第37話 満喫ミッション 始動!

 『クラヴィス・アイランド』に行くことが決まった直後に、茜からアプリをダウンロードしておくようにと連絡がきていた。とても大切なアプリだから、絶対に入れておくようにと念押しまで。

 続けて、どのアトラクションに行きたいかなどのアンケートが来た。

 真面目な陽人は、色々調べて答えていたが、当然のことながら、滝川はスルー。しきりやの茜らしいなと思っただけ。

 アンケート結果に合わせて、茜が綿密なスケジュールを作って全員に送信していたのが『クラヴィス・アイランド満喫ミッション』だった。



 入り口ゲート。開園十五分前。なんとか全員集合することが出来た。

 たつきたち高校生男子も、みちるたち三人娘と数を合わせて三人来ていたので、総勢十名の大グループとなった。

 入場チケットは茜がアプリで購入済みだったので、並んで開園を待つのみ。


「葵さん、お久しぶりです!」

 樹が人懐っこい笑顔でやって来た。

「おう、樹。デカくなったな。もう良平とあんまり変わんないな」

「はい、まだまだ伸びてますよ」

「これ以上伸びないでくれ」

 良平が横でわざと眉間に皺を寄せてみせるが、樹は気づかぬ様子で意気込む。

「頑張ります!」

「だから頑張らなくていいから」

 良平は笑いながら樹の頭を縮めるように押し込んだ。

「中身は変わんねえな」

「えー、葵さん、酷いっす! 中身も成長してますよ」

 今度は滝川が、樹の頭をガシガシ撫でた。樹は嬉しそうに撫でられていたが、ふと思い出したように、他の二人の友人の紹介を始めた。同じバスケ部の仲間たちだ。

「この青いTシャツの奴が、我がバスケ部のお笑い担当、柳川翔太やながわしょうた。人を笑わすことにステイタス全フリしてる奴なんで、今日もがんばってくれると思います」

「よろしくお願いします!」

 柳川翔太が底抜けに明るい笑顔でペコリとお辞儀をした。

「こっちの爽やかイケメン風が、相沢あいざわやまと」

「おい! 樹、変にハードルあげるなよ。それにってなんだ、って」

 相沢やまとは慌てたような顔で樹を睨むと、こちらも滝川と陽人に行儀よく挨拶した。イケメンの定義がわからない滝川は曖昧に頷き、陽人は三人とも好青年だなと思ったのだった。


「それにしても、良平の車、よくこんなガタイのいいのが三人も乗ったな」

「ああ、ハンドルめちゃくちゃ重かった」

 後部座席に体育会系男子が三人も、よく乗れたものだと驚く。だが、後ろで盛り上がっている三人娘を思い出して話題を変えた。

「今日はみちるたちの事もよろしくな」

「はい!」

 樹はちょっと照れ臭そうな顔をしたが、元気よく返事をすると嬉しそうに三人へ視線を移した。


「みちる、久しぶり!」

 話し込んでいる三人娘に、樹は思い切ったように声を掛ける。

「うん、久しぶり」

 みちるの方も、恥ずかしそうに小さな声になっている。散々邪魔のようなことを言っていた勢いはどこへやら。急に人見知りな雰囲気に。

 そんな様子を懐かしいような、微笑ましいような気持ちで滝川は眺めていた。



「みんな予定表は確認したかな? 今日一日を楽しむために、まずスタートをがんばるわよ」

 茜がみんなを見回して、声をかけた。

「茜ちゃん、ありがとう!」

 みちるは友達を紹介しながら、茜にお礼を言っている。

「さあ、元バスケ部男子諸君! 日頃鍛えた成果を存分に見せる時が来たわよ。開場と共に、一直線に『クラヴィスハウス』へ向かいなさい! いーい、振り向いたり、他に気を取られたりして、遅れをとるんじゃないわよ!」

「ねえちゃん、園内を走ったら他の人の迷惑だろ! いい大人のくせして、よく考えろよ! だいたい俺たち受験生だから運動不足だって」

 弟に怒られてもなんのその、茜は樹を真っ直ぐに見据えて言い放つ。

「誰も走れなんて言ってないでしょ。全速力で気を付けながら真っすぐ歩きなさい。『クラヴィスハウス』は人気があっていつも長い列なの。なのにアプリの受付無し。でも、ここだけは絶対はずせないのよ。ねらい目は朝一なんだから。はい! 頑張ってー」

「はいはい。頑張りますー」

 樹は姉の性格を熟知しているので、それ以上何も言わず、他の二人にもよろしくと声を掛けた。

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