第12話 ギルド職員として…

 ルークとの決闘後、明けの明星でオークの丸焼きを買い、イブと帰宅した。


 「オーク、オーク」とイブがうるさいのだ。助けられた恩もあるし今日は多めに買ってあげよう。


 メンゼフさんにお礼を言うのを忘れていたな。明日、朝一でお礼を言いにいこう。


 ルークと戦い倒した時、なんとも言えない感情になった。


 これがルークが変わる良いきっかけになれば良いのだが。


 「イブ、あんまりルークをあおるんじゃない。危うく後ろから斬られかけた。」


 「あんなのはあおったうちに入らないわよ。初対面のレディにやらせろとか言う方が悪いわ。それにね、私はカインの方が強いという事実を言っただけよ。」


 「はあ…まあいい。」


 もうルークのことは考えたくない。自分から始めた話ではあるが、この話はここで終わりにしよう。


 「なあイブ、イブってどれくらい強いんだ。」


 イブがオークの肉を口いっぱいにほおばりながらほがほがと言っている。


 「ちゃんと飲み込んでから返事してくれ。」


 「そうね。どれくらいかと言われると、困るわね。」


 「すまない。質問が悪かったかな。僕とイブが戦ったらどちらが勝つと思う。」


 「それも状況による気がするわね。私はカインがいなければ、魔力の供給がなくなって物体としてこの世にはいられないもの。そういう意味では圧倒的にカインが有利よね。」


 ルークに放った火を見るに、イブと戦って勝つビジョンは浮かばない。


 「そういえば、初めて人間に変化した日に100年ぶりのご飯みたいなことを言ってた気がするが、なにか覚えているかい。どうやって召喚されたのかとか。どうやって封印されたのかとか。」


 「ん~記憶は曖昧なのよね。思い出したら言うね~」


 今度、図書館にでも行って火の要請イフリートに関する情報でも調べてみよう。記憶が戻るきっかけになるかもしれない。


 「それにしても、精霊は念じれば指輪に戻るし、人間の姿になることもできるって便利だな。」


 「そうね。私が人間の姿になるのが好きなだけだから他の精霊はわからないけど。でも指輪の中って狭くはないんだけれど、退屈なのよ。」


 そんなものか。精霊は精霊で大変なんだな。


 「念で話すより人間の口で話したほうがコミュニケーションをとってる感じがするでしょ。それよりカイン、おかわりっ! 」


 すべてのオークの丸焼きが骨だけキレイに残して皿から消えている。


 オークの丸焼きって大人5人で食べても余る量だぞ…


 次回から皿にちゃんと取り分けておこう。 


 今日は晩御飯もなしだ。楽しみにしていたのにな。


 ルークといろいろなことがあって疲れた。食事もないし…寝よう。


 

 それから数週間、仕事内容が主にアシスト制度のつきそい担当になった。ギルド職員として初級の冒険者のクエストに同伴しアドバイスや緊急時に助太刀する仕事だ。


 初級の冒険者内ではうわさが広がり、日を追うごとにアシスト制度の申し込みの件数が増えていった。結果として、毎日2・3回はダンジョンとギルドの往復することになった。


 ハードな毎日ではあるが、若い子の成長が見られることに充実感を感じる。


 人を育てるというのは難しいがやりがいを感じていた。


 ルークたちはノース鉱山で1カ月奉仕活動という名の重労働に勤しんでいるみたいだ。ギルドと鉱山は提携しているので定期的に報告がくるらしいが、文句を言いながらも頑張っているみたいだ。いろいろと事件も起きたみたいだが元気にやっているらしい。



 今日は月末。


 いつもであれば、就業時間が終わると簡単に報告だけして帰れるのだが、月末には時間をとり1カ月の振り返りを行うみたいだ。


 ギルド長室にメンゼフ、マンゼフ、ミント、そしてカインが集まった。


 「今月もお疲れさま。いやぁカインが新しく加入をしていなかったら確実に過労で倒れていたな。さっそくだが、マンゼフ数値の報告をしてくれ。」


 マンゼフさんが紙を全員に配る。


 紙にはギルドに関する、数値やグラフが記載してある。


 「さっそくだけど、報告させてもらうわ。今月は受託件数も達成率も過去で最高の数値よ。それに一番嬉しいことは初級の冒険者死亡人数が0人だったことね。これもカインちゃんの影響が大きいと思うわ。アシスト制度まで手が回っていなかったから、カインちゃんの加入で全体の数値が増えたと言えるんじゃないかしら。」


