始まりの歌-5

シキが歌った歌あるだろう


あれは儂の相棒の歌だ



儂の相棒は田舎から出てきた若造だった。


儂は駆け出しの吟遊詩人での、ある日あやつが儂に自分の冒険を歌えと言ってきた。


あやつは大したこともしておらんかったから一端の冒険者になったら歌ってやるとあしらったつもりだった。


そうしたらあやつは、儂にみせてやるから一緒に来いと言ってのけた。

儂は歌しか取り柄がないと思っておったし、お前の冒険の邪魔になると断ったが、そんなことはお構いなしに儂を無理やり連れていくような男だった。



それから道端と時折酒場で歌い、あやつは儂を冒険ついでに儂を護送する取り決めで長い間一緒に行動しておった。


いつか大きな夢を掴もうと小さな金を拾い過ごしておった。









日常の終わりはあっけなかった。


いつかのスタンピードで冒険者の動員が起こった。


広域かつ大規模で魔獣が活発化しているらしいと聞くとあやつは勇み足で前線へ向かったよ。

大冒険だと、俺の冒険譚をお前が歌うのが楽しみだと、笑いながら。







そしてあやつは英雄になって帰ってきた。



灰になって帰ってきた。


骨も残らなかったと、あとで聞いた。






歌えなくなったんじゃ。あの日から。





儂が殺したようなものじゃ。


あやつは冒険者なぞできるほど優れた特徴をもっておらんかった。

…………儂が焚きつけたせいで死んだようなものじゃ。


偉そうに突き返して夢も叶えられず死んでしまうくらいなら歌の一つや二つ歌ってやればよかった。




儂は死んでからも約束をろくに守れない。

……英雄になったあやつの顔も思い出せない。


自分で歌えないからと透明な歌声のお前さんを借りてまで未練にすがっているただの愚かな男じゃ。



だからのう、シキ。

儂は本来なら舞台に上がる資格もない、吟遊詩人でもないんじゃよ。


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