第11話 カイン VS ルーク決着

「どうだカイン。おまえをイグニスの槍で雇ってやるぜ。」


 そういうと、ルークは勝ち誇った顔で手を差し出す。


 ルークがもともと勝気な性格なのは理解しているつもりだったが、ここまでやばいやつだとは思わなかった。


 言葉がでない。


 もしイグニスの槍に戻ってこいと言われたのが当日だったら、ルークの手を取っていただろう。


 今、俺にはミントさんやメンゼフさん、マンゼフさんもいる。助っ人を頼んでくれるエンリルの弓矢のメンバーだってこんなひどい扱いはしないだろう。


 ルークが俺をクビにした。


 もう俺にルーク達と冒険する未来なんてない。


 いやありえない。


 「ありがたいお誘いだけど、お断りさせていただくよ。」


 カインはルークの目を見てキッパリと言い切った。


 言葉を聞いたルークは顔が真っ赤になる。まさかカイン如きに断られるなんて微塵も想定していなかったのだろう。


 ルークは差し出した手を振り上げる。殴ろうとしているみたいだ。


 「殴ってもいいけど、こっちだって鬱憤がたまってるんだ反撃はさせてもらうよ。」


 「ふざけんなカイン如きが調子に乗りやがって。おまえは俺の言うことだけ聞いてればいいんだよ。」


 大声で怒鳴るルークの声が街にこだまする。


 周りに人が集まり、怪訝そうにこちらを見ている。


 「人が集まってるし、これ以上もめ事を大きくするのは良くない。もういいだろ。やることもあるし、帰らせてもらうよ。」


 「ちょっ。待てよ。」


 後ろに振り返り、歩き出そうとすると、ルークがカインの背中を蹴飛ばしカインはよろめき手を地面についた。


 「まだ話は終わってねえだろ。カイン。自己中なことすんじゃねえ。」


 それはこっちのセリフだ。


 さすがに腹立ってきた。


 「どうしてもっていうならカイン土下座で許してやる。」


 何を許される必要があるのだろうか。もうパーティ離脱届も出されているし、イグニスの槍と無関係だ。


 俺は立ち上がり服についたほこりを払う。


 「いい加減にしてくれ。俺が何を謝る必要があるんだ。」


 「一々うるせえやつだ。お前はイエスだけ言ってればいいんだよ! 」


 言ってることが滅茶苦茶だ。


 「まぁいいや。おまえのかわりなんていくらでもいるし、許してやる。その変わりおまえの連れてる女とやらせろよ。」


 最低な男だ。


 ルークの相手をするのは疲れるしめんどくさい。なにも言わず逃げようかと思ったその時、イブがルークに突っかかった。


 「あんたねぇ。いい加減にしなさいよ。さっきから聞いてりゃ偉そうに。少なくともあんたカインより弱いわよ。」


 弱いという言葉でルークは沸点に達したのだろう。生意気な女は引っ込んでろと言いながらイブに殴りかかる。


 イブは軽くルークの拳を交わす。


 当たるわけがないじゃないそんな遅い攻撃。と言いながら涼しげな顔をしている。


 よろめいたルークの顔は真っ赤だ。


 「言ってもわからないんだから。カイン、こいつと戦ってボコっちゃいなよ。」


 「上等だよっ! やってやらぁ! 」


 ルークはこちらをにらんでいるがカインはめんどくさそうに返事をする。


 「別にやってもいいけど。やるメリットがないだろ。それにここじゃ目立ちすぎる。もしルークが負けたら噂になるぞ。」


 「カインに俺が負けるなんて億に1つも可能性はねえ。ギルドの訓練室いこうぜ。もし俺が勝ったら、カインは俺の奴隷な。その女をもらってやるよ。」


 ニヤニヤしながらイブを見るルークの目はいやらしい目をしている。


 「わかったよ。そう叫ばないでくれ。やろう。俺が勝ったらイブやギルドのメンバーを侮辱したことを謝ってもらう。」



 ギルド長のメンゼフさんに地下訓練場を借りられるかを確認する。メンゼフさんは全てを察したかのように、俺とイブ、イグニスの槍のメンバーを見渡しルークに問いかける。


 「そりゃいいけどよ。ルーク本当にいいのか。」


 「もちろんだぜ。メンゼフさん。俺が現実をカインに教えてやるよ。」


 「そうか。俺は止めたからな。俺が審判してやるよ。俺が辞めと言ったらそこで終わりだからな。」


 わかってるよとルークは気のない返事をした


 ギルドの訓練場は魔法具で結界が貼ってある。魔法など衝撃が建物に当たっても訓練場が壊れることはないが、物理攻撃を受けた人間は怪我はするし、当たり前に痛みは感じる。


 「いいか。俺が辞めって言ったら終わりだからな。魔法も道具も使っていい、ただ真剣を使うんだから早めに止めるぞ。」


 「わかったよ。メンゼフのおっさん。早く始めろ。」


 「ギルドマスターメンゼフが承認する。決闘開始! 」


 カインは開始の合図と同時に剣を抜き構える。


 ルークは無鉄砲に剣を振りかぶり突っ込んでくる。


 「おらっ俺の剣撃受けてみろカイン」


 安い挑発には乗らない。バッグステップでルークの斬りを躱す。


 「逃げてるだけじゃ勝てねえぞカイン。」


 2撃目。3撃目と連続で斬りかかるルーク。


 剣でルークの攻撃をいなす。


 (さすがに生身での打ち込みはルークの方が力は若干上か。)


