▶︎ 番外編&SS

レオと結月に子供が生まれた後のお話

五十嵐家の日常 ①


 こんばんは。

 昨日、FANBOXで、告知した『お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。』の番外編です。


 内容は、本編完結後、レオと結月が結婚し、子供がうまれたあとのお話です。ほっこり甘い五十嵐家の日常を、ご覧下さいませ。



 

 ✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣




 子供の日が過ぎ去り、新緑が美しく輝く頃、五十嵐家には、待望の赤ちゃんが誕生していた。


 新しい命は、二人が駆け落ちをして、10年が過ぎた頃にやってきた。


 父であるレオの年齢は31歳。

 そして、母である結月の年齢は、29歳。


 この時代の風潮からしたら、少し遅いくらいの初産ういざんだったが、母子ともに元気に出産を終えたことに、レオは、ひどく安堵していた。


 レオの母は、レオを産んだ次の日に亡くなった。


 だからか、こうして二人が生きていてくれるだけで、この上ない喜びに満たされた。


 なにより、結月によく似て、色白で可愛いらしい我が子は、目に入れても痛くないほどで……


「ゆり」


 赤子の名を呼ぶと、レオは、愛おしそうに目を細めた。


 風情ある武家屋敷には、さわやかな風が吹き抜ける。


 そして、それはレオの髪を揺らし、まるで、幸福をまとうように優しく頬を撫でた。


 産院から自宅に戻ってきてからは、三人だけの生活が始まった。


 これからは夫としてだけではなく、父として生き、愛する家族を守っていかなくてはならない。


 そう思うと、身が引き締まる思いがした。


 なにより、この世に、これほどまでに心を熱くする存在が現れるなんて思わなかった。


 結月に抱く恋情とは、また違った感情。


 そう、一言で例えるなら──可愛いすぎて、ヤバい!!


「はぁ……赤ちゃんって、こんなに可愛いんだな」


 語彙力すら失うほど、愛らしい我が子をでながら、レオは、しみじみとため息をつく。


 すると、そこに


「レオ。ゆりは眠った?」


 と、背後から結月が声をかけてきた。


 縁側えんがわで、ゆりを寝かし付けながら涼んでいたレオは、今度は、愛しい人に目を向ける。


「結月、ゆっくりしてていいんだぞ。産後に無理はするべきじゃない」


「無理なんてしてないわ。レオが、家事も育児も、ほとんどしてしまうから、私がすることといったら、お乳をあげることくらいじゃない」


 相変わらず過保護というか、結月びいきなレオの溺愛ぶりは、今も健在で。特に、出産という大義を果たした後だからか、普段より拍車がかかっていた。


「私だって、ゆりのお世話がしたいのよ?」


「まるで独り占めされてるみたいな言い方だな。産後の妻をいたわってるっていうのに」


 隣に座った結月の頬に触れ、レオが優しく微笑んだ。


 結婚して、もうすぐ10年になるのに、この旦那様の甘さは、いくつとしを重ねても変わらない。


 そう、執事だった、あの頃と同じように──…


「ねぇ、レオ。私たちの夢、もう全部、叶ったような気がするの」


 頬に触れた手に自身の手を重ね、結月が、ゆだねるようにを閉じた。


 家族が欲しい──それは、二人の『夢』だった。


 心で繋がった、本当の家族。


 そして、その幼い頃の『夢』は、我が子の誕生で、より崇高なものになった。


「阿須加家を出てから、何もかもが上手くいきすぎていて、時々、不安になるわ」


 幸せすぎて、怖くなる。


 もしかしたら、夢でも見ているんじゃないかと思うほど、今は幸福に満ち溢れている。


 覚悟を決めて、駆け落ちをした。

 全てを失う覚悟で、この人を選んだ。


 でも、捨てるものなど、結局、何一つなかった。


 幸運にも、友人たちとの繋がりを切る事もなく、あんなにも恐ろしかった両親でさえ、今は、牙がぬけてしまったのかと思うほど、大人しくなった。


 なにより、一族のくさりに囚われることなく、ずっと、この町で穏やかに暮らしている。


 その上、無理だろうと思っていた子供にも恵まれた。


 幸せすぎて、不安になる。


 いつか、この『夢』が覚めてしまうのではないかと──


「結月?」


 すると、レオが結月の顔を覗きこみ


「大丈夫か、産後でナイーブになってるんじゃないか?」


「そうなのかしら?」


「産後は、精神的にも不安定になりやすいとは聞くよ。身体も回復してないし……でも、怖いくらい幸せだって気持ちは、よくわかる」


 腕の中で眠るゆりを見て、レオが囁く。


 夢は叶った。

 何もかも、全て──


 だが、夢は、叶えて終わりではない。


 一番難しいのは、その夢を、その幸せを、維持していくこと。


 大切な家族を、最後まで守り抜くこと──


「結月。俺は、いい父親になれるだろうか?」


 いつか、ゆりが大人になった時に『いいお父さんだった』と言って貰えるだろうか?


