夜桜

最時

美しい世界

 午前0時。

 週末の交代勤務を終え、同僚達と仕事や休日の話を少しして、一人車に乗り込み帰路につく。


 空いた幹線道路を少し速度を上げて走らせる。

 深夜までの勤務は大変なこともあるが、混雑に煩わされないことはいいことだ。

 今週の出来事、来週の予定、そして日付の変わった今日の事などを考えていると、ラジオのパーソナリティーが桜と天気の話をする。

 そういえば今年は桜を見ていないなと。

 今日は珍しく信号に捕まらず、少し早くに家に着いた。


 車を降りると冷たく乾いた空気代わり、暖かく湿った空気が流れていた。

 雨が降るかも知れないが、少し散歩をすることにした。

 

 子どもの頃から住んでる、良く知っている町だが、真夜中は少し違って見える。

 こんな時に人と出くわせばドキッとするがそれもなく一人、街を歩く。

 

 真夜中の住宅街。

 時折、遠くで車の音が聞こえるが静かだ。

 道の真ん中を歩く。

 今だけは私の道。


 真夜中の神社。

 所々の灯りが大きな木々を照らし神秘的。

 何もいない境内を歩く。

 今だけは私の神社。


 そして境内の大きな桜に着いた。

 満開の桜が橙色の灯りに照らされている。

 長椅子に腰を掛けて眺める。

 今だけは私の樹。


 横になって桜を見上げる。

 湿った風が枝を奏で、花びらを舞落とす。

 視線を移すと流れる薄雲が月を飾る。

 美しく、落ち着く、夜夢のような景色。


 目を閉じると額に水を感じた。

 身体を起こし現へと戻る。

 これまで何人がこの景色を眺めてきたのだろうと。

 樹、自然、世界は美しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜桜 最時 @ryggdrasil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説