第2話 トゲアリトゲナシトゲトゲ

日常は平凡だ。

幼馴染のアンドロイドも平凡に暮らしている。

人間のほうがよっぽど平凡な暮らしを望んでいないかのように。



ヒロミ「彩、修学旅行の私服一緒に買いに行かない?」


彩「えー、金ない、いいよ、新しい服なんて買わなくても」


ヒロミ「えー、せっかくなんだしオシャレして行こうよ」


彩「4泊5日のために大事なバイト代使いたいくない」


12月に修学旅行がある、4泊5日の沖縄旅行。

行きと帰りの飛行機は制服で行くけど、残りの時間は私服で過ごして良いことになっているので、みんなそのために新しい服を買うのを楽しみにしている。

私は・・・新しい私服を買ったってどうせいつものようにお気に入りのバンドのTシャツを買うだけだから、代わり映えなんてしないし・・・Tシャツ・・・服なんかよりも新しいエフェクターのために無駄使いはしたくなかった。


璃子「おはよ」


彩「あっ璃子、おはよ、宿題みせて、時間ないから早く!!」


璃子「えー、またやってないの?別にいいけどさ」


彩「昨日もバイト遅番だったの、ごめん!」


璃子「バイトしすぎじゃない?大丈夫?」


彩「うん、全然平気だから!!それよりさ、次のライブは大丈夫そう?」


璃子「うん、一応全部覚えたけど・・・もうちょっと練習したいなぁ」


中学から璃子とバンドをやっている。

私がベースで、璃子がギター。

ドラムはなかなか良い人がいなくて色々入れ替わっているけど、今は高木っていう同じ高校の友達にやってもらっている。

来月久々にライブができることになったから、新しい曲を練習している。

できればそれまでに新しいエフェクターを買ってライブに臨みたいので、バイトを多めにしてる。修学旅行の私服なんて買う余裕なんてない。


璃子に見せてもらった宿題を必死に写していると


「ねえ、あの新しい曲さぁ」


「うん」


「ちょっと単調な気がするんだけど・・・途中で高木のラップ入れない?」


「うん・・・・・・え?ラップ?高木の?」


「うん、高木ドラムもうまいけど、ラップ超うまいの知ってた?」


「え?まじで?知らない」


「この間youtubeで見つけたんだけど、あいつチャンネルあってさ、ラップやってるんだけど、すごくいいよ」


「まじで?あとで教えて!今とりあえず宿題写すから!!」


璃子とは小中高と同じ学校に通っている。

璃子は昔に比べるといっぱい喋るようになった。

小学校の時までは相変わらずお互いの家にお泊まりしていたけど、中学に入ってからお母さんが再婚してお泊まりは少なくなった。

その代わりに中学生の時に私が新しいお父さんの影響でベースを初めて、二人で一緒に楽器の練習をするようになった。

私の新しいお父さんは小さなライブハウスを経営していて、そこで練習することができた。

璃子は初めは乗り気じゃなかったけど、一緒に練習をしていくうちに璃子のほうから『このバンドかっこいいからコピーしてみない?』と言ってくるようなってきた。

一緒に楽器をやるようになって璃子はいっぱい話をしてくれるようになった気がする。

璃子はアンドロイドだから、昔からなんでも上手くできるタイプだったけど、璃子のギターは楽器を始めたばかりの私にもわかるくらい上手かった。


そしてギターとは全く関係ないがムカつくくらい、鼻血がでるくらい可愛くなっていった。

私が知っているだけで璃子は中学で6回告白されていた。

中にはイケメンで性格も良さそうな男子もいたけど、璃子は男子と付き合うことはなかった。


「なんで付き合わないの?いいじゃんお試しでも付き合ってみればさ」


「えー、いい。彩とバンドやってるほうが楽しいし」


「恋愛はアーティストとして重要な経験でしょ!」


「うーん、大丈夫。恋愛もしてるから」


「え?まじ?だれ?だれ?」


「秘密」


アンドロイドの同級生は高校生になって普通の女の子になっていた。

私と高木以外の人とはあいかわらずあんまり話をしないし、無愛想だけど。




ある日の昼休み


昼食をちょっと食べすぎて机に突っ伏していたら隣のクラスのメグロカズミが話しかけてきた。隣にいるのは誰だろう。同級生かな?


