第36話 カインの不調
日差しも強い夏のある日。
カインはギルドで忙しい毎日を送っていた。
魔法学校の講師に、アシスト制度。助け手に帝国から依頼が来るA級クエスト。ユナさんの家庭教師。
毎日なんとかこなせていたが、流石に疲れが溜まってきている。
ミントさんが隣から話しかけてくるが、頭がボーッとして、どうにも会話が頭に入ってこない。
これはやばいかもしれない。
頭がぐるぐると回っている。
視界がぼやけて意識が飛んだ。
◇
目を覚ますと、自宅のベッドに寝ているようだ。時計に目をやるともう夜だ。
いつの間にか部屋着に着替えていて、ベッドで寝かされている。
どうやら、家まで運ばれたらしい。ギルドの皆には迷惑をかけてしまったな。
仕事も残っているが、まだ少しだけだが気分が悪い。
このまま休みたいが、ギルドに連絡をしよう。
立ち上がろうとすると、扉が開いた。
ミントさんが扉から入ってきた。
「カインさん。心配しましたよ。体調良くなりましたか。」
ミントさんが料理を作ってくれたみたいだ。鍋を持っている。
「ご迷惑をおかけいたしました。だいぶよくなりました。僕はどうなりましたか。」
「お昼すぎにカインさんが急にフラフラして倒れちゃったんですよ。覚えていないんですか。」
「すみません。覚えていないです。」
「謝らなくていいですよ。いつもギルドはカインさんに助けてもらっているんですから。裏で休んでもらっていて、メンゼフさんが帝国議会から帰ってきたので、家まで運んでくれたんです。」
どうやら、メンゼフさんにも迷惑をかけたみたいだ。
「そうなんですね。明日謝らないと。」
ミントさんがクビを横にふる。
「メンゼフさんが謝るなって言っていましたよ。たっぷり休んでくれとのことです。今日は部屋から出すなって言われていますから、私がギルドに行かせたりなんてしませんよ。」
そう言うと、ミントさんが手でバツを作った。
ミントさんのこういう仕草はすごくかわいく思う。
「わかりました。今日はしっかりと休ませていただきますね。」
ミントさんの顔が笑顔に変わる。
「はい! 良かったです。そういえば、料理作ったんですよ。食べられますか。」
あまり食欲はない。体を起こしているだけでも少しだるい。
「ちょっと厳しいかもしれません。後で食べますね。」
「ダメです。しっかりと体力を付けないと。私が食べさせます。」
そう言うと、ミントさんがベッドに腰掛けた。
「ほらっ。カインさん。頑張って食べて下さい。」
あーんと言い、スプーンでスープを掬い、口にスプーンを持ってきた。
「あの…」
そう言うと、いけないと言いミントさんがスープをフウフウした。
熱そうという意味ではなく、少し照れるから言葉を発しようとした。
でも、食べないのは失礼だろう。
一口食べる。美味しい。体に染み渡る。
「ミントさん。美味しいです。」
そう言うと、ミントさんの顔が満面の笑みを浮かべる。
「良かったです。この調子でどんどん食べてくださいね。」
ゆっくりと、こぼさないように丁寧に口に運んでくれる。
美味しい。
体調が悪くて、食べられいだろうと思っていたけど、全部食べれそうだ。
なんとなく元気になってきた気がする。
はい。これで終わりです。とミントさんが言った。
いつの間にか、全部食べていたみたいだ。
「ミントさんありがとうございます。すごく恥ずかしかったけど、とても美味しかったです。ごちそうさまでした。」
ミントさんの顔を真っ赤になる。
「たっ…たしかに恥ずかしいですね。私、洗いものしてきますから、カインさんは先に寝ていてくださいね。」
僕の返事を聞かずにミントさんが部屋から出ていった。
洗い物くらい自分でするんだけどな。
好意に甘えて、少しだけ休ませてもらおう。
◇
そのまま寝ていたみたいだ。
ベッド横で椅子に座ってミントさんが寝ている。
時計を見ると12時を回っている。
数時間寝ていたみたいで、体の怠さも無くなっていた。
もう明日からバッチリ働けそうだ。
ミントさんを起こそうか。
ミントさんを起こそうとしてベッドから起きると、ミントさんは寝ながら目から涙がこぼれている。
「ミントさん。起きて下さい。大丈夫ですか。」
「あっカインさん。よかった…。体調はよくなりましたか。」
「はい。すごく元気になりました。明日からバッチリ働けます。」
「そうなんですね。実は今、夢でカインさんがいなくなる夢を見たんです。」
どうやらミントさんは嫌な夢を見ていたみたいだ。
「僕はここにいますよ。それに体調も良くなりました。ミントさんが看病してくれたおかげです。」
机の上には水を汲んだ桶とタオルが数枚置かれている。
おでこに置いてくれていたのだろう。
「そうですか。良かったです。」
そう言うと、ミントさんが立ち上がり、僕を抱きしめた。
「ミントさん、風邪うつっちゃいますよ。」
「いいんです。カインさんがいなくなると思ったら、悲しくて。」
グスグスとミントさんが泣き出す。
「僕はずっとギルドにいますから。大丈夫ですよ。」
ミントの頭を撫でて、慰める。
「カインさん。無理しないでくださいね。」
うるうるとした目で見上げるミントさんはすごくかわいくて、抱きしめ返す。
「ミントさん、いつも支えてくれてありがとうございます。」
「私たちの方こそカインさんに支えてもらっていますから。」
ミントさんの心臓の鼓動が聞こえる気がする。
「カインさん、一つだけお願いしていいですか。」
どうぞと言う。
「カインさん、キスしてください。」
ミントさんの好意は知っているつもりだ。ポーン家の問題など色々と解決しなければならないことはある。それでも今は彼女が愛おしくてたまらない。
そっとミントの唇にキスをした。
「うふふ。カインさん優しいですね。私は今日という日は絶対に忘れません。」
そう言うと、ニコっと笑いミントさんが僕から離れる。
「今日はちゃんと寝てくださいね。夜も遅いし、これで失礼します。また明日ギルドで。」
そう言い、ミントさんは手を振って部屋から出ていった。
顔を真赤にするミントさんはすごくかわいい。
明日からバリバリ働くために、今日はしっかりと休もう。
今日はすぐに寝れそうだ。
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