第1話その2

数千年も生きてきた大樹や地球が生まれた頃からそこに有った巨大な岩石、海や湖沼などの水塊、あるいは気象要素によって複雑に変化する天候や様々な成分を内包した大気そのもの。

これらには、人智を超えた何かが宿っている、と自分は思っている。

ほら、昔から八百万の神とかいうでしょ。

山にも川にも神様が宿っているって考えたら、自分達の手に負えないことでも納得がいくような気がしない?

悪いことが起きても、バチが当たった、ご縁がなかった、運が悪かった、なんて言ってね。


「あの子、何で一人で山に行ったんだろうね」

翌日の学校では、山狩りをしただけあって、彼女の噂でもちきりだった。

「さあ。でも、あの辺って神社とかあるから、お参りに来たとかじゃないの」

「いやいやいや、それはそれで怖くない?山の中の神社に一人で来るってヤバいでしょ」

「あーでもたまーに散歩に来てる人もいるよ」

「そうなん。あ、そういえばさー……」

ヒカルはスマホを見ながら、SNSで回ってきた豆知識に話題を変えた。

彼女の件についての関心は終了したようだ。

クラスの他の人たちも、登校後すぐは彼女の話をしていたのに、ホームルームが始まる前にはもうこの話題に飽きていた。

情報が少なすぎるのだ。

こうやってごく自然に私たちの思考からフェードアウトしていった話題は数え切れない。


しかし、そこへ一石を投じた者がいた。

担任のAだった。


「昨日の夜、行方不明になって捜索された生徒の件はみんなも知ってるよね。彼女は体調を崩して、今入院をしてるんだけど、事故の前後のことを覚えてないんだそうです。だから、この件について何か知っていることがある人がいたら、先生たちに声をかけてほしい」

続けて、Aは自分の故郷の山であった不思議な出来事について話したのち、自然には人智を超えた何かが宿っているのではないかという自説を展開した。


「何、これ事件なの?」

「誰か何かやったってこと?」

ホームルーム後、クラスが一気にざわついた。

自分もなんだか胸がザワザワして、あの時のことを思い出そうとしていた。

彼女は、本当に一人だったか?

誰か一緒にいなかったか?

それか彼女の前後に誰かついて行かなかったか?

記憶を辿っていると、また、誰かがこちらを見ているような気がした。








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