第2話 改造人間五号
「一刻も早く洗脳をしてしまいたいと仰るのは分かります。……が、ただの肉塊にしてしまわない為には神経系と脳の統合の確認が何よりも優先です。どうか、それまでお待ち頂きたい」
「三号と四号の時の暴れっぷりは、この研究所内に小さくない損害を生んだであろう? それを忘れるな」
「もちろん、心得ております。五号用に調合した筋弛緩剤はぬかりなく準備しておりますので」
「分かった。では、報告を待つとしよう。手早く済ませてくれ、博士」
「えぇ。お任せください、ボス」
ボスと呼ばれた男はどうやら部屋から出ていこうとしているらしい。待て。話を聞かせろ。部屋から出て行くのは説明してからしてくれ。
「ギ、ギ、ギ……」
ダメだ声が出ない。声の代わりに不気味な音がオレの身体の何処かから鳴るばかりだ。せめてボスと呼ばれる男の顔を見ておこうと、そいつの声の方向に首を向けようとして気が付いた。オレの身体は仰向けに寝かせられ、胴も手足も何かで拘束されているらしい。それでも諦めず、ボスと呼ばれた男の方向に意識を向ける。光の奔流が頭に流れ込んでくる。無数の光と影。無数の光の中にぼんやりとした人型の影が無数に浮かんでいる。なんだ、これは。
「まずは落ち着いてくれんかの、改造人間五……、いや、後藤くん。後藤
博士と呼ばれていた男がオレの名を口にした。
「ふむ……。声帯が機能しとらんようじゃの。まずは、どうするか……。おい、小早川くん」
「はい」
博士でもボスでもない男の声がした。もう一人いたのか。いや、この部屋には何人いるのだ? それより、ここはどこなんだ。
「オペ台の操作を頼む。彼の上半身を起こしてくれ。そうだな……、負担の少なそうな、楽そうな角度にしてやってくれ」
「はい。分かりました」
小早川という男の返事と同時に、寝かせられていた台が動き出す。背中と肩と後頭部に力がかかっているのが分かる。少しづつ上半身が立てられていく感覚もある。視覚情報は、相変わらず光と影がうるさくごちゃごちゃと頭の中で暴れている。この部屋の様子も周りにいる人間も、オレには把握できないままだ。
やがて、オレを拘束している台は動きを止めた。おそらく、オレは今、足を前に投げ出して上半身を背もたれに預けて座っている姿勢でいるのだろう。拘束具で台に繋がれたまま。目でそれを確認出来てはいないが。
「さて、初めまして。後藤くん。声の調子はまだ本調子じゃなさそうだから、首を振る事でワシとコミュニケーションをとってくれぬか。『はい』なら首を縦に、『いいえ』なら首を横に振ってくれるだけでいい。……どうかの。それで、いいかの?」
博士と呼ばれていたその声は、名乗りもしないまま一方的に話してくる。まずは名を名乗れ。
「ギ、ギ……」
ダメだ。声は出ない。
「おぉ、おぉ。声を出そうと頑張ってくれるのはいいが、ムリはするな。首を縦か横に振るだけでいいのだぞ」
こちらの意図は伝わらないし、名乗りもしないムカツク野郎だが、声には妙な凄みがある。なんとも抗いにくい。オレはコクリと頷いた。
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