カズミ「高柳彩さんだよね?」


彩「ん?・・・あ?・・・うん、そうだよ」


カズミ「私、C組のメグロカズミ、で、この子はアラヤヒカル」


彩「あっ・・・はい・・・コンニチハ」


カズミ「高柳さんって、レズビアンなんでしょ?」


彩「は???」


カズミ「いいの、いいの。大丈夫、大丈夫。」


彩「はい???」


カズミ「気にしないで!大丈夫だから!!大丈夫だから!!私もそうなの!!」


彩「いや・・わたしは・・・」


カズミ「わかってるって、言いにくいのは!でも大丈夫!」


彩「いや、だから・・・」


メグロカズミはマシンガンのように捲し立てるように好き勝手に話しかけて、私に話す隙をあたえなかった。そしてメグロカズミのマシンガンはまだ弾が切れなかった。



カズミ「あのね、この学校LGBTに関しての対応が遅れてると思うの。他の公立の高校でも男子がスカートを履けたり、女子がズボンを履けたりするのに・・・LGBTが原因でいじめを受けている生徒はいる。だから、私は学校のLGBTの人たちを集めて、学校に抗議運動をしようと思っているの。それでレズビアンの高柳さんにも協力してほしいって思って相談に来たの」


メグロカズミよ・・・・・まず、人の話を聞いてくれ・・・・

たしかに中学の時に私と璃子がいつも一緒にいるからそういう噂があったことは事実だが、私と璃子は幼馴染だし、そういう関係でもない。

もっと言うとだ・・・私は処女だが、男に興味がないわけではない。

あと、わたしはそのLGBTとかなんちゃらの前、あなたみたいに人の話を聞かないで自分の言いたいことだけを言う人間が苦手だ。

・・・と思っていたが、メグロカズミのマシンガンの弾はまだ切れていなかった。


カズミ「ヒカルは・・・この子私の幼馴染なんだけど、見ての通り男の子なんだけど、心は女の子なの。小さい頃からそれが理由でいっぱいいじめられてきたの。昔は確かにヒカルみたいな子のことは理解されなかったかもしれないけど、今はみんなわかってくれるはず。私もヒカルも色々嫌な思いをしてきた・・・だから、私たちみたいな思いをしてきた仲間で学校に、世間に訴えたいの!!!」



