五十嵐家の日常 ②


 ──ピンポーン!


 呼び鈴がなると、レオとゆりが来客を出迎える。

 すると、そこに現れたのは、幼い男の子だった。


 近所で暮らす、山根夫妻の息子さんだ。

 名前は、山根やまね 宗太そうたくん。


 ゆりと同じ小学生1年生で、現在6歳。


 スポーツ刈りの、ちょっとヤンチャそうな雰囲気の男の子だが、ゆりとは、とても仲が良く、幼いころから、よく一緒に遊んでいる、幼なじみでもあった。


「宗太、どうしたの?」


 早朝から尋ねてきた宗太を見て、ゆりが笑顔で声をかける。すると、宗太は、ズイッと、ゆりに何かを差し出してきた。


「これ、ゆりに」


「え? なに?」


「今日、誕生日だろ。だから……その、プレゼント」


 渡されたのは、小さな紙袋だった。

 大人の手のひらに乗るくらいの、小ぶりのラッピング袋。


「え! 嬉しい。ありがとう、宗太! でも、学校で渡してくれても良かったのに」


「バッ、学校でなんて渡せるか!」


「なんで?」


「なんでって、恥ずかしいだろーが、みんなの前で渡すのは!? それに、できれば一番に、渡したかったというか……っ」


 ほんのり頬を染める宗太は、とても、。そして、その姿を、レオは真顔で見つめる。


(仲がいいのは、いいけど……なんだか、心配だな)


 まだ、小学生!

 そう、まだ小学生なのだ!!


 だから、心配など無用なはず!!


 だが、必死にそう言い聞かせつつも、娘が可愛すぎるからか、レオにとっては、少し複雑な心境だった。


 なにより、結月に似て、品があり可愛らしいゆりは、年頃になれば、きっとモテるだろう。


 だが、まだ早い!!

 いくらなんでも、早すぎる!!


 しかし、だからと言って、娘の幼なじみを、邪険に扱う訳にはいかないだろう。


 すると、レオは、理解ある父親を必死に貫くと


「宗太くん。ありがとう。ゆりの誕生日を祝ってくれて」


 にこやかに笑って、レオは、娘の幼なじみにお礼を言う。すると、宗太は、レオを見上げて


「なぁ、オジサン! ゆりの誕生日ケーキって、毎年、オジサンが作ってんの?」

 

「………」


 ちなみに『オジサン』と言われるのは、今に始まったことじゃない。


 まぁ、このくらいの子にとって、38歳のレオはオジサンだろう。どんなに若々しく、イケメンな男であったとしても──


「あぁ……作ってるよ」


「へー、本当にオジサンが作ってるんだ。ゆりがさー。毎年、自慢してくるんだよ。『お父さんの作るケーキは、結婚式のケーキよりも豪華なんだ』って! でも、さすがに、それはないよなー」


「はぁ? なにそれー。私が嘘ついてるとでも言うの?」


「そういうわけじゃねーけどさー。でも、さすがに盛りすぎっていうか!」


「…………」


 どうやら、ゆり言葉を信じてないのか、宗太は、呆れ果てていた。


 だが、なんということだ!


 まさか、自分が作ったケーキのせいで、ゆりが嘘つき扱いをされてしまうなんて!


 これは、レオにとっては、由々しき事態だった。


 なぜなら、ゆりは嘘をついていないのだ。


 レオが、作る誕生日ケーキは、三ツ星レストランで出されてもおかしくないほどのクオリティだ。


 そう、まさに結婚式のケーキと言われてもおかしくないほどの、素晴らしい出来なのだ!


 しかし、レオたち家族は、あくまでも一般家庭。


 まさか、名家のお嬢様が、執事と駆け落ちして、この町にやってきたなんて、誰も思っていないだろう。


 だからこそ、普通の小学校に通う、普通の女の子であるゆりの誕生日ケーキが、結婚式並の豪華さだなんて誰も思わないし、信じない。


 だが、そんな娘への不評を、このレオが見過ごすわけがなく……


「宗太くんは、俺の作るケーキは、大したことないって言いたいのかな?」


「う……でも、実際、結婚式のケーキは言い過ぎだろ?」


「そうか……じゃぁ、今夜、お父さんとお母さんと一緒に、うちにおいで?」


「え?」


「君を、五十嵐家のパーティーに招待するよ」


 そう言うと、レオは、にこやかに微笑んだ。


 これは、可愛い娘の一大事だ。

 ならば、しっかり見せつけてやるべきだろう。


 元・執事としての、実力と言うものを───

 





[番外編③に続く]


✣──────────────────────✣


今回も、閲覧下さりありがとうございました。

次回、レオパパが本気だします(笑)


ただ、明日は、神木さんちの方を更新予定です。

良かったら、また、水曜日に覗きに来てください。


いつも、ありがとうございます!

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