満月の冒険

紫栞

満月の冒険

「だいちゃーん、お風呂早く入りなさいよー」

「はーい!」

だいちゃんと呼ばれていたのはこの家の弟の鈴木大輔くん。まだ7歳の小学校1年生。

ついこの間ランドセルを買ってもらって大喜びしていたのにもうすぐ2年生になる。

鈴木家にはもう1人お姉ちゃんがいる。鈴木心ちゃん。少しお姉さんの11歳で今は5年生。

2人はいつも仲良く一緒にゲームをしたり、学校のことを話したり、一緒に出かけたりしていた。


そんなある日、心ちゃんは学校の授業で月の満ち欠けの勉強をした。

いつも何となく見ている月は右が右が欠けたり左が欠けたり…実はそれは太陽に月が照らされているからだった。

さらにいつも見えないけれど、昼にも月はひっそりと出ていた。


体育の授業の時、何となく心ちゃんは空を見上げる。うっすらとした月がそこにはあった。

「ほんとだ…」

心ちゃんは夜にあんなに明るく光る月が太陽に照らされているだけで自分では光を放っていないことが何となく信じられなかった。


家に帰り、お母さんに月の話を熱心にした。お母さんはにこにこと聞いてくれた。

大輔くんはなんの事かよく分からない表情で夕飯のつまみ食いをしている。


心ちゃんの興味は理科で月の単元が終わっても、ずっと続いていた。でもプラネタリウムに行っても月の話はそう長くしてはくれないし、月や星の載っている本も大抵は星のことが書いてあった。


心ちゃんは毎日夜に月を観察していた。そして、お父さんから年間の月の満ち欠けの表を貰い、今日は新月だの満月だのと家族を巻き込んで庭から眺めるのだった。


ある日の夜、あたりは真っ暗な夜の0時。普段なら心ちゃんも大輔くんも寝ている時間。

心ちゃんは目が覚めてしまった。トイレに行って戻ってきても眠くならない。困ったなぁと外を見るととっても大きくて綺麗な満月がそこにあった。


そっと大輔くんを起こす。大輔くんにも月を見せると寝起きの大輔くんもわぁーと表情が笑顔になった。

「こっそりさ、公園に行かない?」

「でもそんなことしたら怒られちゃうよ?」

「大丈夫よ、明日の朝には戻ってくるしちょっと行ってすぐに帰ってくるから」

「うん、わかった」

そうして2人は真っ暗な夜の公園に向かった。


家のすぐ近くにある公園のブランコ。いつもは取り合いでなかなか乗れないけれど、今は誰もいない。

あたりはとても静かで、昼間の喧騒は嘘のようだ。

みんな寝静まってひっそりとしている。


そんな中にある大きな満月はまるでみんなを見守っているみんなのお母さんみたいだった。

「綺麗だね。」

「うん、なんかいつもよりすっごーい大きい!」


少し経って2人は寒くなってきた。

「夜は寒いね」

「うん……お姉ちゃん帰る?」

「もう少し見たら帰ろっか」

「うん!」

「朝起きても今日のことは内緒だよ?」

「へへっわかった!お姉ちゃんとの秘密ね」

そーっと家に入る。そして、2人は静かに再び眠りについた。


朝目が覚める。いつも通りの朝だった。昨日の満月は嘘のように見えなくなって、その代わりに太陽が街を照らしている。

昨日の2人の大冒険を月もそっと隠してくれているみたいだった。


大輔くんと心ちゃんは2人して目が合うとえへへと笑いあった。この冒険のことはきっとずーっと大人になるまで2人の秘密だ。


Fin

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満月の冒険 紫栞 @shiori_book

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