第11話 教唆

「スキッディ向きの任務とはどういうものなんだ?」

 スキッディによる下腕のトレーニングを受けながら、オレは聞いてみた。

「ふむ。ゴグロザ、オマエはまだ任務を受けるまでには時間がかかりそうだな。オレの任務について知っておく事もいいだろう。少し話してやろう。だが、この腕の感覚を探ろうとすることは忘れるな。それを意識しながら聞くといい」

 スキッディはフランクな調子で話し始めた。

「オレの身体はこの通り、海中特化型だ。しかし、今ここで動けるように陸上での活動も可能だ。さて、そんなオレの任務とはどのようなものか、想像はそれなりにつくだろう」

 スキッディが動かしている下腕に意識を向けながら、オレはこの非合法組織が海中、または海上で行う企みに思いを馳せる。

「船……。船に関する何か、か?」

「あぁ。その通りだ。海運で運ばれる資材は多い。そして、その資材の中には、運送が完了して欲しくないと誰かに思われるモノもある」

「なんだそれは。そして、誰にだ」

「そう思われてしまう一番の資材は、軍事、戦略に使えるモノ……だな」

 あぁ。そういう事か。兵器足りえるモノ、兵器に必須のなんらかのマテリアル、軍事、戦略兵器に転用可能な資材、そういったものが運ばれる事を阻止したいという意思は、おそらく強いもので、強行もいとわない存在もあるのだろう。そして、そういう存在は、金に糸目をつけないのではなかろうか。

「なるほど。スキッディの任務は船を沈める事か」

「ふふ。物騒な事を言うじゃないか。ま、それは最終手段だな」

「必ずしも、沈没させる事が目的ではないのか」

「あぁ。何事も悪目立ちは良くないものだ。沈没事故が多発すれば、過剰な対策が取られ、オレ達の仕事もしにくくなるというものだ。オレ達のクライアントと、海運会社、またはどこかの軍、そしてその積み荷の出荷主、それぞれにとっての落としどころを見つけるのもオレの仕事の内だ」

「と、言うと?」

「オレの強みはレーダーに探知されにくい事と、船上の対人戦程度なら無敵という事、そして、大型船への海上からの潜入能力と、そして、交渉力、だ」

「……、特定の積み荷を海上で捨てさせるという事か」

 オレはスキッディの言葉から、彼の任務を想像し、それを口にした。

「そういう事だ。目の前に自分の死を突きつけられりゃ、大抵は落としどころを探すものだしな。気象条件さえ整えば、嵐の海の中に積み荷を捨てさせてもやるのさ。関わった被害者の全てに『今回は運が悪かった』と思わせるお膳立てもしてやるんだ」

「なるほどな。しかし、捨てさせるだけ、なのか?」

「ほほぉ。察しがいいな。まぁ、もちろん、船員の前では『廃棄すればそれでいい』というていで捨てさせるがな。我が組織にとって有用なものは後程回収もする。船員たちにとってのオレは正体不明の単独犯だが、オレは単独で任務につく訳じゃないしな」

「沈んだ荷物を引き上げる……サルベージ船、それがスキッディのチームか」

「さて、どうかな」

 スキッディの触腕がリズミカルに揺れている。オールバックのように撫でつけられた四本の触腕が小さく波打つ様に動いた。どうやら笑っているようだ。


 オレはどのような仕事をさせられるのだろう。スキッディがいる以上、海上での任務が与えられるとは思えないが、彼が話した内容に類するものをさせられるには違いない。


 この下腕がソイツの役に立つというのか。この不自由な下腕を駆使せねばならない任務というものは一体どのようなものなのだろう。まるで想像がつかない。


 スキッディに動かされている右下腕の肘の辺りに、ピリッとした刺激が走る。ん?今なら右下腕の肘を曲げるくらいは出来そうだ。

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