メグロカズミよ・・・・熱い気持ちは伝わった・・・・

伝わったが、昼休みにそんな大きな声でそんなこと言われても困るし、そもそも私はあなたたちのような想いや経験ををしていない・・・

っていうか、もし私がレズビアンだとしても、私は別に隠しもしなければ、必要以上に主張はしないよ・・・

私は普通に平凡に、好きな人と生きて行けたらそれでいいから、わざわざ波風を立てるようなタイプではないのだよ・・・・

LGBTとかなんちゃらを否定するつもりは微塵もないが、私は違う意味であなたの意見には賛同しにくいのだよ・・・・


彩「えっと・・・・あのさ・・・」


璃子「売店めっちゃ混んでた・・・・・」


>< こんな顔をした璃子が購買で買ってきた好物のチョココロネとコーヒー牛乳を手に私の席にやってきた。


カズミ「あっ折原さん???」


璃子「・・・・・え?・・・・・・・・・・・・・・・・はい」


メグロカズミに話かけられて本能的に璃子が完全に心を閉ざす瞬間を久々に見た。

が、しかし、メグロカズミはあろうことか璃子にマシンガンを向けてしまった・・・


カズミ「折原さんだよね?大丈夫全部わかってるから、安心して聞いてほしいんだけど」


璃子「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


カズミ「折原さんって・・高柳さんと付き合ってるんだよね?」


璃子「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


カズミ「うん、わかる、いいの。言いにくいのはわかってる」


璃子「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


璃子はチョココロネの袋を開けて、もぐもぐ食べ出し、コーヒー牛乳をゴクゴク飲みだした。


カズミ「ちょっと!きいてるの?」


璃子「うん・・聞いてるよ」


カズミ「折原さんもレズなんだよね?」


璃子「レズ?」


カズミ「高柳さんと付き合ってるんでしょ?」


璃子「ん?彩ぁ、私たちつきあってんだっけ?」


カズミ「付き合ってなくてもいいの!二人とも男の子じゃなくって女の子が好きなんだよね?!!!」


璃子「・・・彩、そうなの?」


彩「え?いや違うけど笑」


カズミ「だから、隠さなくていいんだよ。もっとオープンにしていかなきゃ!!」


璃子「・・・・私は・・・彩のことが好きだよ」


カズミ「!!!そうだよね!!!ありがとう折原さん!!!」


璃子「でも・・・別に彩が女の子だから男の子とか・・そういうのじゃないけど」


カズミ「そう!そう!そうなの!!女子とか男子とか関係ないの!そういうことをもっとみんなにわかってもらうために、高柳さんと折原さんに協力してほしい・・」


璃子「メグロカズミさんだよね?C組の?」


カズミ「え?うん」


璃子「何を言っているのか、璃子よくわかんないんだけど・・・チョココロネ食べていい?」


カズミ「ああ・・・ごめんなさい・・・うん・・食べて・・・えっと・・・あのね・・」


璃子のマイペースにメグロカズミは少し面食らっていた。

マシンガンの弾が無くなってきたのかもしれない。


もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・


璃子がチョココロネを食べ続けしばらく沈黙が続いた。


カズミ「もういいかな?」


璃子「うん」


カズミ「あのね・・・この学校でLGBTの・・・」


キンコンカンコーン

予鈴が鳴った


カズミ「ああ・・・・今日の放課後また来るから!!!待っててね!!!ヒカル行くよ!」


メグロカズミはアラヤヒカルを引き連れて嵐のように去って行った。



璃子「なにあれ?」


彩「うーん・・・・・よくわかんないけど・・・LBGTを・・・なんだっけなぁ・・学校になんか言いたいんだって。」


璃子「ふーん」


璃子は急いで残りのチョココロネをほおばりコーヒー牛乳で流し込んだ。

口の横にチョコがついてることに気づいていないけど、かわいいから放って置くことにした笑



放課後


メグロカズミのことはすっかり忘れていた。


彩「璃子、今日バイト休みだから練習しようよ」


璃子「うん、いいよー。高木も呼ぶ?あっそうだ、高木の動画見ようよ」


彩「あっ!!そうだった!!見よう、見よう!」


璃子「これ、takashitってくそダサい名前なんだけど」

そういって璃子は高木のyoutubeチャンネルを見せてくれた。


彩「隆だから?takashit笑ダサっ笑、っていうか、璃子ほっぺにチョコついてるよ笑」


