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「阿紋ちゃん、しばらくだよね」

「有給が取れたから旅行にね」

「へぇー、阿紋ちゃんでも旅行とか行くんだ」

「そりゃ行くよ」

「一人旅だね」

「それはわかるんだ」

 シルバーウィーク。よくもそんな名前をつけたものだ。

「ゴールデンだからシルバーなんだろう」ジョイアスのマスターが言う。

 僕ももうシルバーよりなんだろうな。彼岸参りというわけでもないけれど、久しぶりに生まれた土地に帰った。といっても親に会うつもりも、地元にいる友達に会うつもりもなかった。もちろんどちらとも疎遠になっている。姉貴にでも会ったら大変、死ぬほど愚痴を聞かされただろう。

 それほど馴染みの駅ではなかったけれど、この駅も当時とくらべればずいぶん様変わりをしているんだろう。僕はそんな駅で電車を降りた。

「ミナヅキちゃんでも誘ったらよかったのに」

「親父に会っちゃったら誘えないよ。それにいつもお誘いは向こうだし」

「天津は誘ったんでしょ」

「あの時は特別」

 そもそもあの子とはそんなに仲がいいわけじゃない。僕はこないだ会った父親の顔を思い浮かべた。

「付き合ってくれるとすれば元嫁ぐらいだけど、そろそろちゃんとケジメつけなくちゃね」

「えっ、阿紋ちゃんてお嫁さんいたの」

「言わなかったっけ」

「言ってない」

 そうなんだ。ここではプライベートなことってあまり話していない。そんな場所だから。

「いいじゃない。友だちだって」

「それはそうなんだけど、まだちょっとね」

「別れたばかり」

「そうゆうことかな」

 マスターは何か言いたげだったけど、突然口をつぐんだ。そして店内にファンキーでジャージーな曲が流れはじめた。最初に聴いたのはアシッド・ジャズのオムニバス盤だったなあ。

「プレジャーのCDは探したよ」

「ベストしかなかったでしょう」

「2種類買った。曲はかぶってたけど」

「でもやっぱりこの曲が一番かな」

 この店の店名にもなっている曲。

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