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「久しぶりだね。何してたの」

「あたしにすることなんてないよ」

 ミナヅキはいつもように麻袋を頭からかぶったような服を着て僕の前に現れた。寒くないのかな。ポンチョが似合そうだと僕は思った。

「クリント・イーストウッド」

「夕陽のガンマン」

「パパが好きだったの。西部劇」

 まあ、西部劇といってもマカロニ・ウェスタンだけど。

「誰だっけ、髭のオジサン」

「リー・ヴァン・クリーフじゃない」

「みんな髭面なんだけどね」

「自分から言っといてなんだよ」

「でも、きっとそのオジサンだよ」

 ミナヅキは笑ってこっちを見ている。今まではわからなかったけれど、僕はその笑顔を別のどこかで見たことがあることに気がついた。葵ちゃんだろうか。たしかに似ているけれど少し違うような気がした。

「ねえ、アローン・アゲインが聞きたい」

「それともあの子みたいに自分で持ってこないとダメかな」

「持っているよ、多分」

 自信はなかった。ただ今ならあるかもしれないと思った。ミナヅキがいるこの部屋なら。

「バック・トゥ・フロント」というアルバム。

 イギリスではシングルのみでアルバム未収録なのだけれど、国内盤には「アローン・アゲイン」が入っていた。そう言えばあの子の持ってきたエルトン・ジョンのアルバムも国内の編集盤だったなあ。僕は押入れの中のレコードを収納しているカラーボックスを身をかがめながらのぞき込んで、ジャケットの背に指を滑らせる。自然に指が止まり、僕は一枚のレコードを取り出した。

「あったよ。これだ」

 ジャケットから黒い円盤を取り出し、ターンテーブルの上にセットする。そして円盤を動かしてその上に針をのせた。

「もうすぐあたしはあなたの前から消えていく」

 懐かしい曲を聴きながらミナヅキはぼくに言った。

《忘れていたことを思い出させてくれてありがとう》

 僕は心の中でつぶやいた。

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