段々状の人生模様
湿地帯を抜けた
十数人はいたはずである。
「や……」
総一朗の足が
真吾はいない。
山道の途中で別れた。総一朗は一人で茂平次に会うべきだと判断したからである。
けれど今、
なにか触れてはならない神社の神域ようにもおもえた。
「待たれよ」
と、声がかかった。
高くはないが地響きを誘発するかのような音であった。
刀は帯びていないものの、その足の
「や……!」
総一朗は理解した。あれはまさしく山﨑茂平次であろう。
息を整え総一朗は待った。
「いずれの
茂平次が
陪臣とは、藩公からみて、
「あ……失礼いたしました……田原と申します」
「ん……田原……? や……米寿さんか……おもっていたより、お若いの?」
「は……よくいわれます」
「して、
「あ……
「ん……いやに遠慮深いの……数々の論敵を
「いえ、ご来客中とは知らなかったもので……」
「あ、あれは……客ではない、家族だよ」
「は……?」
「丘の向こうの家には、もう、二、三十人ほどおる……いや、家と申しても勝手に建て増しした掘っ立て小屋のようなもの」
「は……?」
珍しく総一朗はうろたえていた。茂平次の言った意味がまったく
すると、そのまま
「……
ぼそりと茂平次が言った。
「は……? なにを? でございますか?」
「
「なるほど……それは知りませんでした」
「わしの代になっても、年に数人は家族が増えていく」
そこまで聴けば、総一朗にはなぜ“譲りの茂平次”と呼ばれているのか、その理由に得心がいった。茂平次は譲りたくて“利”を譲ってきたのではあるまい。そうすることで、いくばくかの実入りを獲得し、大勢の家族の暮らしのために役立たせてきたのであったろう。
「ご出世は……望まれませぬのか?」
どんな答えが返ってくるのかあらかた見当はついていたが、あえて総一朗はたずねてみた。
すると、茂平次はその問いは無視して、いきなり、
「米寿さんは……道場の師範代の座に固執していると聴いたが、まさかそのような肩書きにこだわるうちは、まだまだ若いの」
幾分、
「……わたしは旅に出るつもりなのです」
「な、なんと?」
「産まれは……彦根なのです。浪人の父は、井伊家への
「・・・・・・」
口をぽかんと開けたまま茂平次は総一朗のことばに素直に耳を傾けていた。
「……さようか……すまぬ、どうやら、わしは勘違いしておったようだ。いや、わしを
「それは……?」
「最初、人を斬れと命じられた」
「わたしをでしょうか?」
「さにあらず。江戸から戻ってくる
「なるほど、背後で
「待て……そこまでにしておけ。みなまで申すな。どうじゃ、せっかくだ、泊まってゆかんか、
意外な申し出に、総一朗は迷うことなく答えた。
「それはか
すると、茂平次はぼそりと言った。
「……わしも変人じゃが、米寿さん、あんたも相当変わっとるの」
それから汚れた歯をみせて愉快そうに笑い立てた……。
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