第二話 譲りの茂平次
因縁と企略
「
谷沢、丸目、山﨑は、かつて
……往時、
谷沢が一つ上だが、剣の同門のよしみで、三十も
伝えておいた待ち合わせの刻限になっても、茂平次は現れる気配もなかったもので、谷沢と丸目はまずは二人だけで旧交を温めていたのだ。
「あいつは・・・・まだ、
谷沢が
ややもすればわざとらしくもとれる湿った語調のなかに、茂平次に対する
いつものことである。
丸目吉之助にしても、あの茂平次に対して周りから寄せられる侮蔑の視線を
・・・・まず、八歳の頃。
その理由は、いたって素朴であった。
京菓子を貰い受ける約定のためであったらしい。貧しかった茂平次は、見るからに
・・・・これを皮切りに、金子や物品と交換で、剣の試合の勝ちを譲る回数が増えていった。さらには、十五、六になって山﨑家に持ち込まれた良縁を、大枚の金子や名刀、由緒ある掛け軸などと交換で、いわば嫁候補者を、その女人を切望する別の相手に譲り渡した。何気ない顔をして“右から左へ橋渡しをした”のである。
事実、二十歳のとき、江戸家老の縁者との縁談も、この谷沢に譲った。
交換したのは、谷沢家伝来の
いま、
『茂平次はまだ独り身か?』
と
けれど、人は口を
〈
と、
「ところで、聴いたぞ。あの善右衛門が、菊御前……いや、菊絵さまを娶るとか」
丸目が言った。
無意識なのであろうが、口が
(これで永沼中老は、ご正室さまに恩を売ったかたになった……実にうまくやった)
と、江戸ではそんな定評が定着していた。国元に側室が多いほど、江戸屋敷にいるご正室とその一族一派は、のちのち
その上、この先、菊御前が懐妊する可能性も否定できず、江戸のご正室周辺では国元のそういった情況に常に神経を
実は、谷沢
なぜなら、永沼中老を説き伏せたのは、米寿侍のようだと、江戸にも伝わってきていたからである。
(おのれ、田原よ……いまにみているがいい。七年前、論争で俺を負かしたおまえは、生涯の敵ぞ……)
谷沢はなかば
「おい、どうした? こちらの話を聴いているか?」
なにやら物思いにふけっている谷沢に、丸目が
「お、すまんすまん、やつのことをかんがえていた……」
「山﨑ならまもなく来よう」
「いや、茂平次のことではない……米寿侍のことだ」
「ん……? 米寿……? ああ、田原総一朗か。ははぁん、お
「茂平次を……? 焚きつける……?」
「おおよ、
「それはおれも聴いた」
「だからだ、山崎にな、藩道場の師範代にしてやる……と持ちかけてはどうだ? それと引き換えに、田原と試合させるのだ」
丸目はにやりと笑った。下品な笑みである。ふと、谷沢甚右衛門は、
(どうやら、この男も米寿侍を憎んでいるようだ……なるほど国元の丸目と茂平次の二人を利用する手があったか……)
と、おもわぬ展開に肌が寒気立つほど
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます