第40話 辛い記憶
集合場所で樹たちに合流する。茜が用意していたシートがあったので、みんなで腰を下ろしてパレードを待つことになった。
「それにしても、あいつは何者なの?」
茜がどうしても我慢でいないというように聞いてきた。
先ほどの状況を知らない男子三人には、由奈が一生懸命事情を説明している。
「立花君は……高校の同級生です。俺の事、SNSとかで色々悪く言っていたらしくて、ちょっと苦手って言うか……」
「えー、それは辛い!」
みちるたち高校生は、そんなこととても耐えられないと口々に言う。
「じゃあ、他のみんなからもイジメられたりしたんですか?」
みちるが気づかわしげに尋ねた。
「クラスの中で直接的にイジメられた事は無かったけど、でも、やっぱり悪口言われるようになってからは、空気が変わったのは感じたね。立花君は学校でも目立つ存在だったし、いわゆるスクールカーストの最上位って感じで」
「陽人さん、高校の時辛かったんですね」
みちるの言葉に、みんなも頷く。
その心遣いが嬉しかったが、陽人は早くこの話題を切り上げなくてはと焦っていた。こんな楽しい場所にいて、こんな暗い話を続けるのは申し訳ない。
「元々クラスで影薄かったからね。別にそんなに辛いと思ったりしなかったよ。大丈夫」
「大丈夫なはず無いですよ! 心が痛かったはずです」
そう言う由奈の顔が辛そうだ。由奈にも悲しい経験があるのかもしれない。
「ありがとう、そうだね。でも、俺自分の悪口読んで無かったから」
「え! どうして? 読まないなんてもっと怖いです」
加恋の言葉に、慌てて陽人は弁明する。
「いや、別に意識して読まなかったわけじゃ無くて、読む暇が無かっただけで」
「すげえ。携帯チェックしないでいられること自体凄いっすよ」
樹が感嘆の声をあげる。
「え! 陽人さん、高校の時何かやっていたんですか?」
翔太もやまとも興味津々で尋ねてきた。
そうだよな。みんな不思議に思うんだろうなと陽人は思った。
滝川が慌てて口を開こうとするのを視線で止める。なるべく簡単に、明るく伝えようと決意した。
「俺、幼い頃に父親を、高校の時に母親を亡くしているんだよ。あのころは本当に忙しくて。高校行って、バイト行って病院に行って。高校は卒業証書をもらうためだけに行っていたから、友達いなくても問題なかったんだよね。携帯は、アルバイト先との連絡と、病院からの呼び出しのために持っていただけだし」
みんなが一瞬言葉を失った。
「お前、本当に大変だったんだな」
滝川がしみじみと言うと、みんなもシンとして聞き入った。
「SNSやってる暇がなかったから、自分の悪口を読まずに済んだだけです。貧乏暇なしっていいますからね。おかげで助かったのかもしれません」
「それは違うな」
自嘲気味な陽人の言葉に、滝川が静かだが重い口調で言った。
「陽人はその時、必死に生きることだけ考えていた。必死にがんばったから、今こうして生きている。そういうことだ。忘れるなよ」
「滝川さん……」
陽人は滝川の言葉に思わず泣きそうになった。グッと涙を堪えて頭を下げた。
「ありがとうございます!」
みんなが口々に陽人を賞賛する。あまりに褒められすぎてお尻がむずがゆくなってきた陽人、照れて赤い顔になった。
「あいつ! もっとコテンパンにやっつけておけばよかった!」
茜が本気で怒り、みんなも頷く。
「ありがとうございます。でも、もう昔のことですから、今はこんなふうにみなさんと出会えて、本当に幸せですから」
陽人は一生懸命幸せオーラを前面に押し出した。
その時、人々がざわめきだし、パレードの音楽が聞こえて来た。
夢の時間の続きを告げるように―――
茜の情報は完璧であった。
パレードのフロートが止まる位置や、キャラクターが躍る場所などを調べていてくれたので、間近で良く見ることができた。
明るい音楽に心が躍り、シャボン玉が雪のように舞い、まさに夢のような光景が広がっていた。
みんなが一気に盛り上がる。
手拍子をしたり、手を振ったり、一緒に写真を撮ろうと構えたり。
そんなみんなの様子を見て、陽人は一人ほっと安堵する。自分のせいでみんなが暗い気持ちを引きずらなくて良かったと思ったのだ。
滝川は横目に、そんな陽人の様子を捉えていた。
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