6
「つきせぬ想い」のアニタ・ユン。
「初恋」のカレン・モクもすごく好き。「天使の涙」ではエキセントリックな役だったけれど、「初恋」の落ち着いた感じのカレン・モクが僕には衝撃だった。
香港映画か。懐かしいな。あの広東語の響きが好きだ。さっきネットでみた動画は北京語の吹き替え版。最初に感じた違和感はそれだったんだ。
ミナヅキが言っていたこと。僕はカンナヅキという名前の女性は知らない。双子の妹だって。兄貴の話は聞いたことがあるけれど。そもそもあいつは本当にミナヅキだったのだろうか。越したばかりの殺風景な部屋に突然変な格好で現れて僕を惑わせる。まるでこの部屋にずっと住み着いていたように振り向くとあいつはそこにいた。たしかにその昔この辺に住もうと思ったこともあったけれど、結局その話はご破算になってしまった。一緒に住むはずだった女性もあの時以来会っていない。
「夢でも見たんじゃないの」
ひどく冷静に僕の前にすわっている女性。
「雨が降りそうだね」
「そんなことないよ。よく晴れてるじゃない」
彼女には空を覆いはじめた雲が見えないのだろうか。少し眩しそうに目を細める。ここ何年か続けてきた僕の日常。それも少し前に終わりになった。
「心配してるのよ。元嫁としては」
「惨めな生活をしてないか」
「まあね」
「惨めではないけれど、明るく楽しいわけでもない」
「あたしだってそうよ」
「少しはましだろう」
元嫁は少しだけ口もとをゆるめる。
「もう少しいい部屋探したら。そのくらいならお父さんから引っぱれるから」
「お前だって僕の状況はわかってるだろう」
元嫁は無言でうなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます