・・・」


高木「なんだよ、あんま乗り気じゃないじゃん、去年なかなか好評だったじゃんかよ」


彩「文化祭のあと璃子3人くらいに告られたんだよ」


高木「まじで?すげーじゃん、やろうぜ!俺も告られるかなぁ・・・」


璃子「そういうの・・・めんどくさい・・・・」


彩「まあいいや、とりあえず練習しよう」



璃子の新しいリフで、新曲の完成度はまた一段アップした。

何よりも璃子がギターの音が少し変わった気がする、そして、璃子が楽しそうにギターを弾いていた。この曲はドロップキック史上一番良い曲になりそうな気がしてきた・・・・

が・・・・歌詞と曲名が・・・・・・

チョココロネとラーメンか・・・・・・・

今まで作詞は璃子と二人で半々って感じで作っていたけど・・・璃子の言葉のセンスはちょっと変わっているから、インパクトが欲しい時には良いんだけど・・・

今回は私がちょっと頑張って書こうと思った。



土曜日


パパに誘われたライブの日、17時にお店で待ち合わせをした。


高木「うい〜す」


彩「おっ高木おつー」


璃子はチョココロネを食べていたので手を高木にあげて挨拶をした。


高木「お前休みの日もチョココロネ食ってんのかよ。で?どれ?高柳さんおすすめのバンドって」


彩「この2つ目のバンド・・・Passionné・・・・」


高木「・・・・何語?」


璃子「パシオン。フランス語」


高木「どういう意味?」


璃子「情熱・・・とか、情熱的って意味かな」


高木「へー、あいかわらず色々知ってるね」

「あっ・・・チョココロネもフランス語か・・・・」


璃子「ううん、チョココロネは日本発祥」


高木「・・・・・」


彩「なんか名前からしてちょっとオシャレそうだけど・・・」


高木「なんで?おれたちもオシャレじゃね?」


彩「チョココロネvsラーメンが?」


璃子・高木「・・・・・」


17時半からライブは始まった。

1組目のバンドはアコースティックのデュオだった。

夕方の野外で聴いたら気持ちよさそうな優しい音楽とヴォーカルで素敵だった。

素敵だったけど・・・・

パパがなんでこのイベントに私たちを誘ってくれたのがまだ良くわからなかった。

確かにいろんなバンドの音楽を聞くのは楽しいし、勉強にもなる。

でも・・・私たちバンドとはタイプが全然違う雰囲気だし・・・

このイベントもなんだかちょっとおしゃれで大人な感じがする。

でもパパがおすすめするってことは何かしら意味があるんだと思うんだけど・・・・


1組目のバンドが終わって会場から静かに拍手が起こった。

セットチェンジで・・・次のバンドが出てきた。

ドラム、ベース、キーボード。ちょっと変わった編成だった。

キーボードは女の子で若そうだった、私たちと同じくらいかな。


璃子「・・・・・・・・あっ・・・」


彩「ん?璃子どうしたの?」


璃子「ううん・・・なんでもない」


演奏が始まった。

ジャズっぽい感じのインストの曲だった。

かっこよかったし、3人とも超絶上手かった。


高木「やべ、上手くね?この人たち」


彩「うん、超上手い」


璃子「・・・・・・・・・・・・・」


確かに上手いしカッコいいし・・・でも、それでもパパがなんでこのバンドを見せたかったのかまだ理解できてなかった。私たちそんなに技術的な音楽やってないし・・・


2曲目が始まった。

1曲目よりも少し激しい曲調の演奏だった。

ベースのソロ、ドラムのソロ・・・・


そして、キーボードのソロが始まった瞬間に・・・・・


パパがこのバンドを見せたかった理由がわかった。

キーボードのソロがすごかった。

超絶テクなのはもちろん、感情を叩きつけるように演奏する姿に鳥肌が立ってしまった。

そして・・・彼女はすごく楽しそうに、屈託のない笑顔で演奏している姿に目を奪われてしまった。


高木「やば・・・」


彩「・・・・・・・・・」


璃子「・・・・やっぱりそうだ・・・・・」


圧巻は3曲目だった、今まで2曲のジャズっぽい曲調から一気にロック風の激しい演奏に変わった。それでもキーボードの彼女は笑顔で、楽しそうに激しく演奏をしていた。

ベースもドラムもすごく上手くてカッコよかったけど、キーボードに目が、耳が奪われてしまった。


璃子「マコちゃんだ・・・・・」


彩「え?・・・・・」


璃子「あれ・・マコちゃんだよ・・・」



まだ2回目のライブだったからかPassionnéの演奏は3曲で終わってしまった。