璃子「え?まじで?」


璃子はyoutubeを閉じてインカメラに切り替えて自分の顔を確認した。


璃子「ほんとだ・・・・えー昼休みからずっとついてたのかぁ・・・」


彩「ふふふ」


璃子「ん?彩・・・知ってたでしょ?」


彩「え?なにが?笑」


璃子「チョコついてたの」


彩「え?笑、しらないよ、今気づいたよ笑」


璃子「嘘だ!まじむかつく!あー固まっててとれないよぉ・・・・」


璃子とじゃれあっていたら、ズンズン!と足音が聞こえそうなくらい胸をはってメグロカズミが教室に入ってきた。うしろに小判鮫のようにアラヤヒカルを引き連れて。




カズミ「ありがとう2人とも!!!待っててくれて!!!!」


彩・璃子「・・・・・・・・・」


彩「あーーーーうん、でも私たちこの後バンドの練習あるから手短にしてほしいかも」


とりあえず、忘れていたことは黙っておこう。

この手のタイプは怒らせるとよりヒートアップしそうだから、大人しく話を聞いてテキトーに受け流したほうが賢明だと思う。。。。


カズミ「バンド?すごい!!最高!!私の考えにピッタリ」


何がピッタリなんだろう・・・・なんとなく嫌な予感がしたが、とりあえずメグロカズミの話を聞くことにしよう。


カズミ「うん、わかった。なるべく簡単に話すね!高柳さんには繰り返しかもしれないけど、折原さん!ちょっと話を聞いて!」


璃子「・・・・・うん」


カズミ「折原さん、LGBTって知ってる?」


璃子「うん」


カズミ「私ね、レズビアンなの。中学の時同じ部活の先輩に告白したんだけど・・・・先輩は男の人が好きな人で断られたんだけど、それは全然問題ないの。私たちはマイノリティーだからしょうがないって理解できる。でもね、その後学校中に私がレズだって噂が広まって、私はいじめを受けた。ヒカルもそう。ヒカルは小さい頃から男の子と遊ぶより女の子と遊ぶことが多くて『オカマ』って言われていじめられ続けてきたの。ヒカルは男の子に産まれてきちゃったけど、心のは女の子なの。でも世の中はあんまりにも理解してくれない。ヒカルは今もいじめられてる。そんなのおかしいでしょ?」


捲し立てるような早口のマシンガン絶好調・・・・・


璃子「・・・・・・・」


カズミ「だから、学校・・・・もっと世間に私たちみたいなマイノリティーの存在を理解してもらえるように、なにかアクションをしなきゃいけないと思うの!!だから、高柳さんとか折原さんみたいな・・・私たちと同じ悩みを持ってる人に協力してほしいの!!!」



メグロカズミの言っていることは何も間違ってないと思った。

私はレズじゃないけど・・・・

ただ・・なんだろう・・・どこか納得できない気持ちでモヤモヤしていた。

LGBTとか・・・男の子とか女の子とか・・・

そういうくくりじゃなくって、メグロカズミのスタンス、姿勢に違和感を感じていた。

私はバカだから上手く言えなくて黙って話を聞いていた。


璃子「・・・・マイノリティ・・・・・」


カズミ「そう!!私たちみたいなマイノリティが差別される世の中を少しでも変えていきたいの!!!」


璃子「・・・・・私ね・・・」


カズミ「うんうん!!なに?」


璃子「アンドロイドなんだよね」


カズミ「???????」


彩「ぷっ笑」


久々に璃子のアンドロイド告白を聞いた。

璃子は昔言っていた通り、歳をとるごとに人間らしくなっていった。

小学校3の時に100m走で中学生記録を叩き出したり、中学1で数学の先生がふざけてだした大学入試問題を解いてしまったり、うっかりミスはたまにしていたけど、うまくアンドロイドであることを隠して生活できるようになってきた。


カズミ「ふざけないで!!!私たちは真面目に話してるの」


璃子「・・・璃子も・・まじめに話してるんだけど・・・・」


カズミ「何言ってるの?こっちは真面目に悩んでるのよ!訳のわからないこと言ってバカにしないでよ!


璃子「・・・・うん・・・理解できないよね・・・・」


カズミ「・・・・えっ・・・・・」


璃子「あのね、本当なんだよ、私アンドロイドなんだ。でもほとんどの人は信じてくれないし、虚言癖があるメンヘラの女の子って言われるだけなんだよね」


カズミ「・・・でも・・そんなの・・・・」


璃子「うん、信じてもらえないのは私も理解できる、理解してもらえない事も理解できる、そんな人、あんまりにいないもんね。」


カズミ「・・・・・」


璃子「みんなにわかってもらえるようにがんばるのは・・・良い事だと思う。でも、私はわかってもらえない人に無理矢理わかってもらう事より、わかってくれる人を大事に大切にしたいの」


