19
「阿紋ちゃん、しばらくだよね」
「有給が取れたから旅行にね」
「へぇー、阿紋ちゃんでも旅行とか行くんだ」
「そりゃ行くよ」
「一人旅だね」
「それはわかるんだ」
シルバーウィーク。よくもそんな名前をつけたものだ。
「ゴールデンだからシルバーなんだろう」ジョイアスのマスターが言う。
僕ももうシルバーよりなんだろうな。彼岸参りというわけでもないけれど、久しぶりに生まれた土地に帰った。といっても親に会うつもりも、地元にいる友達に会うつもりもなかった。もちろんどちらとも疎遠になっている。姉貴にでも会ったら大変、死ぬほど愚痴を聞かされただろう。
それほど馴染みの駅ではなかったけれど、この駅も当時とくらべればずいぶん様変わりをしているんだろう。僕はそんな駅で電車を降りた。
「ミナヅキちゃんでも誘ったらよかったのに」
「親父に会っちゃったら誘えないよ。それにいつもお誘いは向こうだし」
「天津は誘ったんでしょ」
「あの時は特別」
そもそもあの子とはそんなに仲がいいわけじゃない。僕はこないだ会った父親の顔を思い浮かべた。
「付き合ってくれるとすれば元嫁ぐらいだけど、そろそろちゃんとケジメつけなくちゃね」
「えっ、阿紋ちゃんてお嫁さんいたの」
「言わなかったっけ」
「言ってない」
そうなんだ。ここではプライベートなことってあまり話していない。そんな場所だから。
「いいじゃない。友だちだって」
「それはそうなんだけど、まだちょっとね」
「別れたばかり」
「そうゆうことかな」
マスターは何か言いたげだったけど、突然口をつぐんだ。そして店内にファンキーでジャージーな曲が流れはじめた。最初に聴いたのはアシッド・ジャズのオムニバス盤だったなあ。
「プレジャーのCDは探したよ」
「ベストしかなかったでしょう」
「2種類買った。曲はかぶってたけど」
「でもやっぱりこの曲が一番かな」
この店の店名にもなっている曲。
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