真夜中の魔物

ふさふさしっぽ

本文

 真夜中というのは小説を書くのに捗る時間帯だ。

「だ」と断言すると自分が世界の中心だと思うなと罵られそうだが、そうだという人のみ、賛同していただきたい。

 第一に朝や昼間と違って、夜は静かだ。

 今もほら、聞こえる音と言えば、ノートパソコンの起動してるヴーンだか、ブーンという機械音だけだ。あと、私がキーボードを打っている音。

 朝や昼間はみんなが活動しだすから、さすがにこうはいかない。

 早朝の方が頭がすっきりしていて、作業するのに捗るという意見もあると思うが、作業後に仕事が待っていると思うとどうもね……。

 小説をキリのいいところまで書き上げて、スッキリした気持ちでお布団にくるまり、眠りにつきたいんです、私は。

 おっと、話が逸れた。真夜中の魔物について書くんだった。

 真夜中にかぎって幽霊やお化けが登場するんだよね。

 最近めっきり減った心霊番組も、どうしてわざわざタレントさんたちは、日が落ちてから心霊スポットに出かけるのか? 朝や昼間じゃだめなのか? ダメなんでしょうね、雰囲気でないし。


 心霊番組、もっと増えてくれーー! ……じゃなかった、魔物魔物。


 真夜中に小説を書いているとき、幽霊やお化けよりも怖い、それはやってくる。

 厳密に言うと、小説を書くのに詰まって、他の方の小説を覗きに行ったとき、それはやってくる。


 私の小説って、すごくつまんないんじゃないか魔物。


 PV数とか、星の数とかじゃない。評価の数以前に、自分の作品が、とてつもなく稚拙で、ような気がする。


 もっともっと言うと、他の人の書き方が気になってしまう。


 私はこんなに人間の心理を掘り下げて書けない。

 私はまるでその場にいるかのような風景描写ができない。

 私は簡単な言葉ばかり使っていて、語彙力がない。

 私にはこんなセンスはない。


 ないものねだり。


 自分の強みや書き方を忘れそうになってしまう。

 まわりの圧力に飲み込まれてしまう。

 そんなとき、私は溜まりに溜まった小銭を数えることにしている。このまま書き続けていても、迷い心乱れた作品しか書けないだろう。

 小銭を十枚づつ積み上げて、それが十個になったら紙でくるくるまとめて一本にする……小銭がまとまった! と感慨深い。

 それを繰り返し、小銭棒が何本かになったとき、魔物はうすれはじめている。

 眠気で私の意識も薄れ始めている。今が好機とばかりにお布団にくるまり、夜が明ける前に眠りに落ちる。

 夜が明けきって、太陽がさんさんと輝くころ、魔物はどこかへ立ち去っている。


 私の小説って、すごくつまんないんじゃないか魔物は、それからも時折現われるが、上手くあしらう方法を分かっていれば、おそるに足らず。


 というか、お布団最強。っていう話でしたっけ。

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