カズミ「・・・・・・・」


メグロカズミは黙ってしまった。


彩「メグロさん、ごめん!!!バンドの練習に行くからまたね!!」


教室に立ちすくんだメグロカズミとアラヤヒカルを置いて私と璃子は教室を後にした。


璃子「・・・・・」


彩「まあ・・・いいんじゃない?」


璃子「うん」


彩「あっ高木からLINE来てる。練習来るってさ、練習いこう!」


璃子「うん」



彩と璃子が去った教室にメグロカズミとアラヤヒカルはしばらくの間立ちすくんでいた。



ヒカル「カズミちゃん・・・帰ろう」


カズミ「・・・・そんなこと・・・そんなこと言われなくてもわかってるよ・・・・・」


カズミは怒りを我慢するために拳を握りしめ、ワナワナ震えていた・・・・


ヒカル「?・・・」


カズミ「わかってるけど・・・それじゃあヒカルはいつまでたっても・・・・」


ヒカル「カズミちゃん?」


メグロカズミはヒカルの言葉で我に返った。


カズミ「あっ・・・うん!帰ろうか!あの子変な子だったね笑」


ヒカル「折原さん?」


カズミ「うん、アンドロイドって笑」


ヒカル「・・・おもしろい女の子だったね、すごくかわいいし」


カズミ「うん笑。ずるいよね、あんなに可愛くて頭おかしいとか、キャラ盛りすぎだね笑」


ヒカル「ほっぺにチョコついてたね笑」


カズミ「あざといよね笑」




お父さんのライブハウスに着いた時には高木は先に来ていた。


高木「おせえよ、何してたんだよ」


高木隆、璃子と私のバンド「ドロップキック」のドラマー。

中学で璃子と二人でバンドを始めようと思い、まずバンド名を決めるために二人でバンド名を出し合った。

私は保育園の頃に璃子がかました飛び蹴りみたいなインパクトのあるバンドにしたかったから「ドロップキック」という名前を提案した。

璃子は「猫とアフタヌーンティー」とか「ひよこハルマゲドン」とかよくわかんないバンド名を出してきた。

パパとママ、璃子ママにも意見をもらって覚えやすい「ドロップキック」に決まった。

璃子はあんまり納得しなかったけど。


バンド名はどうでも良い。


高木はパパが紹介してくれたドラマーだった。

ドラマー人口は絶対数が少なくて良い人が見つけれなかった。

バンドを始めたころはドラムはいなくてパパに手伝ってもらった。

その後、何人か同級生、高校生のドラマーに入ってもらったけど、なかなか上手くいかなくて、ドラマーは定着していなかった。

そんな時パパが「彩の同級生に良いドラマーいるけど会ってみない?」と言われて高木を紹介してもらった。


高木は見た目が怖かった。

身長185cmオーバー、体重は本人の自己申告だと90kg。

ガタイの良さもさることながら、色黒でアフロ。

どうみても外国人のルックス。

喧嘩つよそーだった。


高木はミックスだった。

お父さんは、ブラジル人と日本人のハーフ。

お母さんは、日本人とどこの国かわからないけど、とりあえずどこかの国の白人のハーフ。

高木のルーツはブラジルなんだか、日本なんだか、どこかわからない国なのかわからない国なのかわからないけど、本人曰く『俺、ラーメン好きだからやっぱ日本人じゃね?』と言ってるので日本人なんだと思う笑


