第35話 ユナとサナの学園生活Ⅴカインファンクラブができる

 ルーカス先生が胸から杖を出して詠唱した。至近距離からファイヤーボールをオレに放った。


 オレは咄嗟にウォーターウォールを放ちファイヤーボールをかき消す。

 

 キャッと女子生徒の悲鳴が聞こえる。


 「皆、離れろ! 」


 ルーカスとオレが対峙し、生徒たちが輪になり固唾を飲んで見守っている。


 追い詰めすぎたか。もっとヘイトをオレに集めて生徒の身を守らねばならない。


 「そんな卑怯な真似しなくても相手になりますよ。魔法使いなら魔法で勝負しましょうよ。ねぇ、盗難の真犯人のルーカス先生。」


 ルーカスがうるせえと叫び詠唱を開始する。


 巨大なファイヤーウォールをオレに向けて放つ。


 なかなかの威力だ。


 だが、この程度の魔法でオレに勝てると思うのは大きな間違いだ。


 アイスウォールを出し、再び打ち消す。


 水で打ち消せば、爆発で生徒が巻き込まれることもない。


 生徒を攻撃されては困る。一瞬で終わらせよう。


 ルーカスは詠唱時間がほとんど必要なく魔法を放ってくる。人間として問題は多いが、魔法使いとしては優秀な方だ。


 だが、詠唱時間が一秒でもかかるなら、無詠唱の方が速い。 


 無詠唱でサンダーアローを放つ。ルーカスが詠唱する前に攻撃を当てよう。


 先手必勝だ。


 オレが放ったサンダーアローがルーカスの体に刺さる。


 ノックバックしたスキを見逃さずに一気に距離を詰める。


 これで終わりだ。


 剣をルーカス先生のクビにかざす。


 自爆覚悟で生徒に攻撃されても困るな。


 足払いしてルーカス先生を倒し、うつ伏せの状態にして杖を奪った。


 生徒たちが歓声を上げる。


 カイン先生かっこいい。強すぎる。さすがはお兄様ですわ。といった声が聞こえた気がする。最後のは恐らくサナだろう。


 「もう終わりだ。ルーカス先生。」


 「くそっ。聞いてねえぞ。こんなことになるなんて。」

 

