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ミナヅキはいつものようにふてくされた顔をして店のスミに立っていた。
「これ誰」
「スティービー・ウィンウッド。トラフィックって知ってる」
「知らない」
「そうか」
「ブラック・サバスってあるの」
「そこのBのところ。何枚かあったと思う」
僕はレコード棚を指さした。
「サバス好きなの」
「兄貴がね」
「ロックが好きなんだよね。前に聞いたことがある」
「よくわからないけどいろいろ持ってるの。ロックだけじゃなくジャズとか、プログレも。いつもでっかい音でかけててママに怒られてた」
わりと知ってるじゃない。プログレもロックだけど。
「このドラム下手だね」
「一人で全部やってるからね。ドラムは専門外」
「あたしのほうが上手い」
ミナヅキはそう言って笑った。ちっちゃくて華奢な感じのミナヅキ。ドラマーには見えない。
「バイトなの」
「留年しちゃってヒマだから」
「そうなんだ」
「留年すると学校に行かなくていいんだ」
「単位は足りてるからね。就職できなかったから」
「兄貴と同じだ。東京にいるんだけど、ミュージシャン目指してて。親にはナイショだけど」
そう言えばミナヅキの兄貴ってどうしたんだろう。兄貴の話をしたのはあの時だけだった。
「兄貴はどうしてるの」
「田舎にいるよ」
「実家に戻ったんだ」
「まあそんなとこ」
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