高木のドラムはかっこよかった。

上手いか下手かで言うと・・・たぶんそんなに上手くないんだろうけど、高木のドラムの独特のリズム感に私と璃子は惹かれた。

高1から一緒にやり始めて、ドロップキックのドラムとしては高木は一番長い間一緒にやっているメンバーだ。

高木はドラマーとしても好きだけど、人間としても良い奴だった。

本人にいったら調子に乗りそうだから絶対言わないけど。

パパから聞いた話だと高木はやっぱ見た目でめっちゃイジメとかにあっていたらしい。

でも、高木からそんな話は聞いた事もなければ、そう言う悲壮感を感じたことがない。

ああ、そうか・・・メグロカズミに感じた違和感はそういう事なのかもしれない。


彩「ごめーん、なんか変なのにつかまちゃってさー」


高木「変なの?」


彩「うん、D組のメグロカズミ」


高木「あー、ホモとレズとか集めてる例のやつ?」


彩「え?有名なの?」


高木「ああ、なんか昼休みにいろんなクラスにスカウトいってるみたいって聞いたよ」


彩「へぇ・・・・そうなのね・・・」


高木「メグロちゃん悪い子じゃないけど、極端だからねー」


彩「?」


高木「ああ、俺んところにも来たんだけどさ、『高木くん!差別受けてるでしょ!!』って笑」


彩「あはは笑」


高木「いやぁ確かに差別は受けたことあるけど、おれホモじゃねえしって言ったら『そうよね・・・ごめんなさい』ってさ」


彩「・・・・まあ、そんなことはどうでもいいんだけどさ、高木。お前ラップ超上手いじゃん!!!今ここ来るとき璃子に教えてもらってyoutube見た。」


高木「え?ばれた!!!」


彩「新曲高木のラップ途中に入れたら?って璃子が言ってるんだけど、どう?」


高木「えーーーーー、まじで?別にいいけどさー。俺ラップしたらドラムいなくなっちゃうじゃん」


彩「いや、ドラムも叩けよ笑」


高木「え?まじで?叩きながらラップすんの?」


璃子「高木ならできるよ・・・・たぶん・・・・」


高木「まじか・・・まあいいけど・・・ライム・・・ラーメンの事とかでも良い?」


彩「お前、ふざけんなよ、真面目にやれよ笑」


璃子「うん、いいよ、ラーメンでも」


高木「おけ笑、じゃあやってみようぜ」


新曲は恋愛ソングの予定だったけど、高木のラップのせいでラーメンの曲になった。

高木のラップは豚骨が最高だと思っていたけれど、最近味噌も良いって気がしてきたってと言うラップだった。でも最終的には豚骨も中華そばも塩も味噌も最高、ラーメン最高。というどうでも良い歌詞になってしまった。


高木個人のチャンネルにアップされてる動画のラップは全然違った。

ミックスである自分のルーツや、今まで受けたイジメや差別に対しての強いメッセージを訴えるラップが多かった。

そんな高木がドロップキックでラップをするときにラーメンを持ってきたのが高木らしいと思った。

高木は多分、私と璃子のことを考えてくれてラーメンにしたんだと思う。

メグロカズミは・・・・・

『バンド?すごい!!最高!!私の考えにピッタリ』きっと、私たちがバンドをやっていると知って、LGBTをテーマに・・・・みたいなことを望んでいたのかもしれない。

高木は・・・・ミックス差別をテーマではなくどうでも良いラーメンがテーマだった。

高木結構かっこいいぜ笑



次の日の放課後


新曲の『ラーメン最高(仮)』を練習するために璃子と高木と一緒に下校していつものようにパパのお店に行くことにした。が・・・・

高木が宿題忘れて先生に呼び出しを食らい、しょうがなく教室で時間をつぶして高木が来るのを待っていた。


高木「ごめん〜昨日ライム考えてたら宿題するのわすれちゃってよ〜」


彩「ざけんなよ。あんなどうでも良い歌詞笑」


高木「ふざけてねーよ、どこの店のどのラーメン出すかでこの曲の意味合いが変わってくるんだよ」


璃子「この曲やってるとラーメン食べたくなるよね、今日練習終わったらラーメン食べようよ」


高木「だろ!!この曲は聞いてる人の心だけじゃなくて胃袋もつかむんだよ」


彩「えー、今日はラーメンって気分じゃないなー」


そんな話をしながら帰ろうと廊下を歩いていると、璃子が急に足を止めた。


彩「?何?どうしたの璃子」


璃子「あれ、アラヤくんじゃない?」



璃子の指を差した先に、アラヤヒカルとゴツい男子生徒3人がいた。


高木「なんか・・あれ、あんま良い雰囲気じゃないね」


彩「うん・・・」


アラヤヒカルはゴツい3人に無理矢理どこかに連れられて行くように見えた。


高木「あれ・・・柔道部の奴らだな・・・」


高木がそうつぶやいた瞬間、璃子は4人の後を追って歩き出した。

3人は高木の予想どおり柔道部だったようだ。

アラヤヒカルを格技場に連れて行った。


格技場にアラヤヒカルを連れ込んだ3人の様子を扉の隙間からこっそりのぞいてみると・・・


オガワ「ヒカルちゃん、今日もお願いね」


サイトウ「お小遣いはいつも通りあげるからさぁ」


ヨシダ「最近メグロちゃんとホモアピールしてるみたいじゃん、やめてよぉ、俺たちだけじゃ満足できないの?」


そう言うと二人がアラヤヒカルを羽交い締めにした。

一人残ったオガワがズボンを下ろし・・・


オガワ「一人1000円ね、ちゃんといかせてね」


「うおぉぉぉぉぉぉ・・・・・なにやってんだよぉぉぉぉぉ」


高木が叫び、扉をあけ、猪のようにオガワに突進した。


が・・・・・

向かってきた高木をサイトウが綺麗な背負い投げからの締めを決められ落とされた・・・・


ぐちゃ!!


