第39話 過去との再会

 ここから先は、茜が予約しておいたアトラクション順に楽しんでいった。

 

 乗り物に乗る時に気になるのが席のこと。

 高校生たちは男女に分かれてじゃんけんを始めた。

 三人ずつなので、二人席の乗り物の場合、一人余ってしまう。そこだけ男女のペアになるのは不公平だ……というわけで、最初からペアで座ることを思いついたらしい。

 運命の相手はじゃんけん任せというわけだ。

 アトラクションの度に色々なペアで乗ることができたので、アッと言う間に打ち解けていった。


 朝が早かったので、少し早めの昼食にする。

 虹色城レインボー・キャッスルの横にある大聖堂メイリー・カテドラルには地下に通ずる秘密の通路があって、『吸血鬼の饗宴ヴァンパイア・カフェ』へと繋がっている。黒と赤で彩られた店内は意外にも明るく、早い時間だったおかげで大人数でも席を確保することができた。ここの『B・BBrown Blood SWEET LUNCH』は、料理の隠し味やソースにチョコレートが使われていて大人気。JK女子は興味深々だ。

 もちろん、ボリュームのある定番メニューも揃っているので、体育会系男子の胃袋も満たしてくれた。


 夕方のパレードまでは自由行動になった。

 集合場所と時間を確認し合うと、みんなそれぞれ散っていくことになる。

 三人娘は乗り物に乗るよりも、虹色城レインボー・キャッスルの中を見学したり、フォトジェニックな場所での写真撮影をしたいようで、行く順番の相談をしている。

 樹達三人男子は乗り物にも乗りたいが、女の子たちとも一緒に行動したい。

 耳をダンボにして、三人娘の話を聞きながら、計画を立てるフリだけしている。

 そんな高校生の様子を、茜たちはにやにやしながら眺めていた。

 

「陽人君も若いんだから、樹たちと一緒に回ってもいいんだよ。どうしたい?」

 茜の気遣いに、陽人は「皆さんと一緒にお願いします」とにこやかに答える。

「それより、みちるちゃん達が一緒に回りたいと思っているかもしれないよ」

 珍しく良平が口を挟んだ。

「とんでもない!」

 真面目な陽人は即座に否定。

「陽人君なら紳士的にエスコートしてくれそうだし、写真撮ってくれる人もいて欲しいと思っているんじゃないかな」

 良平が笑いながら付け加えた。陽人はドギマギして固まっている。


「良平、純粋な陽人をからかうなよ」

 頬杖をつきながらいつも持ち歩いている懐中時計を眺めていた滝川が、慌てて助け舟を出す。時計をポケットにしまい込みながら、良平を一睨み。

「ごめん、ごめん」


「そうだよね。陽人君いないと、葵が寂しいもんねー」

「まあな」

 茜のからかうような言葉に対して、そっぽを向きながらも素直に認める滝川に、茜と良平は意外そうな顔をした。

 

 今までだったら、即座に否定していただろうに。


 意地っ張りで、他人に甘えるのが下手だった滝川。

 鎧を纏い、他人に踏み込まず、踏み込ませず、孤高の人のような生き方をしてきた。

 そんな滝川が、陽人にだけは素直に弱みを見せるようになってきている。

 それだけ陽人を信頼している証。そして滝川自身も、他人に頼っても崩れないだけの強さを身につけたように感じられた。


 茜と良平は、安心したように目を見合わせる。

 もう大丈夫。陽ちゃんも安心しただろうなと茜は胸を熱くした。

 

 そんな滝川の言葉に、陽人も嬉しそうに笑った。




 パレードの時間が近づいてきたので、決めていた見学場所へ向かおうと歩いていた時のことだ。

 陽人はふと、前から歩いてくるカップルの男性の方に見覚えがあると思った。


 案の定すれ違いざまに、男性の方が声を掛けてきた。

「あれ? 牧瀬まきせじゃないか」

 

 白シャツに濃色ジーンズと言うシンプルないでたちだが、片方の耳にはピアス、髪の毛の先は金色に近い色に染めている青年は、陽人の顔を見て、うっすらと軽蔑の笑みを浮かべた。

「やっぱり、牧瀬だよな。お前もこんなところに来れるくらい稼げるようになったんだ」

 

 「立花たちばな君……」

 陽人が初めて見せる険しい顔に、滝川が慌てて声を掛けようと戻りかけたが、茜の方が一歩早かった。飛び出して行って陽人の横から声をかけた。

「どなたかしら?」

 青年は急に飛び出してきた年上の女性を見て、鼻でせせら笑った。

「はは~ん。お前も隅に置けないな。こんな年上女性に貢がせて」

 茜が猛然と抗議しそうになったが、それより早く、陽人が怒りの表情で青年に詰め寄った。

立花たちばな、お前!」


「陽人さん、どうしたの?」

 その時、こちらは丁度通りかかったみちるが、陽人の腕を掴んだ。

「なに!」

 目の前に急に出現したハーレムに、立花たちばなと言われた青年は毒気を抜かれたような表情になる。

 陽人の右横には茜が、左横には、みちるたち三人娘が、立花に不信感のこもった目を向けている。

「ボッチで貧乏人だったくせに、ちゃらちゃらと女引き連れてこんなところに来やがって」

 立花は憎々し気に言い放った。


「俺のことは何て言われてもかまわない。でも、茜さんへの侮辱は許さない。さっき言ったこと謝れ!」

 普段は穏やかな陽人の、怒りのこもった声に気圧されて、立花は思わず陽人の胸倉をつかもうと手を伸ばした。

「いててて……」

 伸ばした手はあえなくねじり上げられ、情けない声をあげる。

 背後から滝川が腕を掴んでいた。

「俺の彼女に失礼なことを言われて、見逃すわけにはいかないね」

 滝川の横には、冷静スマイルを冷血スマイルに変貌させた良平の顔が。


 滝川に腕を掴まれたまま、茜の前まで引っ張って行かれると、みんなの目が茜に謝罪するように圧を掛けてくる。

「す……すみませんでした」

 不服そうに小声で言う立花に、良平が追い打ちをかける。

「何が、すみませんなんだ。ちゃんと謝らないとだめだよ」

「し、失礼なことを言って、すみませんでした」

「陽人君にもだよね」

 茜が立花を真正面から見つめて言う。

「わ、悪かったな。酷いことを言って」

 ようやく滝川の手から解放された立花は、腕をさすりながら一緒に来ていた彼女の元へ戻っていった。


「みなさん、すみませんでした! ありがとうございます!」

 陽人がみんなを見回して頭を下げる。

「お前は何も悪くない」

「でも、茜さんには嫌な思いさせてしまったし……」

「ぜーんぜん!  茜様はこんなことで傷つくほどじゃないわよー」

 茜はにこやかに陽人の肩をバンバンと叩いた。

「陽人さん、カッコよかったよ」

 みちるがそう言うと、由奈と加恋もうんうんと頷く。

「あ、ありがとうございます」

 陽人は急に力が抜けたように、肩を落した。

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