青葉の月 17日



 最悪なことが起こった。


 突然早朝に叩き起こされ、朝食もそこそこに馬車で国境まで運ばれ、そして馬と弓矢と大きな背負い鞄を与えられた。意味がわからなかった。


「どういうことですか」


 私はもう何度目かわからない質問をした。同じ問いを繰り返すなど賢者の弟子にあるまじき愚行だったが、この状況を受け入れられなかったのだ。


「だから、青の塔に行くの」


 師匠は快活に笑って言った。隣でアドル殿が苦笑している。ここにいるのはこの三人だけ。息子達はそれぞれ仕事や学校があるので、塔に残るらしい。


「青の塔とは、迷宮の? 海の向こうではありませんか」

「そうよ」

「なぜ」

「だからそこに叡智があるのよ。あそこの書物は持ち出せないから、読みに行くの」

「あの遺跡に書物があるなんて聞いたことありません」

「あるんだってば」


 仮にも賢者様なのだから誰も知らぬことを知っていて当然なのだが、いかんせんこの方が言うと信憑性がないように聞こえる。論文を読む限り、古代術式の研究に関してはとんでもない才覚をお持ちなのだが。


 私が当惑している間にも、師匠は「久しぶりの冒険ね、アドル!」と夫の腕に腕を絡めてニコニコしていた。アドル殿は少し頬を赤らめて「そうだな」と言っている。仲が良いことだ、よそでやってくれ。


 国境を越えると馬に跨り、冒険家のように森の中の街道を進んで、今日は夜営だ。川で魚を獲って焼いて食べた。私は今まで乗馬こそしたことがあったが、こんなに長距離を(大きなインクの染みがあり、文章はここで途切れている)

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