サイトウの顔に璃子の飛び蹴りが炸裂していた。


飛び蹴りの着地の瞬間、ヨシダの腹に璃子の後ろ回し蹴りが炸裂した。

スカートがめくれて下着が丸見えだった。


赤のTバック・・・・

璃子よ・・・・JKが履く下着じゃないぞ・・・・・


二人が崩れ落ちていく間に、璃子は小川のテンプルにハイキックをかました。

赤いパンティが綺麗だった。


柔道部の3人は璃子に瞬殺された。

高木もその辺に倒れていた。


彩「多分・・・・3人でも無理だと思うけど・・・まだやる?」


3人は無言で去って行った。

一応高校の男子柔道部、格闘家だ。

少なくとも璃子がバカみたいに強いことは感じたみたいだった。

そりゃそうだ、アンドロイドだもん。


彩「璃子・・・パンツ・・・エロすぎなんだけど・・・・」


璃子「あ・・・洗濯間に合わなくてママの履いてきちゃった。」


璃子ママはまだあんなHな下着をつけているのか・・・・・

うちのママは再婚してすっかり落ち着いてきたけど・・・・


『ふえ〜ん・・・・・』


アラヤヒカルが女の子座りで泣き出した。


彩「大丈夫?・・・っていうか・・・こういうの初めてじゃないの?」


アラヤヒカルは泣きながら小さく何回もうなづいた。


彩「そっか・・・だからメグロカズミは・・・」


ヒカル「・・・カズミちゃんは知らない・・・・」


彩「え?」


ヒカル「・・・カズミちゃん・・・こんなこと知ったら・・もっと激しくなっちゃうから・・」


彩「どういうこと?」


ヒカル「カズミちゃん・・ボクのためにいろいろ頑張ってくれてるんだけど・・・・でも・・・」


璃子「・・・ヒカルちゃん・・メグロさんのこと好きなんだね」


彩「え?でもヒカルくん女の子なんじゃないの?」


ヒカル「・・・・うん・・・」


彩「え?どういうこと?」


璃子「ヒカルちゃんは女の子だけど、メグロさんのこと好きなんだよね?だから心配させたくなかったんだよね?」


ヒカル「・・・・・うん・・・・・・」


彩「???????」


ヒカル「ボク・・・カズミちゃんの言う通り、男の子じゃなくて女の子だと思う」


璃子「うん」


ヒカル「でも、ボク・・・女の子だけど・・・女の子のカズミちゃんが好きなの・・・」


璃子「うん」


ヒカル「でも、それを言うと・・・カズミちゃんの頑張ってるLGBTとかが・・・なんかおかしくなっちゃうから・・・」


彩「えーーーーーーと・・・・・・アラヤくん・・いやヒカルちゃんは女の子だけど・・・メグロカズミのこことが好きで・・・男の子だけど、女の子の気持ちの子が、レズの女の子を好きになって・・ってこと?」


ヒカル「うん・・・カズミちゃん・・・カズミちゃんもレズなのは本当だよ。中学の時、先輩に振られて、いっぱいいっぱい泣いたの見た。ボク、カズミちゃんをなぐさめたかったけど・・・ボク、男の子で女の子だから・・・・・・・・よくわかんないよぉ・・・」



