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「あたしたちっていつ以来だっけ」
「いつだったかなあ」
僕は考えている。まだ学生の頃だったと思う。就職してからは会っていない。多分。でもこれだけ時間が過ぎてしまうとはっきり思いだせない。そうか、あの時一度思い出したんだ。
「あたしって影薄い存在だった」
そんなことはないよ。
そんなことはないけれど、そんなことはないと言えないでいる。いつもそうなんだ、ミナヅキといるときは。ずっとそう。
「あたしにとってはちょっと前なんだけどね」
「多分あなたは違うよね」
コールド・スリープ。漫画で読んだのかな。それともアニメだったかな。若いまま凍結されて、何十年後かに生き返る。SFの話。ミナヅキは魔法が使えると言っていた。ということはファンタジー。
「どうしてあたしの前から姿を消したの」
「僕が」
「そう、あなた」
うまく思いだせないけれど、それは逆だよ。
「ミナヅキが僕の前から消えたんじゃないの」
「違う、あなたがあたしから逃げたの」
「そんなことないよ。逃げる理由なんてなかったから」
「覚えてないの」
「何を」
「本当に」
ミナヅキは跪いたまま僕に迫ってくる。僕は壁を背にしたまま動けない。
「まあいいわ。今のあなたに言ってもしかたないし」
ミナヅキの顔でまわりの視界が遮られた。長い髪が揺れている。これってデジャブ。それともジャメピュ。どっちにしてもミナヅキの表情が僕の記憶に刻まれていく。浸食される。
そして次の瞬間ミナヅキが僕の前から消えた。
「また来るね」ミナヅキの声だけが聞こえる。
いつでも会えると思っていたんだ。
だから連絡もしなかったし。そのうちバイト先に訪ねてくると思っていた。
会ってないなと思いはじめたのはずいぶん時間が過ぎてから。
最後に会ったのはどこだったかな。
バイト先で会った後にどこかで会ったような気がする。
それとも見かけただけなのか。
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