第2話

 度々壊れるこの世界は、再び、知らず知らずのうちに悲鳴をあげていた。きっかけは分からない。ただただ流れてゆく日々を、だらだら流れてゆくままに、大好きなピーナッツを片手に、面白くもないテレビを眺めていた。日常を優雅に過ごし、平穏な世界の中に身を落としていた。日々の中で、多少のひび割れが生まれたとしても、壊れることはないと信じていた。だからこそ、彼女が投げ捨てた言葉を理解することができなかった。

「別れよう。」

手を伸ばせば届く距離に、一歩進めば届く距離に、落ちたはずの言葉だった。思うように手が届かず、触れようとしても触れられない。触りたくない。感情が揺れ動き、心に嵐がやってきた。雨はほぼ水平に降り注ぎ、雷は下から上へと落ちていく。言葉の正解を、探せど探せど見当たらない。深緑の森林で、小さな四つ葉を探している。何がきっかけか、何が悪かったのか、何を思っているのか、何故怒っているのか、そもそも俺が悪いのか、別れた後はどうなるのか、俺以外の人とやっていけるのだろうか、後悔しないだろうか、後悔してもやり直せない、やり直しても後悔は残る、壊れた世界は治せない。俺は嵐の影響で、開かなくなった口を無理やりこじ開けた。

「後悔しない?」

未練に塗れた言葉を放ち、後悔した。彼女は震えるように頷いた。嬉しいのか悲しいのか、彼女の感情は到底理解の及ばない場所にある。彼女と歩く、彼女と進むはずだった未来を思い描く。まるで映画のフィルムのように流れていく。5年後も10年後もそばにいるつもりだった。同じ世界で生きていけるつもりだった。最期の瞬間まで、共にゆっくり歩くつもりだったのに。思い描いた未来は簡単に崩れていく。彼女と違う未来が見えない。俺は壊れた世界に残され、その場に立ち尽くし、一歩も前へと進めずにいるだろう。彼女は笑顔で、俺の言葉を切り裂いた。

「ぜぇーんぜん。まーったく後悔しないよ」

彼女が背を向けた途端、目が湿っていくのを感じた。

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壊れた世界の治し方 @Yuzu0609

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