 マンゼフが説明すると、たしかにそうだな、とメンゼフがうなずく。


 「褒めていただけるのは嬉しいんですけど、多分、ギルドに人が足りていなかっただけだと思いますよ。」


 さすがにそれは褒め過ぎだと思う。自分ひとりですべての仕事をしたわけじゃない。ただ、自分がギルド職員になって初級冒険者の死亡者0人を達成できたことは嬉しい。


 「今までの数値と比べても全然違いますもん……カインさんのおかげですよ。」


 ミントさんはいつも褒めてくれる。


 「そうだな。すべてがカインのおかげというわけではないが、初月からよく頑張った。偉いぞカイン。」


 メンゼフがカインの頭をくしゃくしゃにしながら褒める。


 今までルークたちとイグニスの槍を組んでいた時も、いやその前も褒められることなんてなかった。むしろ罵倒されることばかりの人生だった。


 なんというか、くすぐったいような不思議な感覚だ。


 「そこでだカイン。ちょっと相談なんだが、月に数回あるギルドの入会試験を担当してみねえか。」


 メンゼフが続ける。


 「ギルドとしても死亡者を出したくねえ。冒険者として才能がないやつの入会を断るのも優しさだ。おまえがギルドの入会試験官を担当すれば、経験に基づいた公平な目で、冒険者といてやっていけるかどうかを判断できるだろ。」


 ギルドの入会試験の仕事は責任が重大だ。


 人の人生を大きく変えてしまうことになるだろう。


 「わたしは大賛成です。わたしが入会試験担当したときなんて、冒険者としての適正なんて全然わかりませんでしたし。」


 ミントもうなずきながらも言った。


 「最初は俺も同席するが、最終的にはおまえに任せるつもりだ。これからは若者の時代だ。オレなんかよりカインに選ばれて、カインから冒険者のいろはを学ぶほうが長期的に見ていいだろう。」


 メンゼフさんはかってくれてはいるが…僕にできるだろうか。


 「そうですね。僕でよければ担当させていただきます。」


 拍手がおきる


 「こりゃ、オレがギルドマスター引退する日も近そうだなっ。」


 なにを言ってるんですか。僕がいる間は絶対にメンゼフさん辞めさせませんよと返す。


 「冗談はさておき、ギルド長としては皆の頑張りにこたえて娯楽提供する義務がある思う。そこでだオレのおごりで飲み会を行おうと思う。行きたいやつは? 」


 「はいっ参加させていただきます。」ミントさんの尻尾がパタパタと高速に動く。


 「私ももちろん。カインちゃんも来るわよね。」


 マンゼフがカインに問う。


 「はいっ。ただ知り合いを連れてきてもいいですか。」


 「あの赤髪のねーちゃんかいいだろう。今夜は無礼講だっ! ミント明けの明星で食事と酒を飲みきれないほど買ってきてくれっ」


 ミントさんがラジャといい。部屋を出ていった。


 「カイン。イフリートを出せるか。マンゼフにも見せておきたくてな。」


 ミントさんには召喚するところは見せられないということか。もちろんですと答える。


 (イブっ出てきてくれっ)


 イブがフェニックスの姿で現れる。


 「ほんとうにフェニックスみたいね。見るまで信じられなかったわ。人間にもなれるのよねっ」


 マンゼフがまじまじとイブを見る。


 イブが光り輝くと人間の姿に変化した。


 「はじめまして。イブです。よろしくお願いします。」


 「あらっ礼儀正しいのね。イブちゃんよろしくね。私がマンゼフでこっちのひげがメンゼフよっ」


 「イブには申し訳ないが、もう少し存在を隠しておかないといけなくてな、カインの親戚ということにでもしておいてくれ。くれぐれもフェニックスの姿で街中で出ないように頼むわ。」


 「カインに言われてるから大丈夫~約束するねっ。」


 真面目な話が続くが、イブが分からないことが多かったみたいで飽きたようだ。マンゼフの胸毛を触ってウルフみたい~と自由に振る舞っている。


 そんなに褒めないで~と喜んでいるマンゼフの反応は理解に苦しむ。


 「こうやって見ると普通の女の子だな。」


 「はい。外見と食欲以外はこどもです。」


 イブの食欲のせいでカインの財布は軽い。


 「マンゼフさん、これから帝国はどうなるのでしょうか。」


 「まだ分かんねえな。それでもオレたちにできることは一人でも多くの冒険者を育てることだけだ。」


 マンゼフさんは笑顔でかっこいいことを言うな。


 ただ、マンゼフさんギルド内は禁煙です。たばこに火をつけないでください。


 ドタドタと階段を登る音が聞こえてくる。どうやら、ミントさんが到着したみたいだ。


 「着きました~ってマンゼフさんギルド内は禁煙ですっ! たばこは体にもよくないんですよっ。めっです。」


 慌ててマンゼフはたばこを消すがミントさんに怒られて小さくなっている。


 よしっ乾杯しようと話を逸らす


 「みんな、酒を持ってくれミントこちらの赤髪の女性はカインの親戚のイブだ。帝都に用事があってカインのところに住んでるらしい。仲良くしてやってくれ。今月もお疲れさま。乾杯っ!!! 」


 酒を掲げて乾杯する


 飲み会は朝まで行われた。


 楽しくて楽しくて記憶がなくなるくらい呑んだ。


 酔っていて話をした内容はほとんど覚えていないが、ギルドの一員に正式になれたという気持ちだけは翌日起きても消えなかった。

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