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「実家には行ってきたの」

「まだ、というか行かないつもり」

「あの時はごめんね」僕は久しぶりに凛の顔を見ている。

「ずいぶん経っちゃったね。でも、実家には顔出したほうがいいと思う」

「あの時以来行ってないの」

「そうだね」

 時間によって深みを増したような凛の顔。でも思っていたほど変わっていなかった。体形もほとんど変わらない。やっぱり似てるなあと思った。どうして気づかなかったんだろう。

 ミナヅキがはじめてこの部屋に現われたときは、凛のことなんて遠い記憶の彼方だったからなあ。

「二卵性だったのかなあ」凛がつぶやく。

 駅前は都会にくらべるとやけに殺風景に見える。それでもちゃんと広場があり、そこからつづく道沿いに商店街らしきものがある。実際歩いてみると活気は感じられず、シャッターが閉まったままの店もある。この駅で降りたことってなかったと思うけど、あの頃はもっと活気にあふれていたような気がする。僕は和菓子屋で凛の実家のことを聞いてみた。この町では老舗といえる店構えをした店だった。和菓子屋のおばあちゃんに団地ではないかと言われた。団地といっても僕が生まれた頃にできた古い団地だ。僕はおばあさんに教えられた方向に歩きはじめた。駅前にはタクシーもいなかったし、バスも本数がかなり減ってしまったらしい。

「おまんじゅう屋のおばあちゃん元気だった」

「しゃきっとしてたよ」

「最近お店に入ってないから。ここは車がないとね」

 僕は凛の運転する軽自動車に乗ってファミレスまでやってきた。スーパーを中心にしたこのショッピングセンターは、駅前からは想像できないくらい賑わっている。

「さっちゃんは元気なの」

「あいかわらずだよ」

「あなたも変わらない」

 僕は凛が本当のことを言ってないような感じがしていた。まあ、僕にしても何か別のフィルターを通して彼女を見ているのかなあ。

「阿紋君お姉ちゃん知ってたんだ」

 僕は思わず「どっちの」と答えそうになる。その時凛はとても優しい目をしていた。

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