第4話 負けるもんか!

「ねぇお父さん、お客さん全然来ないよ。これなら私がいなくてもよくない?」

「まぁまぁそんなこと言わないで。土曜日っていうのは出足が鈍いんだよ。これからこれから」


マスターは気にもせず布巾でカップを磨いている。

カナは明らかにやる気がなさそうだ。テツが来ると言うから、父に「土曜日はお店手伝うね」と宣言してしまった。それなのにテツはヒロたちと今頃ガスポで猫ちゃんロボットとやらにうつつを抜かしているに違いない。


「お父さんゴメン。私、ちょっと出かけてくる」


カナがそう言ってエプロンを脱ごうと手を掛けた時に「カランカラン」と音がして、店の扉が開いた。


「いらっしゃいませー」


カナが振り向くとそこにはテツが立っていた。

右手を上げて「よ!」と軽く挨拶する。カナは戸惑い気味に「お、おぅ……」と返すのが精一杯。


テツがいつもの席に座りメニューを広げていると、カナが水を持ってきた。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


何だか硬い表情だ。

来ないと思ってた待ち人の来店に複雑な気持ちが顔に表れてしまっている。


「ブレンドとシフォンケーキをお願いします」

「ブレンドとシフォンケーキですね。かしこまりました」


ぎこちない笑顔でオーダーを復唱すると単刀直入に切り出した。


「ねぇテツくん、今日はヒロくんたちとガスポに行くんじゃなかったの?」

「あぁ、あの話ね。実はさっき行ってきたんだけどスゴい人でさ。2時間待ちだっていうからとりあえず名前だけ書いてきた。一旦解散してまた後で行くことになってるんだ」


テツの穏やかな笑顔に、カナは胸の奥が少し痛んだ。でも次の瞬間、何故か猫ちゃんロボットへの対抗心がメラメラと芽生えてきた。


――猫ちゃんロボットなんかに負けるもんか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る