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「ねえ、最近私の知らない女の人と歩いてるでしょう」
いい天気だった。公園のベンチに二人並んですわって、ぼんやりと池を見ている。休日の午後「ジョイアス」に行くと葵ちゃんがマスターと話をしていた。マスターが言うには葵ちゃんは僕を待っていたのだという。どうして僕が来ることがわかったのかな。
「予感がしたの」と葵ちゃんが言う。
お茶にでもと誘ったら、公園がいいという。
「彼女はストーカーなんだ」
「彼女は僕をお店に連れていこうとするんだけど、結局あきらめて一人で行く」
「お店ってキャバクラ」
「多分そうなのかな。行ったことないから」
「お父さんはよく行ってるみたい」
「お父さんはもっと高級なところじゃない。クラブとか」
「名まえを変えたいって言ったら怒られちゃった」
葵ちゃんはそう言った後、僕を見て笑った。
「お父さんにはお父さんの想いがあるんだよ」
「ママにもママの想いがあったんだよね」僕は青く晴れた空を見上げた。
「あたしのパパは生きているのかな」
「ちゃんと生きてるじゃない」
「そうじゃなくて…」そう言って葵ちゃんは僕と同じように空を見上げた。
「吸い込まれそうな空」
「きっとどこかで生きていると思うよ」
「ねえ、阿紋さん家に行ってもいい。レコードプレーヤー持ってるんでしょう」
「家では、お父さんが触らせてくれないの」
「でも、前にもアナログ盤買ってたよね」
「こっそり聞いてたんだけど、もうそんなことしたくなくて」
そう言いながら葵ちゃんは袋からレコードを取り出した。
「いいでしょう、このジャケット」
懐かしいなあ。アンドウェラのダンヒル盤か。レコードってジャケットだけでも持っている価値があったりする。
冬木立と落葉を踏みしめる人たち。
「季節はもう少し先だね」
僕がそう言うと、葵ちゃんはにっこり笑ってうなずいた。
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