始まりの歌-6
「わかった。ソルうたって?」
「…………聞いておったか?儂はもう」
痛む心を隠そうとしながら痛々しい笑顔で気にこちらの様子を伺う彼へしっかりと答える。
「ぎんゆうしじん、だった。でも、」
「ぼうけんしゃのじんせいは、あいぼうのもの。」
「ぎんゆうしじんのじんせいは、あなたのもの。」
「いいことも。わることも。じぶんだけのもの。」
「わたしのじんせいは、わたしのもの。」
「うしなったかなしみは、わたしのもの、じゃない。」
「かわりの、かわりに、ことばは、つたえられる。」
「でも、にせもの。」
「わたしじゃ、にせものの、きもちすら、つたえられない。うたのきもち、わからない。」
「だから、つたえられない。ほんものは、うたえない。」
「あなたのいたみは、ほんもの。それは、わかる。」
「ほんもの、うたって。おしえてよ、ししょう」
「…………随分と酷なことを言うのう」
彼は泣きそうに顔をゆがめながらも少し吹っ切れて私を見ながら言った。
わたしはにっこりとわらって
「やくそく。でしょ?ちょうし、わるくなってきたかも?」
「……そうだったな」
彼はひとりでに立ち上がって舞台へ上がっていった。
今までずっと罪の意識を告白したかったのかもしれない。
誰かに許されたかったのかもしれない。
わたしはそれを喜んで受け入れよう。
贖罪の歌「ソル」
――
旋律はより深みを増し掠れ枯れた歌声はブランクがあり小さな声量ながら人を引きつける魅力があり次第に村全体を包み込む。
マイナーの調べはより重く、胸をかきむしりたくなる後悔と近しい者を喪失した悲しみの感情が頭に反響し、増幅した切なさが心を強く刺激する。
若人の無謀を止める礎の一つになれるだろうか。
吟遊詩人は相棒の姿を網膜に思い描きながら弾き語る。
シキの言葉で踏ん切りがついたはずなのに、どうしようもない焦りが浮かんでくる。その焦りの隙間を埋めるために相棒のことを考える。
脂汗を浮かべながら本能のままに荒れ狂う感情のまま歌う。
それは先程の観客の想像に寄り添うシキの歌唱とは真逆で、吟遊詩人の感情を観客に植え付けていくような歌だ。
シキは男をサポートするように灯妖精たちにお願いし、光の色を操る。
記憶を取り戻してからというもの、シキは灯妖精にお願いを聞いてもらいやすくなったようだ。
男と男の相棒の人生をなぞるように時々で色を変える。
悲しみの真っ青な海の色、救いの色、明日を示す太陽の色。
そのどれもが哀愁の色
唄が終わるとパラパラとした拍手と鼻水をすする音、嗚咽が聞こえた。
吟遊詩人はやっとそこで観客の存在を思い出し、救われたような顔で泣いたのだった。
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