 幼い命の重みを感じながら、レオは珍しく弱音を吐いた。すると、結月は、同じようにゆりを見つめながら、ふわりと微笑みかける。


「大丈夫よ、レオなら……今の私たちは、愛し方も、愛され方も、よく知ってるわ」

 

 だから、大丈夫。

 私たちは、この子を愛してあげられる。


 だから、たくさん『愛』を教えてあげよう。



 この子が、将来


 自分は愛されていたと



 胸を張って言えるように──…












   番外編 『五十嵐家の日常 ①』









 ✣✣✣



「お父さん、起きてー!」


 それから季節が巡り、7年が経った頃、レオは、ゆりの声で目を覚ました。


 結月によく似て、大きな瞳と長い髪をしたゆりは、廊下をパタパタとかけ抜け勢いよくふすまを開けると、布団の中にいる父親レオに、なだれ込むようにダイブする。


「ねぇ、お父さん、起きて?」


「んー」


 昨夜は、少し夜更かしをしてしまった。

 娘が寝静まってから、料理の仕込みをしていたのだ。


 だが、そんなことを知らないゆりは、容赦なくレオを叩き起す。


「お父さん、まだ、眠るの? ご飯一緒に食べれる? もうすぐ、できるよ?」


「んー、食べるよ。今、起きようと思ってたんだ。それより、今日のゆりは、やけに早起きだな。いつもなら、まだ寝てるだろ?」


「ふふ」


 すると、ゆりは、父の前で可愛らしく微笑んだ。

 そして、どこか試すような発言をする。


「ねー、お父さん。今日が何の日か、ちゃんと覚えてる?」


 愛らしく、それでいて甘えるように。


 だが、どこか小悪魔的なその娘の表情には、どことなくレオの面影も感じさせる。


 自分の嫌な部分が、似ていなければいいな。

 レオは、そんなことを思いつつ、起き上がると


「覚えてるよ」


 そう言って、ゆりの髪を撫でた。


 この俺が、忘れるわけがない。

 愛しい愛しい娘のを──


「ゆり、誕生日おめでとう」


 そう言うと、レオは、7歳になったゆりを抱きしめた。


 今日は、5月12日。

 美しく広がる空は、透き通るような青空だった。



 ✣


 ✣


 ✣



 その後、レオとゆりが、キッチンに行けば、中では結月が朝食を作っていた。


 なれた手つきで調理をする姿は、お嬢様の頃とは違い、母としての貫禄かんろくを感じさせる。


 だが、料理の腕は、やはりレオのほうが断然上のようで、レオの足元にも及ばない結月は、時に失敗することがあって……


「お母さん、お魚こげてない?」


「え!? うそ!」


 グリルから、香ばしい香りが漂ってきて、ゆりが母に声をかける。すると、結月は慌てて、グリルの火を止め、中の魚を見つめた。


 すると、どうやら焼きすぎてしまったらしい。

 立派なニジマスが、黒焦げになっていた。


「あー、やっちゃった……!」


 そして、まんまと失敗をしてしまった結月は、ひどく落胆しながら


「ごめんなさい。焦げたのは、私が食べるわ」


「いいよ、俺が食べる」


「だ、ダメよ。レオは、そっちのを食べて。失敗したのは私なんだから」


「大丈夫だよ。結月が作ったものなら、なんでも美味しいから、俺に食べさせて」


「……っ」


 甘い美声が、キッチンに響く。

 レオは、何年経っても、一切変わらなかった。


 だが、いくらなんでも、黒こげのお魚を食べさせるなんて!?


「……レオは、私に甘すぎるわ」


「今に始まったことじゃないだろ。俺は、いつだって、結月を甘やかしたいよ」


 エプロン姿の結月を背後から抱きしめ、レオは、そっと頬にキスをする。


 まるで、挨拶でもするように。

 いつも、さりげなく愛を与えられる。

 そして、それは、娘の前でも変わりなく。


 しかし──


「ダメ! 私が食べる」


 ピシャリと言い放つと、結月はレオの腕から抜け出し、真正面から向かい合った。


「焦げたものを食べて、レオが、お腹を壊したらどうするの? だから、私が食べる」

 

「俺は、結月がお腹を壊す方が嫌だよ。それに、焦げてる部分は外側だけだ。中身は大丈夫」


「だったら、私が食べても問題ないじゃない。私はレオに、綺麗に焼けた方を食べて欲しいの」


「ワガママ言うなよ」


「ワガママは、レオの方でしょ」


「もう、二人ともケンカしないでよ!!」


 すると、そこに、娘のゆりが激高し


「焦げたのは、私が食べるから!!」


「「ダメ! それは、絶対だめ!!」」


 可愛い愛娘に、焦げた魚は渡せない!!


 気持ちがピタリと合わさると、結月とレオは、口を揃えて、そういった。


 そして、娘の誕生日に何をやってるのかと、深く反省した二人は、焦げたお魚の、焦げた多分だけを綺麗に取り除き、仲良く、半分こすることにした。


 だが、その瞬間


 ──ピンポーン!


 玄関から呼び鈴が鳴る。


「?……こんな時間に誰かしら?」


「俺が見てくるよ」


「私もー」


 その後、レオとゆりが、そそくさと玄関へ向かう。

 すると、そこに現れたのは──…






【番外編②に続く…】


 ✣─────────────────────✣



皆様、番外編まで閲覧してくださり、誠にありがとうございました。


まだ、続きますが、明日は、私の娘の誕生日なので、更新は、お休みします(すみません)


また12日にお会いできたら嬉しいです。

それでは~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る