第14話 妻、後輩(女)に相談する

side クレハ


「ふ〜ん、旦那さん、怒って出ていったんすか〜」


私はいつもの後輩(女)に今朝あった出来事を話した。ちなみに今日の後輩はあざといツインテの装いではなく任務の都合で男装をしている。中々様になっている。


「何か先輩がミスしたんじゃないですか〜?」


なぜか言葉のふしぶしにざまぁ的なテイストを感じた、正直うざい。


「だって!毎日先輩と旦那さんのラブラブ話を聴く独り身の気持ちにもなってくださいよ!こういう時くらいざまぁぁああ!って思ってもバチあたんないですよね!?」


この後輩中々に腹の内黒いことを考えていた。しかしラブラブ話て…。先にユキについて聞いてきたのはお前だろと思ったが口には出さない。

ツッコむ余裕が今の私にはないのだ。


「それになんなんすか!私へのあてつけですか!

喧嘩しててもお弁当とか!」


私はユキに作ってもらったオベントー、その中の卵焼きを咀嚼していた。オベントーの中に冷凍商品はない。昨晩のものと今朝作ったもので彩られた箱の世界。


「いや、時系列的に喧嘩前に作ってもらったやつだから」


「あーあー!先輩まじうっさいですね!マジレスとかどうでもいいですよ!!」


後輩はイラついたようにコンビニのサンドイッチにかぶりついていた。

ではいったい私はどうすればいいのだろうか。


「そんなもん知りませんよ!このすかんぽんたん!」


私は少しだけ後輩の機嫌を取った。

無論この事態の解決方法を教えてもらうためだ。


「はぁ…ほんとしょうがないですね…真面目な話、旦那さんに発信機とかつけてないんすか?」


今日はユキの受け持つ授業はなかったはずだ。

それなのに出て行ったということは相当怒っているという証拠。


「つけてたけど、ユキに気づかれて取られた」


「先輩の旦那さん何者なんすか」


後輩は驚愕の表情を浮かべた。

そうなのだ。ユキはすごい。

暗殺者である私と共に暮らし、そういうことに順応してきたのかもしれない。

最近は異常に察知するスピードが速い。

それだけユキは常に人の目や周囲のことに気を配ってる証拠だろう。


「しかしユキの居場所を見つけたとしても」


「はいそうです。根本的な解決には至りませんねー」


なら私はいったいどうすればいいのだろうか。

今、ユキと私は対立してしまっている。


「いや対立て…先輩そんな大げさな…」


ずぅぅーん。気分が暗く落ち込む。

どーしよっかな。午後からの仕事キャンセルしよっかな。ははは…


「先輩ってめんどくさいっすね〜」


「めんどくさい?」


「そうでしょ?なに分かりきった問題にぐだぐだ悩んでるんすか?馬鹿っすか先輩?」


この後輩、どさくさ紛れに中々私に酷いこと言ってないか?だが今は見逃してやろう。それに今何か大切なことを言っていた気がする。


「分かりきった問題とは?ユキが怒った理由がわかったのか?」


「え?まぁ…」


「それはなんだ!!」


「おわっ!?」


気づけば私は後輩を押し倒していた。

暗闇の中に現れた一筋の希望の光。

私はそれに(後輩)に縋り付く勢いだった。


「せ、先輩、とりあえず離れて?」


「む…すまない」


仕方なく離れる。


「こわぁ…心臓止まるかと思った…」


失礼なやつだ。


「こほん、では改めまして…たぶん旦那さんが怒ってるの、記念日を忘れたからじゃないですか?男は記念日にうるさいですからね~」


「はぁ…」


後輩の話を聞いてもいまいちピンとこなかった。

とてもじゃないがユキがそんなことで怒るとは思わないのだ。


「いいですか!先輩!後輩からありがたい言葉を授けます!

記念日を大切しないカップルは即消滅ですよ!デットエンドですよ!特に男にとっては記念日は死活問題なんですよ!」


「はぁ…」


「記念日をすこ〜し忘れたくらいで『自分って大切にされてないのかな』なんて面倒くさい思考をするのが男ってもんですよ!!そっからはお互い気まずくなってやがてジ・エンド!」


すごい気迫だ。過去に男と何かトラブルでもあったのかもしれない。


しかしここまで言われても私は正直ピンとこなかった。いつも温厚なあのユキが怒ったのだ。それこそ記念日程度のことではないだろう。


「思い当たるものないんすか?」


しかし無意識のうちに可能性を除外しているのかもしれない。

私は後輩に言われて改めて頭の中を検索にかける。

恋人になった日、結婚記念日、季節性のイベント日でもない。地方にある一日一日の細かい記念日も暗記しているが該当しそうなものはない。


「じゃあ、初H記念日とか?」


「あ゛?」


「じょ、じょうだんすよ~…。ちぇ〜、落ち込む先輩からなら聞けると思ったのにな~」


こいつは落ち込む先輩に対して何をしているんだ。


「ま、素直に心当たりがないことを言ってとりあえず誠心誠意謝罪する。そして話しあうのが一番だと思いますよ?これまじな話」


私はこの八方塞がりな状況、後輩の助言を試そうと思った。


.

.

.

.



「あの、ユキ…」


私はちょうどテーブルに晩御飯を並べるユキを見つけて近づいていく。後輩に助言された通り、まずは謝罪して話し合う場を設ける。


しかしユキはこちらをチラッと見ただけですぐさまプイッと顔を背ける。

ガァーンッ。やっぱり私嫌われた…。

これは話し合いどころではないのではないか。


「なんですか?僕は浮気者さんとは喋りつもりはありません。あの日のことも忘れたようですし、もうありえません!晩ご飯は作っておいたのでいっぱい食べてくださいね!じゃあおやすみなさい!」


バタンっ


早口で自分の言いたいことだけを捲し立てたユキがさっさとリビングから出て行ってしまった。


「…」


「ままー?だいじょーぶ?」


心配そうな顔の蛍。私は大丈夫だと全然大丈夫じゃないが返事して、食卓の席に着く。

もうすでにメンタルはボロボロだった。


「…」


そして私は自分の食器に乗っている物体を見て言葉を失った。そこには苦手な食べ物N o.1であるブロッコリーがモリモリに盛られた”ブロッコリー丼”なるものが鎮座していた。


そして

『あなたなんてブロッコリーを食べてブロッコリーになればいいんです!!』という置き手紙。


「…いただきます」


…ぐすん、泣きたい。

世界最強の暗殺者は最愛の夫が作ったブロッコリー丼を食べながら静かに涙を流した。



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【祝】

週間ラブコメ36位、週間総合167位でした!

読者の皆様、応援ありがとうございます!!

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