 聞いていない。引っかかる言い方だ。誰か黒幕が居るということか。誰かがオレをはめようとしたのだろう。


 尋問しよう。


 関節技を決める。


 「ルーカス先生。あなたが犯人ですね。」


 「ちっ違う。私じゃない。痛いっ痛い! 」


 声に殺気を交えて問い詰める。


 「嘘を言わないほうが身のためですよ。僕は憲兵でなく冒険者です。どんな手段でも使って白状させますから覚悟して下さい。」


 そう言うと、ルーカス先生の心を折ったみたいだ。


 オレがやったとルーカスが白状した。


 「もうそこらへんでよかろう。カイン先生。ルーカス先生は先に校長室に行っていてください。これ以上問題を大きくしたら、どうなるかわかりますよね。」


 ルノガ―校長の発言には重みがある。


 騒ぎを知って駆けつけた先生にルーカス先生は連れて行かれた。


 連れて行かれるルーカス先生の背中は小さく見えた。


 「カイン先生。身を挺して生徒を助けてくれてありがとう。犯人も無事に確保できたみたいじゃな。」


 「いえ。誰も傷つかないで良かったです。」


 うむそうじゃな、とルノガ―校長が頷く。


 「ところでさっきカイン先生が言っておった指紋調査の件、あれは嘘じゃろ。」


 ルノガ―校長がにやっと笑う。


 「バレてましたか。全員を騙せていたと思ったのですが。」


 そう言って僕は舌を出す。


 「フォッフォッフォ。見くびるでないぞ。ワシはカインを小さい頃から知っておるのじゃ。真贋を見分けるくらい造作もない。」


 さすがはルノガ―校長だ。 踏んできた場数が違う。


 「さすがはルノガ―校長です。参りました。」


 ルノガ―校長に対して頭を下げると、頭を撫でられた。


 「本当に良い青年になったなカイン。嬉しく思うぞ。」


 ルノガ―校長に褒められると嬉しかった。ありがとうございますと返事をした。


 「ルーカス先生を捕まえたことでより一層、魔法学校は人手不足での。困ったもんじゃわい。そこで、カイン先生、魔術実践だけでなく、Sクラスの担任でもしてみんか。」


 聞いていた生徒が歓声を上げる。


 「嬉しいお誘いですが、私はギルド職員なので、お断りさせていただきます。」


 「そうか。残念じゃ。カイン先生には魔法学校の校長を将来的には担ってもらいたかったのだが、交渉失敗じゃ。ワシも後十年若ければカイン先生と手合わせしたかったのう。」


 ルノガ―校長は僕が断ることを分かっているはずだ。話がうまいというか、相手を引き立てるのが上手だ。


 僕と手合わせしたかったのは事実だろう。


 「いえ。剣聖と言われたルノガ―校長には僕はまだまだ及びません。」


 「フォッフォッフォ。そう言ってくれるのはカインだけじゃ。ずいぶんと大きな事件に巻き込んでしまったようじゃのう。ルーカス先生の件はワシが責任を持って対応する。今日はありがとう。」



 皆もお昼休憩が終わるから早く戻りなさいと言い、生徒たちを校舎へ戻るように促した。


 ルノガ―校長も生徒たちと共に校舎へ戻っていった。


 サナとユナさんだけがその場に残って、話しかけてきた。


 「お兄様。ありがとうございました。あのままお兄様が犯人扱いされていたら、私がルーカス先生を引っ叩いていましたわ。」

 

 サナは兄思いの優しい妹だ。


 「ありがとうサナ。だが、先生への暴力はダメだ。ユナさんを見習いなさい。」


 ふぇっとユナさんが言う。不意打ちだったのだろう。


 「なっ…私は見習うようなことしていません。」


 「そうですか。他の先生からユナさんの評判が良くて、魔法学校を代表する生徒だって聞きましたよ。」


 ユナさんの顔が真っ赤になる。


 「そっそうなんですね。ありがとうございます。」


 そう言うと、ユナさんは俯いた。


 「お兄様、ご存知ですの。今回、嫌われ者のルーカス先生を倒したのですから、カインファンクラブの会員数が拡大することは間違いないですわ。」


 カインファンクラブってなんだ。そんなことドヤ顔で言わないでくれ。


 聞いてるこっちが恥ずかしくなる。


 「そっそんなのがあるんだな。知らなかったよ。」


 ファンクラブのことはルノガ―校長から聞いていたが、冗談だと思っていた。まさか本当に存在するだなんて驚きだ。


 「ええ。有りましてよ。もちろん。私とユナさんがカインファンクラブ会長ですわ。」


 自分のファンクラブが存在するなんて夢にも思わなかった。


 こういう時どういう顔をしていいのだろうか。


 ユナさんはファンクラブ会長という言葉を聞いてから、ずっと顔を真赤にしている。


 実害があるわけでもないから、ファンクラブなんて辞めろとも言えないし、なんて返事をするのかを悩んでいると、サナが沈黙を破って発言した。


 「お兄様、アイスご馳走するを約束お忘れなきようお願いしますわ。私たち、そろそろ戻りますわね。お昼ご飯を食べ損ねてしまいます。」


 たしかにそうだ。もうお昼休みも半分は過ぎている。


 「そうだね。引き止めて悪かった。それじゃあ僕はギルドに帰るよ。アイスの件、サナに連絡するから日程の調整してくれ。」


 「いえ。引き止めたのは私たちですわ。お誘い楽しみにしていますわ。それでは失礼いたしますわ。」


 サナとユナさんが手を振り、校舎へ戻っていった。



 今日は事件に巻き込まれて焦ったな。後はルノガ―校長が上手くやってくれるだろう。


 さあギルドに戻って、溜まっている仕事を片付けよう。

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