第19話 中学生の恋は、チョコのようにとけていく。「バレンタインデーに、チョコレートをほしい」そう言ったとき、ユキは、どんな気持ちだったんだろう?

 「ユキちゃん!」

 「先輩…」

 「ユキちゃん!」

 「うれし…」

 「ユキちゃん!」

 「うれし…かった…」

 「ユキちゃん!」

 「最後まで、その名前で、呼んでくれ…て…うれし…」

 ユキは、溶けていった。

 雪の、ように。 

 そのとき、完全に、わかった。

 ケイは、ユキに、こんな誘いをしていたはずだ。

 「浜辺に、いってみようよ?太陽の光を浴びるのだけでも、良いんじゃないか」

 そんなの、無理じゃないか。

 「俺にも、無理だったな…。太陽の光を、浴びたら…。ユキちゃんは、溶けちゃうものな…」

 ケイは、崩れ落ちた。

 「あんな誘いを、するんじゃなかった」

 悔やんで、泣いた。

「俺さ。君から、バレンタインデーのチョコレートが、ほしいんだよな」

 そう言ったとき、ユキは、何も言わなかった。

 ユキは、どんな気持ちだったんだろう?

 「ごめんね、ユキちゃん?あの言葉を言うんじゃ、なかったな…」

 チョコレートは、溶けるを、想像させちゃうものだ。

 その言葉を使うべきじゃあ、なかった。

 これは、受験の前に、スキーだとか、スノボだとか、すべることをイメージした言葉を贈らないほうが良いというような感覚に、似ていてさ。


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