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「阿紋ちゃんにお客さんが来てたよ、若いお兄ちゃん」

 ジョイアスに入ると店長が僕を呼び止めてこう言った。

「その客は僕にじゃなくてあの女の子に会いに来たんじゃないの」

「いや、あんただったよ。女の子と知り合いのオジサンはいないかって」

「まだそのへんにいないかな」

「そうか、あのお兄ちゃん来たんだ」

「知ってるの」

「あの子と天津でご飯食べたあと話しかけれれて」

「あの子天津に連れてったの」店主が驚いたように言う。

「まずかったかな。他に店知らなくて」

「それでなんて声かけられたの」

「あんたは何なんだって」僕はコーヒーを作っていつもの席にすわる。

「別に何の関係もないよって答えたんだけど」

「まあ、あんたとあの子じゃねえ」

「この店で知り合っただけで、名前も知らないって」

「ミナヅキちゃんの名前知らなかったんだっけ」

「知ってたけど、本名かどうかもわからないし」

 そもそもマスターだって知らないって言ってたじゃない。

「そう言えば阿紋て本名なの」

「あだ名だよ。アモン・デュールから。それを自分で漢字に当てたんだ」

「そうか。実はミナヅキも本名じゃなかったんだよ。あの子は神島さんの娘みたい、常連の。名前もミナヅキじゃなくて葵ちゃん。神島葵」

 僕は少なからず驚いた。

「あのお兄ちゃんは同級生で幼なじみなんだって」

「そうゆうことね。音楽のことよく知ってるわけだ」

「僕は神島さんと会ったことあったっけ、名前はよく聞くんだけど」

「何回かはあると思うよ。最近はあまり来ないけど」

「今ひとつ思いだせないんだよね」

「ほとんど話はしてないよ。来た時は俺とばかり話してるから」



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