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なんてことのない日々が続いている。僕はほぼ毎日入り浸っている中古レコード屋のソファーにすわって、忙しそうにしている店主を横目にコーヒーを飲んでいた。ソファーの脇にある棚には紙コップとプラスチックの細い棒、そしてインスタント・コーヒーの瓶が置いてある。スプーンも用意してあるけれど、僕ら常連はインスタント・コーヒーを、直接紙コップの中に落としてポットのお湯を注ぐのでスプーンは使わない。お湯を注いだ後はプラスチックの棒で軽くかきまぜる。ミルクと砂糖のスティックはお好みで。僕はブラックで気持ち薄めに作ることにしている。
「この前の女の子はどうしたの」
「気になる」
「めずらしいよね。レコードを漁りに来る女の子って」
「たまにいるよ」
「昔の自分を思いだした」
「なんか面白いものはないかって、目を光らせて」
「好奇心の塊だったね」
「あの子はただ漁りに来ただけじゃないみたい」
「ロニー・レーンのファーストでしょう」
「あっても高いからね」
「CDでも難しいみたい」
「アイランド盤のほうならあるんだけどね」
「まあここにはCDは置いてないから」
「ある意味レコードって本当のリサイクルだよね。今は作ってないんだから」
「でも需要はある」
「プレスされてるのもあるんだよ。少ないけどね」
「通販は順調なんだ」
「おかげさまで」
僕と話しながら店主は店のウラで作業をしている。店主はスイカをかじっているボビー・チャールズに似ていた。
「ギャラガー&ライルとか薦めなかったの」
「そうだね、マクギネス・フリントとか」
「シローちゃん相手してくれればよかったのに」
「客に接客させるの」
「実際してたじゃない。途中まで」
「結局買っていかなかったの、あの子」
「買っていったよ、ケヴィン・コイン」
「二枚組のやつ」
「その後のアルバム。ジャケが気に入ったみたい」
たしかにあの空と雲には不思議な魅力がある。
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