#27「ついに決着がつくようです」

 ホームルームが普段よりも手早く終わり、いよいよ試験が始まる。


 今回実施されるのは10教科。つまり各教科100点満点で合計1000点満点だ。今回の難易度がどれくらいになるのかはまだ分からないが、成績上位者に食い込みたいのなら、少なくとも900点は必要だろう。

 無論、俺はそのさらに上を目指さないとならないのだが。


 テストが始まる直前、前方に座っている周防世莉歌が俺の方に振り向き、一瞥する。

 その表情は、余裕に満ちていた。

 だが残念ながら、その余裕も今だけだ。


 ――そしていよいよテストが開始される。

 数学から始まったそれは、2時間目の古文へと続く。

 手応えとしては、2教科とも十分だった。


 2時間目が終わったところで、その日はお開きとなった。

 これが5日間にわたって続くという訳だ。1日あたりの負担は少ないが、それだけに最後まで気は抜けない。

 今日は桃花や杠葉ちゃん、それと華恋と一緒に下校する約束をしているので、俺はそそくさと教室を出る。


 教室を出る間際、ふと周防世莉歌の席を見る。

 周防さんは、いつものように数人の取り巻きと談笑していた。

 ……その表情を見るに、悪くはなかったみたいだな。

 まぁ、今日の2つはそれほど難しくなかったからな。たぶん平均点も高そうだ。

 となると……勝負の行方は明日以降に持ち越しかもな。

 俺としては、むしろ臨むところだが。


◇◇◇


 玄関を出て校門前まで歩いたところで、俺は他の3人と合流する。

 その表情は、三者三様だ。聞かなくとも手応えがどうだったかは丸わかりだ。


 俺は取り敢えず、桃花に話しかけた。

「桃花は……テストの出来は悪くなかったみたいね」

「ええ……そこそこといったところです。これも皆さんと一緒に勉強をしたお陰かも知れませんね」


 ……嘘をつけ。

 お前はほとんど教える側に回ってたじゃねえか。

 そのせいで逆に桃花の成績を下げてしまうことになるのではないかと少し心配だったのだが、それはただの杞憂だったようだ。

 まぁ……最初からデキそうだもんな、桃花って。


 それと対照的に曇った表情を浮かべているのは、華恋だ。

「華恋の方は……あまり良くなかったみたいね……」

「そそそ、そんなことないよ……?」

 イカン。明らかに目が泳いどる。


「ただ、ちょっとだけヤマがハズレただけで……」

「ヤマ?」

「例えるなら、富士山かと思ったらオリンポス山だったみたいな……」

 いや、めっちゃハズレとりますやん。


 華恋は分かりやすく頭を抱える。

「うう……遥か昔のことなんか覚えて何になるのさ……。もっと生産的な話をするべきだよ……」

 どうやら華恋たちの学年は、社会のテストがあったらしい。

 そういや確かに、華恋って暗記とか、そういうしゃらくさい真似をするのが苦手だったな。


 落ち込む華恋を、杠葉ちゃんが慰める。

「ほら華恋ちゃん、明日からまた頑張ればまだ挽回できるよ」

 杠葉ちゃんの言葉を聞いた華恋は、むくりと顔を上げた。


「……そうかな?」

「うん! 明日は華恋ちゃんの得意な数学もあるし、きっと大丈夫だよ!」

「えへへ、そうかなぁー……」

 いや、立ち直り早くない?


「よぉし、明日から頑張るぞぉー!」

 さっきまでの落ち込みようは何処へやら、明日への意気に燃える華恋。

 ……単純なヤツだなぁ。


 それにしても、杠葉ちゃんって華恋の扱い上手いよな……。

 俺は杠葉ちゃんに近づいて、こっそりと耳打ちした。


「……なんかごめんね、気を遣わせちゃって」

「いえ、全然大丈夫ですよ。私は……こんな華恋ちゃんが好きなんですから」

「杠葉ちゃん……」

 華恋お前……良い友達持ってんな。


 杠葉ちゃんは人差し指を口元に持っていき、お茶目に微笑む。

「あ、華恋ちゃんには内緒ですよ?」

「ふふ……うん、分かった」

 華恋と杠葉ちゃんって、一見性格が真逆なのに――いや、だからこそ気が合うんだろうな。


 不意に華恋が、俺の手を引っ張る。

「さぁ、ねぇね! 帰ったら明日のテスト対策するから付き合ってよね!」

「あー、ハイハイ」

 俺は俺でテストがあるんだけどな……。

 ……まぁ、いいか。


 そして、1番手応えがなかったくせに1番上機嫌な華恋を先頭に、俺たちは自宅を目指したのだった。


◇◇◇


 そんな訳で始まった試験期間だが、俺はその後も好調のまま全ての試験を終えた。

 ……これはもしかして、もしかするんじゃないか?

 手応え的には、全て満点でもおかしくないような……そのくらいの感覚だ。


 テストの結果はその翌週に発表され、成績優秀者は上から30人まで廊下の掲示板に貼り出されることになっている。

 ぶっちゃけ成績優秀者に入ること自体は、そこまで心配していない。入っていないということはまずないだろう。

 問題は……俺と周防世莉歌の順位が、どちらが上なのかだ。


 ――そして、結果発表当日。


 廊下に貼り出された成績優秀者リストの前には、人だかりが出来ていた。


「ごめんなさい、ちょっと良いかしら――」

 俺はその人の群れを丁寧に掻き分けながら、前へと進む。

 そしてようやく辿り着いた掲示板前で、その張り紙を……下から順番に目を凝らした。


 周防世莉歌は……あった。

 合計点数956点。順位は、3位だ。


 そして、俺は――。

 天王寺朱鳥。

 合計点数998点。

 順位は――1位だった。

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