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「久しぶりですね」
何故か僕の部屋のドアのところに派手な衣装の若い女性が立っている。これから仕事にでも行くのだろうか。僕が近づくと、笑みをうかべながらぼくのほうを見た。部屋を間違えているんじゃないのか。そう思ったとき忘れかけていた記憶がよみがえった。
「思い出しました」女性が言う。
「あのときの」
「いっしょにごはんまで食べたのに」
たしかにあの後いろんなことがあったから。でも、もしかするとそのきっかけはこの女の子なのではないか。
「これから仕事ですか」
「そうなんだけど、前の店はやめちゃって今は別の店なんです」
ちょっとだけ嫌な予感。同伴出勤でもしろというのだろうか。
「入れてくれます」彼女は少しだけドアから離れた。
「よくわかったね」
「あたしストーカーなんです」
「ずっと見張られてた」
「ずっとではないですね。お見かけしたのは3日前ですから」
「今のお店、ここから近いんです」
僕はドアを開けて彼女を招き入れた。彼女は玄関のところで僕の殺風景な部屋をながめている。
「レディ・サマンサ聴けますか」彼女はヒールを脱いでステレオの正面にすわった。
「ごめんね。ほとんど処分しちゃったので、残っているか」
僕はそう言って押入れを開けた。女の子は押入れをのぞき込む。
「布団がそこに畳んであるのはそういう理由ですか」
「万年床っていうわけにもいかないから」
お目当てのCDもLPもなさそうだ。ぼくは少しあきらめ顔で彼女のほうを見た。
「レコードも聴けるんですか」
「まあ、一応は」
「それじゃこれかけてください」
彼女はそう言ってバックの中からレコードを取り出した。
「どうしたのそれ」
僕は彼女が差し出したLP盤を見ながら言った。
「ネットのオークションで」
「本当はシングルが欲しかったんだけど、なかなかなくて」
「でもこれはそんなに高くなかった」
「このレコード昔持ってたよ。レディ・サマンサはこのレコードで知ったんだ」
僕がそういうと、彼女はにっこり笑った。
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