AM1:00 -君に会いたくなったら-

鈴木怜

AM1:00 -君に会いたくなったら-

『眠れないからいっそのこと怖いことしたいんだけど』

「こんな真夜中に電話して開口一番言うのがそれかい……」


 勘弁してほしい。眠気増し増しの状態で怪談なんてたまったものではない。


『恋人でしょ、付きあってよ』

「……わかったよ。付きあうよ」

『やたっ』


 電話の向こうでガッツポーズしている姿が目に浮かぶ。


『さて、1kHzの音を出す機械がここにあります』

「待って待って何それ」

『ラジオとかテレビを真夜中につけたらさ、ピーって鳴ってるでしょ、あれ』

「心当たりがあるのがまた何と言うか……てかなんで持ってるのさ」

『ガチャガチャで当てた』

「メーカーさんも難儀だなあ……」


 大変苦労されているのだろうなと思わずにはいられない。

 ガチャガチャはネタ切れになってきているのだろうか。

 事情は知るよしもないのだけれども。


『で、これで遊びたいなって。テレビから流れてくるだけでも怖いけどさ、もっと怖いシチュエーションがあるんじゃないかなって』

「確かに電話から流れてきたらとか考えると怖いなあ……」


 ピー、と音がした。

 体が跳ねる。

 半分来ると覚悟していてこうだ。自分に恐怖の耐性なんてないことがよくわかる。


「お願いだからやめて!? 心臓止まるかと思ったじゃん」

『ごめんごめん』

「……で、これをもっと怖くしたいの? もうつらいんだけど」

『まだ何もしてないよ?』

「これからのことを考えるだけでつらいんだよ!」


 認めよう。自分がビビりだと。

 それでもいいから怖い話から逃げたかった。


『じゃあ続けよう』

「なんで!?」

『反応が楽しいから』


 どうやら離してくれなさそうだ。


「……もう勝手にやっててくれない? 電話繋げたままでいいからさ、このまま聞いてたら呼吸が止まるかも」

『……はーい。勝手にやらせていただきますよーだ。気になって気になった結果眠れなくしてやる』

「それはそれで嫌だなあ……」

『ごめんなさい、私、この人と暮らします。今まであり』


 ピー、と音がした。


「ごめん無理だ! そっちの方がよっぽど耐えられない!」

『でっしょー?』


 恋愛感情に引っかけてくるのはずるい。

 おかげで完全に目が覚めてしまった。


「……あのさ」

『なに?』

「会いたいんだけど」


 率直かもしれない。エゴかもしれない。

 それでも共に過ごしたかった。


『いいよー。今から来る?』

「行く」



 ☆★☆★☆



 翌朝、二人して体がバッキバキになったのはここだけの話だ。

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AM1:00 -君に会いたくなったら- 鈴木怜 @Day_of_Pleasure

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