第8話 夫、誘拐される

「んっ…ここは?」


目を覚ますと見覚えのない真っ暗な場所だった。

だけど月明かりでどこかの倉庫内だということだけはわかった。


月明かりに照らされたホワイトボードには書き込みの激しい付箋がたくさんついた地図、カーペット上にはたくさん銃やナイフなどの凶器が並べられていた。まるで犯行計画の現場だ。


「うっ」


ふいに急な寒気でぞくっとし体がブルリと震えた。

今朝見たニュースを思い出したのだ。

『近辺の小学校に通う男子小学生が誘拐された』


(逃げなきゃっ!)


そう思い立ち上がり逃げようとするが体が動かなかった。見ると手足を縄で拘束されていた。


「けへへっ、じゅるっ、目を覚ましたかい?」


生理的に嫌悪感を感じる笑みを浮かべた女が近づいてきた。右手には銀色に輝くナイフ。

そして気づく。他にも五人くらい人の気配がする。


僕の顔は今真っ青になっているだろう。

これからいったい何をされるのか。

僕はひとり孤独に体を震わせた。



、、、、、



いったいどんな怖い目にあわされるのかと戦々恐々としていたが、蓋を開けてみればなんてことはなかった。


「けへへっ、ユ、ユキちゃんって言うんですか、か、かわいい名前ですねっ」


気味の悪い笑みの女はオドオドして僕に話しかけてくる。暗闇の中でもわかるくらい赤面していた。


「よ、よかったら、私とけ、け、け、」


他の五人の女性も僕のことを囲み、チラチラ見たり、ぼそぼそ話しかけてきたりしてきた。これまで男性と話した経験が全くなかったらしい。


「ユキちゃん、これ、よかったら!」

「あ、これもこれも!」

「いっぱい食べてね!」


縄は解いてもらえないけれどお菓子やジュースなどたくさんの貢ぎ物をされていた。手をつけないのも感じ悪いと思ったのでもぐもぐ食べる。

あ、これおいし。


「かわいい…」

「天使…」

「癒される…」


しめしめ。このまま時間を稼げばいずれ助けが来る。僕はそう信じて全力でぶりっ子をして六人の相手に集中する。


しかし


ドガガガガガガッッ


突然乱暴な音を立て倉庫の中に一人の人間が入ってきた。もしかして!と僕は思い音の鳴る方向へ視線を向ける。


「よぉ」


しかし実際にいたのは昏葉さんではなく、イカついチャラついた格好の巨体の女がいた。

うちの生徒の柔道部の子なんて比じゃないくらいに大きい。

そして僕は直感する。この人がこのグループのリーダーだ。


「あん?お前ら何してんだ?」


「いっ、いえ、安藤さん、これは、その…」


安藤と呼ばれた巨体の女は目敏くお菓子の袋やジュースの缶を見つけてギロリと女たちへ鋭い視線を向けた。


「おいおいおい〜こまるよ。そんなことされちゃぁ」


安藤は不自然なにこやかさで僕たちに近づいたかと思うと、僕に一番積極的に話しかけてきていた気味の悪い笑みの女の肩をポンポンする。

「えへ、へ、」と女は完全に頬を引きつらせていた。周りの女も媚びるように、機嫌を損ねないように安藤へと愛想笑いを浮かべていた。


ドガッッ


「ぐぶっ!?!」


そして次の瞬間いきなり気味の悪い笑みの女が数メートル吹き飛んだ。なにが起こったのかすぐに頭で理解できなかった。

原因を辿ると安藤が女の腹を殴り吹き飛ばしたことがわかった。


「かはッ、ゴホッコホッ」


女は腹を押さえてうずくまり口から血を吐いていた。

(やばい…)

僕はそのとき時間稼ぎなんて甘い考えだと悟った。

(今すぐにでも逃げなきゃっ!)

でも体が恐怖で動けない。


「ひゅーっ」


「ひっ!?」


気づくと安藤の顔がすぐそばにあった。


「改めて見たけど美人じゃねぇか、”獅子”の女郎も隅におけねぇなぁ」


獅子?誰のことだろう?


「はじめましてだな、”光の貴夫人”」


聞いたことのない単語の連続で僕はキョトンとしてしまう。


「あ?お前のことだよ。治癒能力持ってるだろ?それで”光の貴夫人”、”光の天使”、”癒し手”、”ヒーラー”、裏社会ではお前はそう呼ばれてるんだよ」


「え…」


個人情報なんて知ったものかというように当たり前に僕のことが知れ渡っている。知らなかった。芯から恐怖が沸き起こってくる。


「それでお前を誘拐したのはその力を使ってちとお金儲けするためだ、だからちょっくら力貸してくれや。そんで終わったら俺様のお婿さん兼性ペットにして飼ってやるよ、一生可愛がってやるよ、うひっ」


安藤が凄んでくる。口元は三日月型に歪んでいた。これはお願いしてる態度?断れるわけない。僕は口をぱくぱくとしていると安藤がボソボソと何かを呟いていた。


「以前にな、”獅子”、お前の妻には一度痛い目見せられたんだわ…その恨みを晴らす!あいつをボコしてこいつを目の前で犯してやる!」


「いやッ!」


安藤から殺気を向けられたように感じて反射的に逃げようと体を動く。


パシンッ


「っう…」


「逃んじゃねぇよ」


平手打ちを食らった。ツンとした痛みが頬に広がる。一瞬頭が吹き飛んだ錯覚をした。脳震盪かな、体に力が入らない。安藤は逃げられないように僕に馬乗りになってくる。


「それじゃぬぎぬぎしまちょ〜ね〜」


安藤は赤ちゃん言葉を発しふざけた態度で僕の服を一枚ずつ剥がしていく。抵抗したいけど力が入らない。昏葉さん以外に見られるなんて…

抜け出そうにしても上の安藤が重くて無理だ。


他の女たちも安藤さんに反抗できないようだ。ごめんよぉと呟きながら安藤の手伝いをしている。


やがて上下下着一枚にされる。安藤はそれを見て鼻息を荒くしていた。気持ち悪い。いやだ。


「いやッ離してっ!もう許してッうぐっ」


頬をギュッと掴まれてタコのような口になる。

いたい。


「また殴られてぇか?」


脅迫されて、視界の端に涙が浮かぶ。

僕はんーんー!と首を横にぶんぶん振ることしかできない。


「まあそのまま抵抗してくれや、そっちの方が俺も燃える…それにしても、ひっ、ひ、ひゃははははははははッ!!、あの”獅子”の夫を汚している、きひッ」


ごめん、昏葉さん、僕…



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