 ルークが距離を取り、にたっと笑う。獲物を追い詰め勝利を確信。己の優位を信じきっている顔だ。


 「ここで終わったら盛り上がんねえぞぉぉ。カイン」


 何度も斬りかかってくる。


 徐々に受けるのが苦しくなってきた。


 「これで終わりだカイン」


 ルークはカインから距離を取り、ルークの代名詞と言えるスキル<連続突き>を使って勝負を仕掛ける。


 俺は自分に速度向上のバフを無詠唱でかける


 ルークに対応するには力じゃない速さだっ


 通常であれば、ルークの<連続突き>は剣が何本にも増えたように感じるのだろう。


 ただ、バフがかかった今だったら、スローモーションで動いているように見える。


 (ルークごめん。今まで手合わせしているときは筋力や速度向上の魔法は使っていなかったんだ。魔法でバフさえかければ…残念だが遅いっ。)


 余裕で躱すこともできるが。剣で攻撃を弾くのは散々バカにしてきた嫌がらせだ。


 ルークとは実家を飛び出してからギルドで出会い、切磋琢磨してきた。そう思うと、なんか悲しくなってくる。


 ルークが惨めに感じた。


 ――もう終わりにしよう


 俺は俺の道を進む。


 ルークが最後の突きを放つ。


 同時に、カインは下からすくい上げるように剣を振る。


 鈍い音が訓練場に響いた。


 ルークの手から剣が飛びカランと音を立てて、地面に落ちた。


 カインは剣をルークの首の前に持っていく。


 「もう終わりだ。ルーク。」


 「うるせえ。うるせえ。」


 ルークは格下だと思っていた僕に負けて怒っているのだろうが、もう俺にやり合う気はない。


 「勝者カイン。」メンゼフが終わりを告げる。


 剣を鞘に収め、後ろで見学していたイブと帰ろうと、後ろにふり返り歩き出した。


 ―――その時、


 「まだ終わってねえんだよ。」


 ルークがカインに斬りかかった。


 まずい剣は鞘に収めているし、ガードするのも間に合わない。メンゼフさんも慌てて止めようとするが届かない―――


 しまった油断した。痛みを覚悟して片目を反射的に閉じる。刹那、後ろから火の矢が目にも留まらぬ速さで疾りルークに激突した。


 「えっ…」


 振り替えるとどうやらイブが撃ったみたいだ。早すぎて目で追えなかった。さすが精霊といったところか。


 ルークはうううとうめき声を上げながら、ピクピクと地面にのびている。


 「ルークこれでもう終わりだよ。気絶する姿見せてもらったし謝罪も要らない。ただもう話しかけないでくれ。」


 そう言うとカインはメンゼフにお礼を言い、イブとともに訓練所を後にした。



 カインが去った後、メンゼフがルークに水をかけ起こす。


 ルークは目を覚ます。そこにはもう憎いカインはもういない。


 「今、なにがおったんだ……?」


 「何がじゃねえよ。辞めって言ったら従えって言っただろ。」


 メンゼフさんが怒りながらルークの頭をたたく。


 「おい、僧侶のソラって言ったか、お前ルークに回復魔法かけてやれ。」


 はいっと返事をし、ソラがルークに近寄り回復をかける。


 「決闘だから懲罰にかける訳にはいかないが、こってり絞らせてもらうぞ。ルーク。それにおまえら全員だ。」


 なんで私たちがとイグニスの槍メンバーは口々に愚痴を言う。


 「生意気なことを言ってんじゃねえぞガキども。連続してクエストの失敗。態度の悪さ。パーティとしての評判の悪さ。そしてカインへの仕打ち。勇者としてふさわしくないと議会に駆けあってもいいんだぞ。」


 「やだな。冗談ですよ。やっやめてくださいよ。メンゼフさん。」


 ルークは強気な性格だが、立場が上の人には弱い。


 「そうよ。私は何もしていないわ。」


 ルキナは自分だけ助かろうとメンゼフに詰め寄るが、それでもメンゼフは首を立てには振らない。


 「ルークが原因だが、止めなかった他のメンバーも同罪。連帯責任だ。」


 「私じゃない。悪いのはルークだけよ。」


 「ルキナおまえと言い争うつもりはない。ギルド長権限だ。そこまで言うなら選べ。今、イグニスの槍を解散して勇者も辞退する。もしくは奉仕活動を手伝うかだ。」


 勢いよくメンゼフに突っかかっていたルキナもギルド長権限と言われると、何も言い返せない。それに、もしこれ以上突っかかって勇者という称号が剥奪されれば地位もお金も失うからだ。


 イグニスの槍のメンバーは誰も言葉を発しない。


 「よし、決まりだな。お前ら明日から一ヶ月。ノース鉱山で働いてもらう。休みの日はダンジョンに行ってもいいが一日でもサボったら、冒険者ギルドを利用させない。」


 一カ月も激務と言われる鉱山で働くなんて、イグニスの槍のメンバーは皆しぼんだ風船のように静かになっていた。

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