3曲目が終わったあと、大きな拍手が起きた。



彩「え?マコちゃん?」


璃子「うん」


彩「マコちゃんってあのマコちゃん?」


璃子「うん」


演奏が終わって客席に来ていたPassionnéのキーボードの女の子に話しかけに行ってみた。


彩「えーーと・・・マコちゃん?」


マコちゃんは彩に気づいた瞬間、彩に抱きついて泣き出した。


マコ「あやちゃん・・・・・」


高木「知り合い?」


璃子「うん、保育園一緒だった子」


高木「まじで?すげー偶然じゃん」


彩はマコちゃんを抱きしめながら頭をなでなでして

彩「えーと・・よしよし、マコちゃんだ笑、元気?そうだね笑」


マコ「うん、あやちゃん、うれしい・・・・・」


マコちゃんはまだ彩に抱きついたまま泣いていた。


彩「マコちゃん、璃子もいるよ」


璃子がマコちゃんに向かって手をふると、マコちゃんは今度は璃子に向かって走り出し抱きついてさらに泣き出した。


マコ「りこちゃんだ・・・」


変な空気が漂っているのを感じたパパが私たちのところに来て


高柳「なになに?何事?」


彩「パパ知ってたの?」


高柳「え?何が?何を?」


彩「マコちゃん・・・Passionnéのキーボード、私と璃子と同じ保育園の同級生だよ」


高柳「えーーーーー!?知らない知らない」


しばらくしてマコちゃんは落ち着いていろんなことを話してくれた。

マコちゃんは小学校まではみんなと同じ普通の小学校、普通のクラスで勉強していたんだけど、やっぱり段々ついていけなくなったみたいで、小学校でもイジメにあっていたらしい。でも、小学校から始めたピアノがどんどん上手になって、コンクールでも入賞するようになった。中学、高校でもさらに上手になって、今は音大を目指してるらしい。

Passionnéのメンバーは音大の生徒さんで、コンクールでマコちゃんのことを見かけてマコちゃんに声をかけて、マコちゃんの為にこのバンドを作ったという事だった。

Passionnéというバンド名は・・・・マコちゃんのことだった。


マコ「まこ、あやちゃんとりこちゃんと、はなればなれになって、さみしかった」

「でも・・・あやちゃんとか、りこちゃんみたいにつよくなりたくてがんばってきた」

「いっぱいいじめられたけど、ないててもだめだって、あやちゃんとりこちゃんにおしえてもらったからがんばったの」

「ピアノはみんなほめてくれるから、がんばったんだよ」


泣きそうになった・・っていうか泣いてしまった。

おもわずマコちゃんを抱きしめてしまった。

ふと、璃子の方を見た・・・

璃子が泣いていた・・・・・・

15年くらい一緒にいるけど、初めて泣いてる璃子を見た。


涙をふいてマコちゃんに話しかけた。


彩「マコちゃん、私たちもバンドやってんだよ!璃子と、この高木ってやつと」


マコ「え?ほんと?すごい!!」


彩「ドロップキックってバンド名なんだけどさ笑」


マコ「どろっぷきっく?」


彩「うん、飛び蹴りって意味。笑」


マコ「りこちゃんのひっさつわざだね笑」


彩「うん笑・・・でさ、来月私たちもここでライブするんだけどさ、マコちゃんたちも出てよ」


マコ「え?」


彩「ねえ、パパいいよね?私たちの曲減らしてもいいから」


高柳「もちろん、オフコース!!」


マコ「ほんと?うれしい。でたい!!」


彩「よし決まり!!マコちゃん連絡先おしえて」


高木「なに必殺技って?」


璃子「・・・・・・・・・」


彩「保育園の時、マコちゃんをいじめたイジメっ子に璃子が顔面に飛び蹴りかましたの笑」


高木「うわぁ・・・お前保育園から全然かわってねえじゃん・・・・」


璃子「うるさい・・・」


彩「あーでも・・・・マコちゃんの前でカッコ悪い演奏できないね」


璃子「うん」


高木「えー?あいつらめっちゃ上手いじゃん、無理じゃね?」



パパが作ったきっかけで偶然だったけどマコちゃんに出会えてライブに対してのモチベーションがあがった。

私と璃子だけだけど笑

まあ、高木もあんなこと言ってもやるときゃやる男だろ。


あっ、はじめてみたアンドロイドの涙は宝石みたいに綺麗だった。

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アンドロイドはたまにしか笑わないが笑うとすごくかわいい ヴァンター・スケンシー @vantar

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