ヒカルちゃんはシクシク泣き出した。



しばらくヒカルちゃんの泣き声だけがその場に響いていたが・・・・璃子が突然話し始めた。


璃子「ヒカルちゃん。トゲアリトゲナシトゲトゲって虫知ってる?」


璃子がイミフな事を話始めた、そのタイミングで落ちていた高木も目を覚ましたようだった。


ヒカル「・・・知らない・・・」


璃子「羽虫って虫はわかる?」


ヒカル「うん」


璃子「羽虫の中にトゲがある羽虫がトゲアリハムシって言われてるみたいなの」


ヒカル「・・・・うん・・・・・」


璃子「で・・・・こっからがあれなんだけど・・・トゲアリハムシの中にトゲがないハムシが見つかったみたいなんだよね」


ヒカル「・・・え・・・うん・・?・・・」


璃子「トゲアリハムシの仲間のトゲがないハムシってことになったみたいで。トゲアリトゲナシハムシって呼ばれてるの。」


ヒカル「・・・・・うん・・・・でもそれ・・普通のハムシじゃだめなの?」


璃子「うんそうだよね・・・で、さらに・・・笑。トゲアリトゲナシハムシの仲間からトゲがあるハムシが見つかったんだって笑」


璃子はめっちゃツボって笑っている。私や高木、ヒカルちゃんはキョトンとしていた。


璃子「それでね笑、それがトゲアリトゲナシトゲトゲって言うの笑」


璃子はめっちゃ笑っていた


璃子「・・・・どうでもよくない?笑」


璃子「ヒカルちゃんが男の子だろうが、女の子だろうが、メグロさんが男の子が好きだろうが女の子が好きだろうが、ヒカルちゃんはメグロさんが好きなの気持ちに関係なくない?トゲがあってもトゲがなくてもトゲハムシだろうが・・・トゲアリトゲナシトゲトゲ笑」


ヒカル「・・・・・うん・・・・・笑」


璃子のよくわかんない理論にヒカルちゃんは納得したみたいだった。

あともう一人・・・・


高木「そうだよなぁ・・・・豚骨も塩も味噌もラーメンはラーメンだよなぁ・・・璃子良い事言うなぁ・・・」


バカもなんか納得したみたいだった。



彩「まあ・・・よくわかんないけどさ・・・メグロカズミに告白してみなよ。・・・告白っていうか・・・ヒカルちゃんの気持ちちゃんと伝えてみたら?」


ヒカル「・・・うん・・・・」



彩「あとさ・・あの柔道部・・・またなんか言ってきたら・・・璃子がやっつけてくれるからさ笑」


ヒカル「うん!!!ありがとう。」


ヒカルちゃんはモジモジしながら

ヒカル「・・・璃子ちゃんて・・・ほんとにアンドロイドなの?」


璃子「うん」


ヒカル「・・・・アンドロイドって・・・あんなHな下着つけるの?」


璃子「え?」


彩「あはは笑」


高木「え?なに?璃子どんな下着つけてんの?」


久々にいっぱい笑った璃子と、璃子の飛び蹴りを見た。

やっぱうちのバンド名はドロップキックがぴったりだと思った。

バカもなんか納得してたし。

ヒカルちゃんを家まで送り届け、パパのお店で練習をした。

高木のラップが一段と意味のわからないラーメンラップに変わっていたが、悔しいことに格段にかっこよくなっていた。調子にのるから絶対言わないけど。





ヒカル「カズミちゃん・・・・」


カズミ「ん?なに」


ヒカル「ボクね、カズミちゃんのことが好き。」


カズミ「え?何言ってんの?」


ヒカル「カズミちゃんが女の子が好きとか、ボクが女の子かどうとかどうでもよくて・・・」


カズミ「・・・・」


ヒカル「ボク、小さい頃からずっとカズミちゃんが好きだった、ボク、男の子だけど女の子で、カズミちゃんが好き。なんていうんだろうね・・・男の子だからレズじゃないのかなぁ・・・トランスジェンダーのレズなのかなぁ・・・ボク、よくわかんないや・・でも・・カズミちゃんのことが好きってことだけはわかる」


カズミ「なにそれ・・・・」


ヒカル「ただカズミちゃんが好きってだけじゃダメなのかなぁ?」


カズミ「・・・・だめじゃないけど・・・」


ヒカル「好みじゃない?それならしょうがないかなって思うけど・・・」


カズミ「好みとか・・・そう言う風に見たことなかったから・・・」


ヒカル「じゃあさ、そう言う風に見てよ、男の子でも女の子でもどっちでもいいよ」


カズミ「・・・・今は無理・・・って言うか、なにいってんのよ?」


ヒカル「アンドロイドにアドバイスしてもらったんだ笑」


カズミ「・・・折原さん???」


ヒカル「男とか女とかどうでも良いよねって笑。アンドロイドって人間じゃないよね?そんな人?に言われたらなんか納得しちゃった笑。ボク、カズミちゃんが大好き」


カズミ「・・・・うん・・・わかった・・」


ヒカル「だからカズミちゃんのLGBTの活動、ボクも頑張る!一緒に頑張ろう!」


カズミ「・・・・うん・・・わかったから・・・ありがと・・・」

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