第36話 カインの不調

 日差しも強い夏のある日。


 カインはギルドで忙しい毎日を送っていた。


 魔法学校の講師に、アシスト制度。助け手に帝国から依頼が来るA級クエスト。ユナさんの家庭教師。


 毎日なんとかこなせていたが、流石に疲れが溜まってきている。


 ミントさんが隣から話しかけてくるが、頭がボーッとして、どうにも会話が頭に入ってこない。


 これはやばいかもしれない。


 頭がぐるぐると回っている。


 視界がぼやけて意識が飛んだ。




 目を覚ますと、自宅のベッドに寝ているようだ。時計に目をやるともう夜だ。


 いつの間にか部屋着に着替えていて、ベッドで寝かされている。


 どうやら、家まで運ばれたらしい。ギルドの皆には迷惑をかけてしまったな。


 仕事も残っているが、まだ少しだけだが気分が悪い。


 このまま休みたいが、ギルドに連絡をしよう。


 立ち上がろうとすると、扉が開いた。


 ミントさんが扉から入ってきた。


 「カインさん。心配しましたよ。体調良くなりましたか。」


 ミントさんが料理を作ってくれたみたいだ。鍋を持っている。


 「ご迷惑をおかけいたしました。だいぶよくなりました。僕はどうなりましたか。」


 「お昼すぎにカインさんが急にフラフラして倒れちゃったんですよ。覚えていないんですか。」


 「すみません。覚えていないです。」


 「謝らなくていいですよ。いつもギルドはカインさんに助けてもらっているんですから。裏で休んでもらっていて、メンゼフさんが帝国議会から帰ってきたので、家まで運んでくれたんです。」


 どうやら、メンゼフさんにも迷惑をかけたみたいだ。


 「そうなんですね。明日謝らないと。」


 ミントさんがクビを横にふる。


 「メンゼフさんが謝るなって言っていましたよ。たっぷり休んでくれとのことです。今日は部屋から出すなって言われていますから、私がギルドに行かせたりなんてしませんよ。」


 そう言うと、ミントさんが手でバツを作った。


 ミントさんのこういう仕草はすごくかわいく思う。

 

 「わかりました。今日はしっかりと休ませていただきますね。」


 ミントさんの顔が笑顔に変わる。


 「はい! 良かったです。そういえば、料理作ったんですよ。食べられますか。」


 あまり食欲はない。体を起こしているだけでも少しだるい。


 「ちょっと厳しいかもしれません。後で食べますね。」


 「ダメです。しっかりと体力を付けないと。私が食べさせます。」


 そう言うと、ミントさんがベッドに腰掛けた。


 「ほらっ。カインさん。頑張って食べて下さい。」


 あーんと言い、スプーンでスープを掬い、口にスプーンを持ってきた。


 「あの…」


 そう言うと、いけないと言いミントさんがスープをフウフウした。


 熱そうという意味ではなく、少し照れるから言葉を発しようとした。


 でも、食べないのは失礼だろう。


 一口食べる。美味しい。体に染み渡る。


 「ミントさん。美味しいです。」


 そう言うと、ミントさんの顔が満面の笑みを浮かべる。


 「良かったです。この調子でどんどん食べてくださいね。」


 ゆっくりと、こぼさないように丁寧に口に運んでくれる。


 美味しい。


 体調が悪くて、食べられいだろうと思っていたけど、全部食べれそうだ。


 なんとなく元気になってきた気がする。


 はい。これで終わりです。とミントさんが言った。


 いつの間にか、全部食べていたみたいだ。


 「ミントさんありがとうございます。すごく恥ずかしかったけど、とても美味しかったです。ごちそうさまでした。」


 ミントさんの顔を真っ赤になる。


 「たっ…たしかに恥ずかしいですね。私、洗いものしてきますから、カインさんは先に寝ていてくださいね。」


 僕の返事を聞かずにミントさんが部屋から出ていった。


 洗い物くらい自分でするんだけどな。


 好意に甘えて、少しだけ休ませてもらおう。





 

 そのまま寝ていたみたいだ。


 ベッド横で椅子に座ってミントさんが寝ている。


 時計を見ると12時を回っている。


 数時間寝ていたみたいで、体の怠さも無くなっていた。


 もう明日からバッチリ働けそうだ。


 ミントさんを起こそうか。


 ミントさんを起こそうとしてベッドから起きると、ミントさんは寝ながら目から涙がこぼれている。


 「ミントさん。起きて下さい。大丈夫ですか。」


 「あっカインさん。よかった…。体調はよくなりましたか。」


 「はい。すごく元気になりました。明日からバッチリ働けます。」


 「そうなんですね。実は今、夢でカインさんがいなくなる夢を見たんです。」


 どうやらミントさんは嫌な夢を見ていたみたいだ。


 「僕はここにいますよ。それに体調も良くなりました。ミントさんが看病してくれたおかげです。」


 机の上には水を汲んだ桶とタオルが数枚置かれている。


 おでこに置いてくれていたのだろう。


 「そうですか。良かったです。」


 そう言うと、ミントさんが立ち上がり、僕を抱きしめた。


 「ミントさん、風邪うつっちゃいますよ。」


 「いいんです。カインさんがいなくなると思ったら、悲しくて。」


 グスグスとミントさんが泣き出す。


 「僕はずっとギルドにいますから。大丈夫ですよ。」


 ミントの頭を撫でて、慰める。


 「カインさん。無理しないでくださいね。」


 うるうるとした目で見上げるミントさんはすごくかわいくて、抱きしめ返す。


 「ミントさん、いつも支えてくれてありがとうございます。」


 「私たちの方こそカインさんに支えてもらっていますから。」


 ミントさんの心臓の鼓動が聞こえる気がする。


 「カインさん、一つだけお願いしていいですか。」


 どうぞと言う。


 「カインさん、キスしてください。」


 ミントさんの好意は知っているつもりだ。ポーン家の問題など色々と解決しなければならないことはある。それでも今は彼女が愛おしくてたまらない。


 そっとミントの唇にキスをした。


 「うふふ。カインさん優しいですね。私は今日という日は絶対に忘れません。」


 そう言うと、ニコっと笑いミントさんが僕から離れる。


 「今日はちゃんと寝てくださいね。夜も遅いし、これで失礼します。また明日ギルドで。」


 そう言い、ミントさんは手を振って部屋から出ていった。


 顔を真赤にするミントさんはすごくかわいい。


 明日からバリバリ働くために、今日はしっかりと休もう。


 今日はすぐに寝れそうだ。

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