第10話 妻、過去を思い出す


三人の女をサッと片付けた。”光の貴夫人”を狙った別組織の構成員だろう。あとの処理は同業者の者に任せておこう。


ターゲットに向き直ると、ターゲットは信じられないという風な顔でこちらを見ていた。そりゃ暗殺者なんて今まで見たことがなかっただろうからな。無理もない。


だが次の瞬間には頬を赤くして挙動不審になっていた。

ん、どうしたのだろうか?


改めてターゲットで間違いないかを写真と照らし合わせて確認する。

黒髪黒目で純日本人という感じだな。特に目立った特徴はなし。男というだけで昨今珍しいが、私は興味はない。


…はずだった。


なんだろうかこの胸の高鳴りは。

ターゲットから目が離せなくなる。


月明かりに照らされてそこだけ世界が切り取られていているかのようだった。


きれいだ…


ドクンッと激しく胸が高鳴った。

私はその胸の高鳴りを隠してターゲットに近づいた。


「ターゲット確認(ボソ)」

「今から君を殺す」


「たいへんっ!怪我してる!」


ターゲットは三人の女たちの元へ駆けつけて、治癒能力を使っていた。淡い光色が路地の暗闇を照らした。


そしてさっきの戦闘時に怪我したのだろう。私の頰も若干切れていた。それを目敏く発見したターゲットは治癒能力を使って治してくれた。


こんな傷、放っておいても治るのに。


というか顔が近い。まつ毛が長いし、肌も綺麗。なんかいい匂いまでする。それにその瞳、とても魅力的だ。


「あの…?」


「はっ!」


不思議そうに下から覗き込んでいた。不覚。ターゲットがその気なら逃げられるか私は殺されているかされていた。ターゲットを前に固まるなんて私らしくない。


それにさっきから頬があつい。

こんなの初めてだった。

私はそれを誤魔化すために、なぜ自分を襲った人間の怪我を治すのか理由を聞いてみた。


「怪我している人を治すのは当たり前じゃないですか!!」


返答から典型的な善人な様子が窺える。特に深い理由はないらしい。ただそうしなければいけないと体が勝手に動くようだ。


でもその治癒能力には副作用があるはずだった。

”寿命減少”

使えば使うほど自らの寿命を蝕んでいく。

確かな証拠があるわけではない。ただ治癒能力と似た能力を持った人間が早期に原因不明の死を迎えたり、別の能力者の力を借りて推論を立てたりしていた。


私は次から次へと彼に質問を重ねていった。

困っている人を全て助けるその考え方は合理的ではないからだ。

だがいつの間にか私は彼に夢中になっていた。



「ーーいいんですよ僕は。

人助けができるのなら自分を犠牲にするくらい」


彼は少しの迷いもなくそう話した。

困っている人を全て助けて、その分自分は治癒能力の副作用で苦しんでいくのに。

さっきも容易に人の怪我を治癒をして身分がバレて女に追われていたというのに。


「…」


(何この子?すごくいい子…支えたい)


ターゲットを殺さない。

”世界最強の暗殺者”が初めて依頼を放棄した瞬間だった。


「私は君が好きだ」


「へ!?!?」


気づけば私は彼に告白していた。



、、、、、

 


ただ他人ではユキを近くにいて守ることができないと当時考えた私は告白したけど、今思えばあの日ただユキに一目惚れしただけだったような気がする。


「どうしたの?」


お腹を押さえる女を治癒したユキがこちらに戻ってくる。相変わらずあれからも人を助け続けている。ただ軽傷などは能力以外で治療する知識を身につけさせたのだが、能力で治す癖は抜け切らないようだ。


「…なんでもない。

少し過去のことを思い出しただけ」


「そっか、なら帰ろっか、疲れちゃった」


ユキは微笑み、私の手を繋いでくる。

こちらを上目遣いで見つめるその瞳。

全てが愛おしい。


「帰ろうか」


あとの処理は全て同業者の者に任せよう。

私はそう考えてユキと共に倉庫を後にした。



同刻、”世界最強の暗殺者”の闘いを見ていた者がいた。


「クレハ・フィーメール…お前は必ず……」


歪な笑みを浮かべた人影は宵闇に紛れ消えていった。



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【後書】

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