第5話 まぁいっか
今日は図書室で予約していた大好きな作家の本を借りることができたので、テツはいつものように集中して読み進めていた。
――あぁ、やっぱり伊坂先生の作品は面白いなぁ。俺もいつかこんな作品を書いてみたいもんだ。
冒頭からの予期せぬ展開にテツは早くも引き込まれていた。こうなると周りの物音も気にならず、ひたすらページをめくってゆく。
視界の隅に人影が見えた。カナがコーヒーとシフォンケーキを運んで来たんだろうと思い、テーブルの上に置いて読んでいた本を両手で持ち上げた。
「お待たせしました。ご注文の品を…(ゴニョゴニョ)…にゃ」
「ゴメン。今ちょっといいとこなんで、そこに置いといて」
物語に集中したいテツは本から目を話さずに言った。
「かしこまり…(ゴニョゴニョ)…にゃ。どうぞゆっくり…(ゴニョゴニョ)…にゃ」
「……ん?……にゃ?」
語尾に違和感を感じてテツが顔を上げた。
「な、なっ、カナお前、何やってんだ!」
そこにはエプロン姿で、ネコ耳と肉球グローブを付けたカナが、恥ずかしそうにモジモジしながら立っていた。
「だからぁー」
口を尖らせて少し怒ったような口調で言うと、一呼吸おいてから真っ赤な顔でテツの顔を見た。
「ブレンドとシフォンケーキお持ちしたのにゃ。どうぞゆっくりしていってくださいなのにゃー!」
「…………」
「…………」
ふたりは目を合わせたまま沈黙の時間が流れる。
「きゃあー!!!」
恥ずかしさに耐えきれなくなったカナが両手で顔を覆い、背を向けてしゃがみこむ。すると腰から何やらもふもふした長いものが見えた。尻尾だ。
「か、か、かわえぇ……❤」
ネコ耳と肉球グローブに語尾の「にゃ」でかなりのダメージを負っていたテツだったが、もふもふの尻尾で完全にノックアウトされてしまった。
「もう他の猫のところになんて行かないでにゃ。そんなことしたらカニャ(カナ)は悲しくて泣いちゃうのにゃ」
カナは猫撫で声で言うとテツの横に座り、ぴとっと身を寄せた。
それを見ていたマスターは「やれやれ」と呟くとエプロンを脱ぎ、そっと店の扉を開けて外へ出た。
「まぁいっか」
満足げな表情でそう言うと、扉に貼り紙をした。
『本日貸し切りのためお休みさせていただきます』
☆ ☆ ☆
お読みいただきありがとうございました。
実はこの作品、とあるイラストに多大な影響を受けています。そのことについて近況ノート(『もふもふ注意報』あとがき)にイラスト画像を添付して書いてますので、ぜひそちらもご覧ください。
破壊力満点のカナちゃんが見れますよぉ。
(あ、すいません。正確にはカナちゃんの画像ではなく、僕が勝手にそう思い込んでるだけなんですけどね💦)
もふもふ注意報 きひら◇もとむ @write-up-your-fire
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