第7話 妻、夫の自慢をする
side クレハ
「こちらコードネーム”獅子”了解した」
上からの報告を聞いてスマホをしまった後、肺の中に溜まっていたものをゆっくりと吐き出した。
「ふっふ〜ん♪」
横を見ると愉快そうに足をパタパタさせてサンドイッチをぱくつく後輩(女)。
私と同じく黒のスーツに身を包んでいるが、髪を茶に染めて、ツインテールにしている。どこか同業者とは思えない出立ち。あざとい雰囲気がある。
私は午前中都心でとある要人の護衛任務をこなした後、こうして同業者の後輩とお昼休憩を取っていた。
私の仕事は暗殺だけではなく、護衛、諜報、尋問など多岐にわたる。
ただハニトラだけはしないと決めている。
ユキにしないでと言われたからでもあるが、一番は私がユキ以外の男性にというか人間に興味がなく触れたくないからだ。
「ぶーぶー、いいですね先輩は愛しの旦那様のお弁当があって」
どうやら後輩がここらへんの有名なご飯屋にいきたかったらしいが、私がユキのオベントーがあることを伝えるとむくれながらもコンビニでサンドイッチを買ってきて私に合わせてくれた。
今は河原で流れる川を目の前にのんびりしている。
暗殺者がこれでいいのか?と思わなくもないけど、息抜きは必要。いつも緊迫していると潰れてしまう。
それにこう見えても周囲への警戒は怠っていないから大丈夫。
「ねーねー、せんぱいー、旦那さんて可愛いんすか?」
「かわいい」
即答した。事実だから。
後輩が味気なさそうなサンドイッチを啄みながら尋ねてきた。私はユキのお弁当。少し優越感を感じた。
しかしこの後輩はユキのオベントーがあると言ってからしつこく何度も聞いてくる。
興味津々になり身を寄せてくる。
「それ以上近づくな、家族以外に許していない」
「おっと、失礼しました」
サッとを身をひいてくれる。理解が早くて助かる。
暗殺者ならこの範囲内なら相手を殺せる。家族以外には許していない距離感だ。
同業者は基本的に嫌いだがこの後輩だけは嫌いの中でも許せる範囲だ。
しかし殺気を出して少し強めに言ってしまった。
罪悪感がある。まさか後輩はこれを狙ったのか?
「それでそんなにかわいいすか?旦那さん」
「うん。みる?」
私はスマホを取り出す。無論先程のやりすぎた行動への謝罪の意味を込めてだ。
「はい…え!?いいんですか!?」
自分から興味を寄せておきながらその反応はわからない。
いや本当はわかっている。暗殺者などの裏を生きる者は基本的に自分の情報を安易に晒さない。それが弱点になるからだ。後輩はそれを心配しているんだろう。
でも大丈夫。たとえ後輩が敵に回ったとしても私が全てを終わらせる。
「大丈夫」
「はぁ…もう少し用心した方が…まぁ、おまいう案件ですけど…」
後輩は呆れたような素振りを見せた後、
一転して興味津々にスマホを覗きそんでくる。
「こ、これは!?」
ふ、驚いたか。ユキの可愛さに。今回は布教用コレクションからではなく、秘蔵コレクションから引っ張り出してくる。No.3題名は『料理中の
「先輩ネーミングセンスくそっすね」
「ん?」
「いえ、なんでもありません…いやしかしここまでとは…」
後輩は何かをブツブツと呟いていた。
「なんでこんな美人がド天然で仕事バカでバカな先輩なんかを…?宇宙の不思議…」
上手く聞き取れなかったが失礼なことを言われていることだけはわかった。
「それにしてもこのケツを鷲掴んで撫で回して舐め回したいっすね」
「あ゛?」
「はい!すいません!」
私がドスの効いた声を出すと、綺麗にその場でシュタッとトゲザを決めた。
ユキに対して性的な欲望をぶつける女を見ると問答無用で半殺し案件なのだが、この後輩の場合不思議とやる気は起きなかった。
そのようにわちゃわちゃ雑談していると、再びポケットの中のスマホが震えた。
(ん?仕事は終了したはずたが)
不思議になり画面見ると、非通知。
「…」
職業病特有の嫌な予感をピリピリと感じながら電話に出た。後輩も空気を読み息を潜めていた。
「もしもし?」
「お前の夫を誘拐した」
機械的な声。声から女か男かは判別不明。
環境音は聞こえてこない。第一段階場所特定失敗。
次の候補は室内、車内ーー
一瞬真っ白になりそうになった頭を、そのように冷静にさせて、頭を高速回転させ今入手できる情報を最大限割り出していく。
「ーーでは夜十時、この場所へ来い」
要件を一方的に話した後、プツッと電話が切れた。
ふぅーっと今日二度目のため息。
ミシッ
どうやら私は知らない内にスマホ握りしめていたようだ。画面に木の枝のようなヒビが何本も入っていた。
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