第15話 「そうか。だから、ユキちゃんは絶対に放したくない子だって、感じていたんだな」 ケイの苦しみは、終わらない。 中学生の恋は、甘くない。

 「あのね、お母さん?」

 「何?」

 母親は、すんなり、理解を示してくれた。

 父親は、あてに、ならなかったけれど。

 「あのさ、お父さん?」

 「メグミ?そんなのは、気のせいだ。お前は、女の子なんだ。それ以上でも、それ以下でもない」

 父親は、小学校の先生だった。

 「…そっか。小学校の先生っていうのは、こういう人なんだな…」

 がっかり。

 「学校の先生なんか、いつか、皆、死んじゃえば良いのに」

 本気で、願いはじめていた。

 母親がいてくれたからこそ、何とかなったような生活だった。父親のことは、どうしても、好きになれなかった。

 「学校の先生って、いつ、死んでくれるのか。バブルのおばさんなどと同じように、死なないか待ちですな」

 どこかのTV番組で、大人に、そこまで言われちゃうのを見て、がっくり。

 中学入学の日、家庭でささやかなお祝いをする計画は、父親には、知らせなかった。母親と、大きなケーキを食べた。

 「お母さん?」

 「何?」

 「学校の先生って、いる意味、あるの?」

 「…」

「だって、お母さんたちが、涙して働いてもらえた金を奪って、えちえち生活なんでしょ?」

 「…」

 「あれって、チホーコームインって、いうんでしょ?」

 「…」

 「たまに、学校にきてくれて、一生懸命に働いている先生たちが、気の毒だよ」

 「…非常勤の先生、か」

 母親は、言葉、少なし。

 ほぼほぼ、応えなかった。

 何も応えないという怖さを知った彼だからこそ、誰かに何かを聞かれたら、ちゃんと応えてくれる子に、ひかれたんだ。

 「そうか。だから、ユキちゃんは、絶対に放したくはないんだ。ちゃんと応えてくれる、大切な子なんだから」

 ケイの苦しみは、終わらない。

 中学生の恋は、甘くない。




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