序章-4
「ここが騎士団の詰め所だ」
血塗れのアオイの背にのせられグロッキー状態な少女とこねこたちを座ることで背を斜めにし、滑らすように降ろした後、アオイは獣用の押し扉を頭で押しくぐるように入っていった。
少しの間の後、詰め所の内側から扉が開き騎士団に勤める女性陣とモモが少女とこねこたち、ついでにとコウとアオイも抱きかかえられ風呂場に連れて行かれる。
騎士団の女性陣は少女たちを一通りあわあわのもみくちゃにした後、嵐のように去っていった。残ったのは、なすがままに洗われ露天風呂に入れられ三角座りをする少女シキと風呂桶の中でくつろぐ仔猫たち、飴の副作用により愛くるしく小さくデフォルメ化され普段より獣の特徴が強く出た姿でプカプカとお湯に浮いているアオイとコウ、コウを抱えて湯船に浸かるモモだった。
(青い狼のアオイ、黄色犬のコウ……多分あの人がモモ……)
シキはコウに教えてもらった名前を確認しながらお湯の浮力で浮いているこねこ入り風呂桶を近くで眺めていると、犬掻きで寄ってきたアオイに話しかけられる。
「これから君はどう生きたい?」
シキは頭にはてなマークを浮かべたが、アオイは今後について考えていると思い言葉を待っている。暫しの間シキとアオイは見つめ合い続ける不思議な時間が流れる。すると半分眠ってスピスピと鼻を鳴らしているコウを抱えていたモモがその様子に助け舟を出した。
「アオイ先輩、それじゃ多分わからないですよ。」
「む?そうか」
シキより少し小さく少年然とした風貌のアオイは確認するように手をシキの肩に掴まるような形でポンと置いた。シキはモモの言葉を肯定する意味でアオイを膝に乗せる。
「妖精嵐にあった者は成人まで連邦に保護されることになっている。通常の場合妖精嵐を受けた者は二通りの道がある。」
シキは水分を含んでしなしなになったアオイの毛を手でもてあそびながらふむふむと頷く。
アオイは軽く咎めるように鋭い爪が鳴りを潜めた丸く小さな肉球がプニッとした指を勢いよくシキの目の前に立て説明を続ける。
「ひとつ。入れ替わった妖精を国が秘密裏に追い払い妖精嵐に関する秘密を抱え護衛兼監視付きで故郷に戻る。大抵はこちらを選ぶものが多い」
「ふたつ。国からの援助を受けながら連邦国中央首都で妖精使いとしての教育を受ける。教育中は移動を制限されるが教育が終われば監視はなくなり職を得て独り立ちできる利点がある」
妖精使いと言う言葉に反応して、シキがコウに視線を向けるとコウはねぼけた様子でお湯の水面をパシパシと叩いて返事をした。
「ただし、君の場合は記憶喪失だ。それに今回の妖精嵐はどうも様子がおかしい。」
アオイはいつのまにかシキの頭上で溶けるように広がっているメンダコ妖精をみやる。
「しばらくの間はこの村に留まってもらうことになるが、本人たちの希望も聞いておきたい」
シキは改めて言葉の意味をなんとか咀嚼しようとしたが、なにせおぼろげな記憶しか持たない女児である。アオイの難しい説明では理解できず、戸惑いながら先程助けてくれたモモへ縋るような目で見つめる。
モモは同情するように軽く笑って話を切り出す。
「……それでは、おためしということでうちで働きませんか?秋のスタンピードで丁度人手が足りなくなる時期ですし、住み込みで働けますよ」
「そういえば、もうすぐ魔獣共が活発になる時期だったか。この時期は特に出入りが激しい、お前の記憶を取り戻す手がかりが得られるかもしれない」
「緑のヤツとかな。酒場なオレとモモが面倒見てやるから」
コウは眠そうな声でつぶやいた。
アオイは冒険者の後輩だった二人をみて感慨深く
「コウもモモも頼もしくなったな……ということで構わないかシキ?」
「うん」
シキはホッとした様子で頷く。シキのなかで名前が確定したモモをみてペコリと頭を下げと、モモは微笑んだ。
「コウが本格的に寝ちゃいそうなのでそろ上がりましょう。ほら、コウ起きて」
コウは黒い子猫、モモは白い子猫をそれぞれ風呂桶から抱きかかえて露天風呂からあがる。アオイとシキも後ろに続いて歩く。
「コウ」
「ん、ありがと」
「アオイ先輩、仔猫ちゃん用の乾かす道具借りれますか?」
「これを使ってくれ、モモ。コウも」
「りょーかいです」
アオイは吸水性の良さそうなタオルを取り出し、二人に渡す。それとは別にバスタオルと無地のシャツを二つずつ取り出し、一つをシキに渡す。
「シキ、一人で着替えできるか?」
「たぶん……?」
「…………着替え終わったら教えてくれ」
シキはアオイの動作を見様見真似で真似てみた。体が動作を覚えているのか、なんとか乾かすことができた。
シャツは騎士団の備品で、シキ身丈に合わなかった。シャツの裾が膝上付近まできており、ワンピースのようになっている。
「おわった」
「……座れ」
シキはボタンを直された。
ついでにと髪もしっかり乾かされた。
シキはしょんぼりしながらしっかりと乾かされた後小さなピクニック用バスケットにコウとモモにしっかりと乾かされ寝かせられたまま眠った双子仔猫と一緒に脱衣所から出る。
するとそこに居たのは、黒い白衣を纏った格好をしたレッサーパンダだった。
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