第4話 夫、キスをねだる
蛍と二人一緒にリビングへ降りてくると、食卓にみんなの分の朝ご飯が並べられていた。どうやら昏葉さんがしてくれたようだった。コーヒーを片手に眠気が覚めてキリッとした妻の姿がそこにはあった。
「よそって準備してくれたの?ありがとう!」
「これくらい。私はユキが作ったものを並べただけ」
それが案外面倒だったりするんだけど、昏葉さんはなんともないといったふうにクールにそう返す。
かっこいい。僕は心の中で悶えた。昏葉さんはこうしてさらりと優しい行動をとってしまうので心臓に悪い。もちろん嬉しいんだけど、外でそう振る舞ってモテすぎて浮気しないか心配だ。
「ぱぱ!このおみそしるおいしい!」
「そう?いつも通りだと思うけど?」
いち早くテーブルについた蛍が満面の笑みを浮かべて朝ご飯をぱくついていた。そのくらい喜んでもらえると作り手としてこれ以上のことはない。
「まいにちつくって!!」
「うん、そんなに喜んでもらえたならそうするね」
「…ぶぅ、ぱぱのおばかさん!!」
「?」
しかし僕の返答がお気に召さなかったようで頬を膨らませて拗ねてしまった。僕はどうやって機嫌を取ろうか思案する。そのときリビングのテレビからあるニュースが耳に入ってきた。『近辺の小学校に通う男子小学生が誘拐された』という内容だった。
「誘拐なんて…最近の世の中は物騒だね…」
「ぶっそうだね?」
難しい言葉に頭をこてんと傾げる蛍に対して丁寧に意味を説明してあげた。そして注意することにした。
「蛍ちゃん、ママに送ってもらうとはいえ変な人にはついて行かないように気をつけてね!困った時は?」
「ぼーはんぶざー!!」
「よし、いい子いい子!」
「えへへ…ぶっそうだからね!」
「うん、物騒だからね!」
お利口さんな蛍の頭を撫でていると、
さっきまで新聞を読んでいたはずこ昏葉さんがこちらをじーっと見つめてきた。
「?…あなたどうしたの?」
「ううん、なんでもない」
クールな素振りで問題ないと伝えてくる。
でも僕はわかるよ。自分の娘だもんね。やはり誘拐されないか心配なんだよね?
でも蛍の送迎は昏葉さんと私が担当しているから大丈夫なはずだ。なんたって”世界最強の暗殺者”がついているんだから。
心なしか昏葉さんがこちらに頭を傾けていたのはなんでだったんだろう?
さて、それぞれの出勤•登校の時間が迫り玄関に三人揃う。愛犬のアレックスがお見送りに来てくれた。今は登校前の蛍とじゃれついている。
「今日もかっこいいよ、あなた」
僕は昏葉さんのネクタイをキュッと絞めて整えてあげる。昏葉さんの仕事着は日によって異なるけど今日は漆黒のスーツ姿だった。長身でスラっとしている昏葉さんにぴったりで、金髪がまるで夜空の月を連想させた。とても映えていた。
尊いのでスマホで一枚パシャリ。
「ユキもかわいい」
お返しに昏葉さんも言ってくれた。僕が「容姿に自信がない」と打ち明けてから、毎日欠かさずに言ってくれるようになった。
でもどうやら言うのが少し恥ずかしいようで頬が少し赤くなっていた。僕たちの高校の時からの友人は昏葉さんのことを無表情で何を考えているのかわからないと言うけれど僕は昏葉さんの表情の機微が最初の頃から読み取れた。
「あなた銃とナイフは持った?」
まるでハンカチとティッシュは持ったかというように尋ねる。暗殺者にとって仕事道具であるのと同時に自身の身を守る大切な武器だ。
「うん、ばっちり」
そう言ってスーツ下に隠してある拳銃やナイフを見せてくれた。その仕草もカッコよかった。
「ユキもちゃんと持った?スタンガンや催涙ガス」
「僕は大丈夫だって!もう僕も25歳だよ?自分で対処できるって」
「…」
昏葉さんは少し不満そうな顔をしていたが最後には僕を尊重してくれた。仕方がないなという視線で僕を見つめる。
そしていつものいってらっしゃいのキスをする。
「んんっ…」
にゅるッ
「んむっ!?」
小鳥のような軽いキスをするつもりが、昏葉さんが舌を口内に入れてきて濃厚なものをしてしまう。
「…ん♡」
昨日もいっぱいしたばかりなのに僕はどうやら一般の男性よりも性欲が強いらしい。一度じゃ全然満足できないそうにない。
男性としてもう少し慎みを持った方がいいのかな?と思う反面、昏れ葉さんが受け入れてくれているからこのままでいいのでは?という甘えた考えも頭を占める。
「ねぇ、もう一回いい?」
やはり人間そう簡単には変われないようだ。結局僕たちはすぐそばに娘である蛍やアレックスがいることを忘れて盛り上がってしまい、つい我慢できずにシテしまいそうになったなんてことは断じてなかったです!!はい!
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【後書】
今日はあと21時と22時に投稿します!
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