「元気そうだね」

 ミナヅキは麻布を頭からかぶったような格好で、四畳半の部屋の壁にもたれかかるようにすわったままにっこりと笑う。僕はミナヅキのいる反対側の壁に立っている。ミナヅキいる壁の窓からは朝日が差し込んでいた。ちょっと眩しい。

「どうしてここにいるの」

「どうしてるかなと思って」

「あれからどのくらいたつのかな」

 僕はミナヅキの言う「あれから」がいつなのかよくわからなくて少し戸惑う。

「あの時から来たの」

「そう思う」

「だって、ミナヅキは年を取っていないから」

「マジックだよ」

「マジック」

「どっちだと思う」

「どっちって」

「あの時から時間をこえてきたか、それともあたしが若返ったのか」

「マジックで」

「知らなかったでしょう。あたし魔法が使えるの」

 外からラジオ体操の音楽が聞こえてくる。学習机とレコードがぎっしり詰まった横置きのカラーボックス。カラーボックスの上にレコードプレーヤーとスピーカーが置かれている。レコードプレーヤーはアンプとラジオが一体型のもの。

「懐かしい」

「そんな感じもするけれど、この部屋は知らない」

「そうだよね。この部屋はあなたが住むはずだった部屋だから」

「あたしとあなたは仲良しじゃなかったよね」

「あの時まではね」

「あの後もそんなに仲良くしてくれなかったじゃない」

「そうかな」

「ここはあなたとカンナの部屋」

「カンナって誰」

「カンナヅキ。あたしの双子の妹」

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